第3-4話 「保健委員長なんだってね」

 建文が帰宅し、母親から晩御飯の支度ができたと声をかけられた私は自室を出てリビングに向かった。


 リビングに到着した私は椅子に座り食事を取り始める。


「今日も美味しい。流石ママ」

「毎日十祈がそう言ってくれるから頑張って美味しいものを作ろうって思えるのよ。……それより、さっき来てた彼、お友達なの?」


 ママからそう訊かれた私は一瞬答えに悩んだ。


 これまで上辺だけの友達は五万といたけれど、上辺だけではない本当の友達と呼べる人はいなかった。

 健文は私を友達だと言ってくれたけど、私の方から健文を友達だと答えるのは厚かましいかもしれない。

 

 でも、健文は私にとってすでに特別な存在になりつつあり、ママには友達だと自信を持って紹介したかった。


 厚かましいかもと不安には思ったが、わざわざ友達かどうかを確認して、「俺はそう思ってるよ」と返答をもらったのだから自信をもって友達だと紹介しても問題ないだろう。


「うん。友達だよ」

「そう。わざわざ看病に来てくれるなんて良い子ね」

「……うん」

「彼、保健委員長なんだってね」


 ママの言葉に私は体を硬直させた。


 ママに健文が保健委員長だと知られたら何を言われるか分からないと危惧していたので、その事実を知られてしまっていたことに驚いてしまった。


 私の父親は今私たちが通っている学校で保健委員長をしていたからだ。


「……うん。そうだよ。でも保健委員長だからって彼と仲良くしてるわけじゃない。健文は私が通学路で蹲ってたところを助けてくれたの。その後も私のわがままを聞いてくれる優しい人だったから、彼と友達になったの」

「……優しい子なのね」

「うん。凄く優しいよ」

「一応訊くけど、お母さんとお父さんのマネをしようとして彼と友達になったんじゃないわよね?」

「そんな理由で友達になったんじゃない。私は彼の優しい部分に惹かれて友達になったの」


 私はママの目を真っ直ぐ見て、自分の正直な気持ちを伝えた。

 私がそう言うと、ママは俯き一瞬黙り込んでしばらくしてから顔を上げた。


「親子ってそんなところまで似るのねぇ。それとも保健委員長をやる人は皆んな優しくて素敵な人なのかしら」


 何を言われるかとドキドキしていた私だったが、ママはテンション高めに話し始め、私は安堵した。


「保健委員長だから皆んなが皆んな優しくて素敵な人ってことはないでしょ。ただ偶然お母さんと私はその中でもいい人に出会ったってことなんじゃない?」

「そうね。運が良かったのね。彼のこと、大事にするのよ。十祈と彼がどんな関係になっていくかは分からないけど、あなたの行動次第で十祈と彼は私とパパみたいな関係になれるだろうから」

「ありがとママ」


 ママの心配はもっての他だ。


 ママからしてみれば私はママとパパの真似をしているように見えたって仕方がない。

 それでも私は、これまで学校の保健委員長が誰かなんて気にしたことなかったし、それがたまたま健文だっただけである。


 ただ、この事実を健文に知られたとしたら、それこそ健文は私が健文の本質を見ずに、健文が保健委員長だから友達になったのだと思われてしまいかねない。


 ママには健文が保健委員長だと知られてしまったけど、健文には私の父親が保健委員長だったことは絶対知られないように気をつけないと。


 そんな事を考えながら、私はいつも通り温かくて美味しいご飯を食べ進めた。

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