第3-3話 「全裸に決まってるじゃない」
麻薙の母親に遭遇するという問題は発生したものの、無事部屋に戻った俺は相変わらず保健委員長の仕事の範疇を超えた依頼をされる。
「片づけありがと。ちょっと部屋が暑くて汗かいてきちゃったから服を脱がしてほしいんだけど」
仮にお茶を飲んでいる状況でこの依頼をされたとしたら、間違いなく漫画のようにお茶を口から吐き出していただろう。
冷静になって考えてみれば、今着ている制服を脱がして肌着にさせてくれ、という依頼だということくらいすぐに理解できる。
しかし、思春期真っ只中の俺が同級生の女子、それも学校一の美少女と名高い麻薙からそんな依頼をされてしまえば、一瞬麻薙のあられもない姿を想像してしまうのは男子高校生の性というもので、生理的には寧ろ健全であるとすら言えてしまうのではないだろうか。
「分かった。肌着にさせるだけでいいだろ?」
「何言ってるの? 全裸に決まってるじゃない」
「ブフォッ」
どうやらお茶を口に含んでいなくとも、人間驚く時は似たような反応になってしまうようだ。
「ぜ、ぜぜ、全裸っておまえ何言ってるか分かってんのか!?」
「ふふっ。動揺しすぎよ健文くん」
「だ、誰だってこんなの動揺するに決まってるだろ!?」
「冷静な人ならさっきの発言が冗談だってことくらいすぐに分かると思うけど?」
麻薙の指摘が正しすぎて反論する気にすらならなかった。
なぜ俺は「全裸に決まってるじゃない」なんて言葉を真に受けてしまったのだろうか。
自分は冷静な人間だと思っていたが、冷静のれの字も感じられないほどの動揺っぷりだった。
でもだって麻薙なら先程の発言をまじめに言っててもおかしくないし、俺は悪くない。
「紛らわしい発言はやめてくれ」
「善処するわ。はい、それじゃあとりあえず上の制服だけ脱がしてもらってもいいかしら」
「べ、別に構わないけど……」
--あ。
麻薙の依頼を了承しそうになったところで思い出した。
「そういえばさっき一階で母親にあったぞ」
麻薙の母親は帰宅してきているんだった。
それなら制服を脱がすなんて作業は同級生かつ異性の俺がするべき作業ではない。
俺がそう言うと、麻薙は大きな音をたてながらベッドの上に座った状態から滑り込むようにして倒れこんだ。
「お、おい。大丈夫か?」
「だ、大丈夫よ。……それより、母親に会ったと聞こえたのだけれど、私の聞き間違いかしら」
「いや、確かにそう言ったけど」
俺がそう返答すると、麻薙は再びベッドに滑り込むような形で倒れこんだ。
「本当に大丈夫なのか? あからさまに様子がおかしくなってるように見えるんだが」
「え、ええ大丈夫。母親に会ったのね。何か言ってたりしたかしら」
あ、これはもしかすると、母親に会ったことで父親が亡くなっていることを知られたのではないかと勘繰っているのか!?
それなら俺は何も知らない、聞いていないのフリをしなければならない。
「挨拶しただけで他は何も聞いてないぞ」
「そう。それならいいんだけど。それより母親が帰ってきたのならもう帰ってもらおうかしら」
「お、おう。それもそうだな」
「迷惑かけてごめんなさい。ありがとう」
こうしてどこか追い出されるような、そんな違和感を覚えながら麻薙の家を後にした。
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