第3-2話 「保健委員長?」

 麻薙のように容姿端麗で文武両道ならば何不自由ない人生を送っているものだとばかり思っていたが、麻薙には麻薙なりの悩みがあるようだ。


 麻薙の悩みとはレベルが違うかもしれないが、俺自身目つきが悪いことで周囲にあまり人が寄って来ないので、同じような悩みを抱えている麻薙に勝手に親近感を覚えている。


 ただこちらが勝手に親近感を抱いているだけなので、麻薙は俺のことなんてなんとも思ってないんだろうけど。まあ友達とは思っているらしいのでそれは素直に喜んでおくとしよう。


 それにしたって、なんで俺なんだろうな。


 確かに俺が麻薙を助けた理由に下心なんて皆無だし無害そうな人間であると判断される可能性はある。


 とはいえ、これまでも誰かに親切にされたことは幾度となくあるだろう。

 その親切のほぼ全てが下心ありきだったとしても、その全てを下心ありきだと見抜くのは難しいはず。


 だとするならば、一度親切をしただけの俺をこうして嘘をついてまで自宅に呼ぶのは何故なのだろうか。

 まあ嘘だって決まったわけではないけどな……。本当に体調が悪い可能性も無くはないが、今のところ麻薙からは体調が悪い様子は見受けられない。


 --そんな答えのない疑問に悩むより、今はとにかく何も考えずに早くおかゆを持って行ってやらないとな。


 昔こうして妹にも作ってやったっけな……。


 まさか昔妹に作っていたおかゆを学校1の美少女である麻薙に作ることになるとは思っていなかったが、保健委員長には意外と料理のスキルが求められるのかもしれない。


 できあがったおかゆを持って俺は麻薙の部屋へと戻った。


「ほら、できたぞ」

「ありがと。それじゃあ食べさせて」

「何言ってんだよ……。それくらい自分で食べられるだろ」

「病人がおかゆを食べさせてもらうのは昔からの決まりでしょ。ほら早く」

「いや昔からの決まりとか知らんけど」

「いいから早く」


 なぜ俺は今麻薙の部屋で麻薙におかゆを食べさせろと懇願されているのだろうか。


 このお願いもまた、保健委員長の仕事の範疇を超えている気がしてならない。


「……分かったよ。ほら」


 おかゆを掬い、スプーンを麻薙の口へと運ぶ。


 なんだろう。この背徳感じみた感情は……。


 口を開けた麻薙の表情が妙に艶かしく感じる。


「んっ……。美味しい」

「だろ。昔から妹に作ってたから。お粥には自信があったんだ」

「へぇ。やっぱり優しいのね」

「別に優しくねぇよ。ほら、早く食べろよ」


 そう言って俺は麻薙の口にお粥を運び続けた。


「よし、それじゃあ片付けてくる」

「いいわよ。置いておいて。後で片付けるから」

「いいよ。病人なんだろ」

「……じゃあお言葉に甘えようかしら」


 早く終われと思えば思う程時間が過ぎるのが遅く感じたが、なんとかお椀の中のおかゆを全て麻薙に食べさせ終えた俺はそそくさと麻薙の部屋を後にし、キッチンへと向かった。


 その途中、和室の扉が少し開いているのが目に入り、なんとなく中が気になった俺は少しだけ和室の中を除いてみた。


 すると、そこには小さな仏壇が建てられており、そこには男性の写真が飾られている。


「……誰だあれ」

「あれは十祈ちゃんの父親よ」

「そうなんですか……--ってだれ⁉︎」


 俺が和室に目線をやっている間に、俺の後ろには1人の女性が立っていた。


「私は十祈ちゃんの母親よ」


 母親なら俺が驚かないようにもう少し気を配ってほしいところなんですけど……。


「あ、そうなんですね。麻薙さんが体調が悪いってことで看病しにきてたんです。僕、保健委員長なので」

「……あら、保健委員長?」

「……? はい。保健委員長ですけど」

「そうなのね……。とりあえずそれ、私が片付けておくから、もう部屋に戻ってあげて」

「あ、ありがとうございます」


 少し間があったのが気になるが、おかゆのお椀を母親に託した俺は麻薙の部屋へと戻った。

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