お仕事3
第3-1話 「俺はそう思ってるよ」
自分で言うのも気が引けるが、俺は約束や言いつけを守らないような人間ではない。
目つきが悪いせいで友達は少ないが、それを気にせず近寄ってきてくれた千国にはそういう部分を評価してもらって今でも仲良くできているのだと思う。
今回だって何とかして拒否しようとしたんだ。
『ちょっと寄りたいところがあるから』
そう言った俺に対して、
『自分が死なない範囲なら何でもしてくれるんでしょ?』
と最早脅しのように俺が言ったセリフを乱用してきた麻薙。
千国から、あまり麻薙に関わるな、と言われていたのですぐに引き下がったわけではなく、何度も食い下がりはした。
しかし、
『自分が死なない範囲なら何でもしてくれるんでしょ?』
の一点張りで俺が帰宅することを許さなかった。
確かにそうは言ったが、まさかその言葉がこれ程までに重たい意味を持ち、脅しの道具として乱用されるとは思っていなかった。
結局麻薙からの依頼を断りきれなかった俺は麻薙の自宅前にいる。
「さ、入って。親は今いないから」
「そりゃそうだろ。親がいるんだったら俺がこうして麻薙の家に来た意味がないんだから」
今日は母親の帰りが遅く看病してくれる人がいないから家に来て看病してしほしい、と言われて来たのに、母親がいるとなったら俺が来た意味がなくなってしまう。
麻薙のセリフに呆れながらも麻薙家に入り、部屋に向かう階段を昇る。
……ん? そういやなんで麻薙を看病するのが俺である必要があるんだ?
他にも友達くらいいるはずなのに。
「ここが私の部屋よ。ちょっと疲れたからベッドに横になるわね」
学校中の男子が入りたくて仕方がない麻薙の部屋に入った驚きよりも、先程思い浮かんだ疑問の方が気になり訊いてみることにした。
「なぁ、体調が悪い時に質問して悪いんだけどさ、何で俺に看病を頼むんだ? 他に看病がお願いできそうな友達なんてたくさんいるんじゃないのか?」
「……」
俺が質問すると、麻薙はベッドに寝転がったまま黙り込んでしまった。
もしかしてこの質問、地雷だったのか?
「すまん。今のは忘れてくれ」
「私、友達いないのよ」
もし地雷を踏んだのだとしたら悪いことをしたと今の発言を撤回しようとしたが時すでに遅し。
やはり麻薙にとってこの質問は地雷だったようだ。
「そ、そうか……。」
「そんなに申し訳なさそうにしなくても大丈夫よ。別に仲間はずれにされてるわけじゃないから。一緒にご飯を食べたりとか連絡を取ったりとか、それくらいのことは普通にやってるわ。ただ、一線を越えて仲良くなれる友達がいないのよ」
麻薙は気付いていないのかもしれないが、麻薙の周囲にいる人間は俺と同じ感情を抱いているのだろう。
麻薙は学校1の美少女で近寄るのすら恐れ多い存在だ。
可愛くて勉強もできて運動もできる麻薙の側にいるのは大多数の人間にとって居心地の良いことではない。
そう考えると、麻薙に仲のいい友達がいないのも理解できる。
「そっか。変なこと訊いて悪かったな。とりあえずお粥でも作ってくるから、ゆっくりしててくれ」
「……あなたはもう友達?」
俺が部屋を出てキッキンに向かおうとしたところで後方から質問を受けた。
その質問に対してすぐさまイエスと言える程自分に自信はないが、今はきっと、こう回答するのが最適解なのだろう。
「俺はそう思ってるよ」
そう回答すると、後方からクスッと微笑むような声がした。
「私もそう思ってるわ」
その言葉を聞いた俺は返事は返さず、腕を上に上げてOKポーズで返事をしながら部屋を出てキッチンに向かった。
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