第5-2話 「まさぐりたそうな顔してたから」

「それでは委員会をはじめます。まず前回作成の依頼をしていたっ……手洗いシートを回収しますので、順番に僕の方まで回してきてください」


 委員長の俺がそういうと、後ろの方からシートを順番に前へと送ってくる。


「千国、今日委員会欠席で回収でっ……きない委員をメモしといてくれるか?」

「りょうか~い」

「すまん、助かる」

「保科くん、これ手洗いシートの掲載場所ね」

「先生、ありがっ……とうございます」


 千国や直美先生が委員会の円滑な進行に手を貸してくれており、手洗いシートの回収をしている間に他の業務に手を回そうとしているのだが……。


「おい麻薙、さっきから俺の膝を自分の膝で小突いてくるのはやめてくれ」

「あら、触ってあげたら嬉しいかと思って触ったんだけど」


 麻薙は俺たちの前に置かれた机が会議用の机で、自分たちの下半身が他の生徒から見えないのをいいことに俺の膝を自分の膝で小突いてきている。


 無視しようかとも思ったが、膝を小突かれる度に言葉が止まりそうになるので流石に注意した。


「触るなら責めて委員会以外の時に……」

「委員会以外の時ならいいんだ」


 ……失言してしまった。


 とにかくこの場を凌ごうとして出た発言ではあるが、恐らく麻薙は今後この発言を盾にして面倒くさい絡みを繰り返してくるのだろう。


「いいわけないだろ。とにかく委員会中は大人しくしててくれ。ここで何かやらかして信用を失ったら今後仕事がしづらくなるだろ」

「はーい。迷惑はかけないよう頑張るわ」


 麻薙はそう言ったのに、結局委員会の間、ずっと俺の膝を小突いたりまさぐったりしてきてご満悦な表情を浮かべていた。






 麻薙からの攻撃を受けながらも無事に委員会を終え、いつも通り俺と千国、それに追加して麻薙が委員会後の教室に残っていたのだが、何やら雰囲気は間違いなく悪い。


「麻薙さん、真面目に仕事をしないなら別の人に代わってもらいたいんだけど」

「あら、それは言いがかりだわ。確かに私は健文の膝を委員会中ずっと小突いたりまさぐっていたけれど、やるべき仕事は問題なくこなしているはずよ」

「そ、それはそうだけど……」

「なら口出ししないでもらえるかしら」


 千国の方が間違いなく正論だというのに、何故麻薙はこれ程自信満々に言い返すことができるのだろうか。


 麻薙の態度があまりにも大きいせいで正しいのは麻薙だとさえ勘違いしてしまいそうになる。


「で、でも委員会中に男の子の膝をまさぐるなんてダメだよ!! 真面目に話を聞かないと」

「そんなにまさぐりたいなら千国さんもまさぐればいいじゃない」

「ま、まさぐらないよ!! 別にまさぐりたいなんて思ってないんだけど!?」

「まさぐりたそうな顔してたから」

「そ、そんな顔してないんだけど!? というかそのまさぐるって言い方やめない!? 普通に触るとかでよくない!?」


 麻薙の勢いに押されている千国の姿を見ているのは少し不憫になってきたので助け舟をだす。


「おい麻薙、あんま千国をいじめてやるなよ」

「いじめるなんて失礼ね。私は楽しくお話してたつもりだったわ」


 あれが楽しいお話だとするなら麻薙はもはや悪魔だろう。


「それならもうちょっと楽しそうに話せよ」

「私は楽しかったけど。とにかく私は保建委員の座を誰かに譲るつもりはないから。それじゃあ健文くん、またね」

「お、おう」


 そう言って麻薙は教室を出ていった。


「ほし君、いつからあんなに麻薙さんと仲良くなったの?」

「まあ補修からだろうな」

「補修してただけでここまで仲良くなるかなあ」


 千国の言う通り、麻薙の距離の詰め方には正直違和感がある。


「……ほし君」

「どうした?」

「今からうち来ない?」


 ……は? 俺が千国の家に?


 今まで千国の家は行ったことが無いし、というかそもそも女子の家なんて行ったことが……ないわけではないな。こないだ行ったわ。


 何故急に誘われたのかは分からないが、俺は千国の家へと向かうことになった。

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