第5-3話 「ほしくんだから連れ込んだんだよ?」
文武両道才色兼備、どう足掻いたって私には麻薙さんに勝てる部分なんてない。
それでもこの勝負にだけは負けるわけにはいかない。
誰と勝負をしてきたわけでもないけれど、高校に入学してほしくんと知り合ってから今日までほしくんの隣というポジションを死守してきた。
それなのに、今までほしくんと関わりがあったわけでもなく急に出てきた麻薙さんにこのポジションを奪われるなんてあってはならない。
そのために、今まで一度も呼んだことなんてないのにほしくんを自宅へと誘ったのだ。
「ごめん、今家にジュースとかなくてお茶でいい?」
「もちろん。気遣ってもらってすまん」
自分の部屋へほしくんを案内した私はお茶の準備のため一度キッチンに戻る。
しかし、本当の目的はお茶の準備ではない。
「お待たせ。せっかく来てもらったのに何もなくて本当にごめんね」
「ちょ、お前お茶とかってよりその服装どうした⁉︎」
お茶を淹れに一階へ降りた私はお茶の準備をそそくさと終わらせ、制服から部屋着へと着替えた。
季節は夏に向かっており、気温は上昇傾向。
最近夏用の部屋着に衣替えしたばかりだったのが功を奏した。
夏用の部屋着は上下共に丈が短く露出度が高い。
こんなやり方は卑怯かとも思ったけど、ただでさえ可愛くて何でもできる麻薙さんに勝つにはこれくらいしか方法がない。
というか、麻薙さんも委員会中にほしくんの膝を弄ったり卑怯なことしてるし、、、。
そっちがその気なら、こっちにだって考えがある。
「どうしたも何も普通の部屋着だよ? 家に帰ってきたら着替えないと気が済まないタイプでさ」
「それは分からなくもないけど……」
「どうかした?」
「……なんでもない」
何でもないとは言っているが、顔を赤くして目線を逸らすほしくんの態度からは明らかに動揺していることが見て取れる。
捨て身の作戦には多少なりとも効果があったらしい。
「ほしくんがうちくるの初めてだよね?」
「そうだな。何か用でもあったのか?」
何か用があったかと聞かれればほしくんにアタックするためだったと答えるしかないが、そういうわけにもいかない。
「委員会が思ったより早く終わったし、このまま帰っても暇だなーと思ったから」
「暇ってだけで簡単に男を連れ込むなよ」
「ほしくんだから連れ込んだんだよ?」
「--っ」
今の私は最強だ。
これまでほしくんの周りには、ほしくんの目付きが悪いことで人が集まらずそれにあぐらをかいて行動を起こしてこなかった。
敵が現れてから行動するなんて遅すぎるかも知れないが、そう思って諦めていたのでは勝利を収めることはできない。
もう既に遅すぎるのなら、どんなに無謀で無鉄砲な作戦であっても遂行できる。
「ほしくん、目付きは怖いって思われてるけど本当に優しいから、家に呼ぶことを躊躇なんて絶対しないよ」
「べ、別に優しくねぇよ。それにしたってその服装はどうなんだ。流石に露出が多すぎるだろ」
「えー、だってこれいつも着てる部屋着だし、別に下着を見せたり裸になったりしてるわけじゃないんだからさ」
「……」
私がそう言うとほしくんが言葉を詰まらせる。
これは完全に私のことを意識させられている‼︎
すごいぞ私‼︎ やればできる子‼︎
「どうかした? そんなに気になるなら服変えてこようか?」
「い、いや、服っていうかなんていうか……あれ」
「あれ?」
ほしくんがそう言いながら指差した方向に視線を向ける。
「--っ⁉︎」
「視線に入るから早くしまってきてくれ」
「あ、あの。これは⁉︎ ……ごめんっ‼︎」
頭が真っ白になった私はほしくんが指差した先に干されていたベランダにある自分の下着を急いでしまいに行った。
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