第5-4話 「興奮したの……?」

 急いで下着を片付けに行く千国の姿を見ながらため息を吐く。


 今日の千国は何かがおかしい。


 普段は大人しくて変わった行動なんて絶対に取らない千国。

 それなのに、今日は用も無く俺を家に誘ったり、家では露出の多い服を着たり、下着がベランダに干してあったり……いや、下着に関してはただ干されてることに気付いていなかっただけだろうけど。


 とにかく今日の千国には違和感しかない。


「ごめんねぇ変なもの見せて……」

「干してある下着見るくらい別になんとも思わないから大丈夫だ」


 嘘です正直結構悶々としてます。


 同級生の下着を見た経験なんてあるわけがないので実はもっと見たかった……なんて思ってないからな?  口が滑ったわけじゃないからな?


 しかも淡い水色って千国のイメージにぴったりじゃねぇか‼︎ こんなの意識しないなんて無理だわ‼︎


「な、なんとも思わないの?」

「同級生の下着見たってだけで興奮なんてできるはずないだろ」


 実際は興奮しておいてよくもまあ淡々と嘘を並べられるもんだ。


「むーっ……じゃあ実際私が下着着てるところ見たら興奮するの?」

「そんなの興奮するに……って何訊いてんだよ‼︎ 興奮なんてしねぇよ別に‼︎」


 やはり今日の千国は間違いなくおかしい。


 何がおかしいと具体的に言葉に表すことはできないが、どこか言動が麻薙っぽいというか……。


「へぇ。しないんだ。じゃあ実際見てみる? 私の下着姿」

「だから興奮なんてしないって言ってるんだからそんなことすんのはやめろ」

「いやいや、実際やってみないと分からないでしょ?」


 そう言って短パンを腰の方から少し捲ろうとして下着が見えるより先に脇腹が露わになる。


 なんだあのすべすべな脇腹は……。


 じゃなくて⁉︎ そんなことに見惚れてる場合じゃないぞ⁉︎ 早く止めろよ俺‼︎


「だからやめろって言ってるだろ⁉︎」


 そう言って俺は千国の腕を掴む。


「や、やめてよ‼︎ そんなに抵抗するってことはやっぱり私の下着見たら興奮するってことでいいの⁉︎」

「何回も言ってるだろ‼︎ 興奮なんてしねぇよ‼︎」

「それなら試させてって言ってるの‼︎」

「なんでそんなこと試す必要あるんだよ‼︎」

「私が試したいだけ‼︎」

「じゃあやめろよ‼︎」

「やめないぃぃぃぃっ‼︎」


 無理やりにでも俺に下着を見せてこようとしている千国を止めようとしてもみくちゃになる。


 なんでここまで俺に下着を見せようとしてくるのか……。


 ってか普通に考えて同級生に下着見せようとしてくる女子って何⁉︎ どゆこと⁉︎


 こうなったらもう本当のことを言うしかない。


「あぁもう‼︎ 実はさっきベランダの下着見て興奮してたよ‼︎ 何も思わなかったなんて嘘だよ‼︎ 同級生の女子の下着なんて見たことないんだから興奮するに決まってるだろぉぉぉぉぉぉぉぉっ‼︎」


 暴走している千国を止める方法はもうこれしかなかった。

 白状したくはなかったが、俺がそう言うと思惑通り千国の動きはピタッと止まった。


「興奮したの……?」

「……そうだよ。あんなの見せられて興奮しない男子高校生なんていねぇわ」

「そ、そうなんだ……」


 お互い冷静になった俺たちは目を見合わせる。


 そうして気付いてしまう。千国を止めようとしてもみくちゃになっていた自分達がとんでもない態勢になっていることに。

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