第9-7話「捨て去らないといけない人だっているんだから」

「勘違い? 私が何を勘違いしたっていうの?」


 千国さんの放った言葉に私は疑問を感じずにはいられなかった。


 最近の健文くんが私に取っていた態度を見ても、屋上で千国さんと楽しそうにお昼ご飯を食べていた姿を見ても、二人はどう考えたってできているに違いない。


 健文くんと千国さんは私が健文くんと仲良くなる前から仲が良くて、私たち以上にお互いのことをよく知っている。

 そんな二人が付き合ったという事実は信じたくなくても受け入れざるを得なかった。


「……はぁ。私がここまで言っても気が付かないなんて、もはや嫌味を言われているようにしか聞こえないんだけど?」

「い、嫌味なんて言ったつもりはないわ。ただ私は事実を述べただけで、勘違いなんてしてないはずよ」


 私だって、健文くんと千国さんが付き合っているなんて情報はできれば勘違いであってほしい。

 私を騙すために取っていた行動だというのなら、今薄情されても怒るどころか飛び跳ねて喜んでしまうだろう。


 ただ、勘違いじゃないという事実を裏付けるだけの理由は十分に集まっている。


「全部勘違いしてるよ。まず、私はほしくんとは付き合ってない」


 付き合っていない?


 その発言は私からしてみれば嘘のようにしか聞こえない。


 その発言が事実だとするならば、私に冷たい態度をとっていた理由も、見せつけるように健文くんと仲良くしていたのにも説明が付かない。


「……え? でもすごく仲良さそうにしてたし、私を避けて一緒にお弁当食べたりとか……」

「いやまぁね、それは正直ほしくんにも責任あると思うよ。事情があったとしても、好きになった人のことは最後まで好きでいないとダメだと思うし」

「な、何言ってるの?」

「その相手が私だったらなー、なんて思うことはこれまでもたくさんあったよ。麻薙さんと出会ってからのほしくん、毎日イキイキしているように見えてたし」


 困惑しているわたしをよそに、千国さんは一人で喋り続けている。


「いや、ちょっと本当に何を言っているのか分からないわだけど……」

「……ぃぃ」

「--?」


 どこからともなく声が聞こえてくる。


「ほら来たよ。あちこち必死に走り回ってみつけてくれたんだから、もうどこかに行こうとしたり、簡単に思い出を捨てようとしないでね」

「ねぇ、本当になに言ってるの?」

「私みたいに、大切な思いを捨て去らないといけない人だっているんだから」

「--え?  それって……」

「麻薙ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい‼︎」

「た、健文くん⁉︎」


 ものすごい勢いで私の方へと走ってきた健文くんは、その勢いのまま私へと飛びついてきて、私は押し倒されるようにして川の中へと倒れこみ水浸しになってしまった。

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