最終話
麻薙を見つけた俺はすぐ後ろが川だというのに、何も考えることなくそのまま麻薙に向かってダイブしていた。
そして俺と麻薙は全身びちょびちょになってしまう。
「ちょ、ちょっと健文くん。びちょびちょになっちゃったんだけど……」
「そんなのどうでも良いだろ‼︎ 俺はただ、麻薙を見つけたのが嬉しくて……」
麻薙はどれだけ探し回っても見つからなかった。
そんなことはないとは思いながらも、まさか最悪の事態が頭をよぎりもした。
そのせいで、麻薙を見つけた瞬間気持ちが昂ってしまい、後ろが川だと言うことを忘れて飛び込んでしまっていたのだ。
「嬉しいのは分かったんだけど……。なんで健文くんがここに? 健文くんだけじゃなくて千国さんもだけど……。あなたたち、本当に付き合ってないの?」
「はっ? 俺と千国が?」
「え、ええ。私はてっきり付き合っているものだと……」
なるほどな……。だから麻薙は俺を避けていたのか。
まあ確かに麻薙のことを避けたりもしていたので、そう勘違いされてしまうのも無理はないのかもしれない。
「確かに俺にとって千国は大切な存在だよ。目付きの悪い俺のことを怖がらずにずっと一緒にいてくれたんだからな。でも、オレの好きな人は千国じゃない」
この場に千国がいるのにそう発言してしまうのは気が引けたが、麻薙に素直な気持ちを率直に分かりやすく伝えたかった。
「千国さんじゃない?」
「ああ。俺は麻薙が好きだ」
「……へ? 私?」
「そうだよ。俺は麻薙が好きだ」
俺がそう伝えると、麻薙は俺や千国の顔色を伺いながら目線を逸らした。
「だから言ったでしょ? 嫌味言われてる気分だって」
「っ……」
「そんな気まずい顔しないでよ。ほしくんと麻薙さんが仲直りして付き合うの、私は素直に嬉しいよ?」
「千国さん……」
「麻薙、色々あったけど、俺には麻薙が必要だ。麻薙にそばにいてほしい。だから俺と付き合ってくれ」
「……そのお願い、私が断ると思う?」
涙ぐんで声を震わせながらそう発言した麻薙を、俺は川の中に倒れ込んだまま強く抱きしめた。
特殊な出会い方をしたり、仮にその出会いに何かしらの意図があったのだとしても、出会いは出会いだ。
もし仮に麻薙が俺に関わるようになった理由が、父親が保健委員長だから、という理由だったとしても、これほど素敵な出会いに導いてくれることだってある。
大切なのは出会い方ではなく、どんな出会い方だったとしてもその人自身を見てあげられるかどうかなのではないだろうか。
学校1の美少女が保健委員長の俺に「胸を揉め」ってお願いしてきたんだが、職務放棄していいですか? 穂村大樹(ほむら だいじゅ) @homhom_d
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