第6-3話 「ショックなんか受けてないからね!?」
千国の家から逃げるようにして出てきた俺はその後、スマホで連絡を取ることもなく千国が俺に対してどのような感情を抱いているか確認できていない。
今朝登校するために自宅を出るのがどれだけ憂鬱だったかは容易に想像がつくだろう。
あんなことをしでかしておいてどんなツラして千国に会えばいいのだろうか。
故意ではなかったとはいえ下着を目の当たりにしてしまったり、上に乗りかかるような体勢になってしまったりと取り返しのつかない行為をしてしまったので、顔を合わせたら汚い言葉で罵られるのも覚悟している。
まあ千国が人を罵るような人間じゃないことくらい分かってるけど。
とにかく今後千国とこれまで通りの関係を築いていくためには今まで通り接するしかない。
そうは言うものの、普通に接するってのが一番難しいんだよなぁ……。
いや、でもそれをするしか千国と今まで通り接する方法はないのだから弱気になるのではなく覚悟を決めるしかない。
いつもより少し早く登校してきた俺は教室の前で一呼吸置いてから、平静を装って教室へと入った。
俺より早く登校してきている生徒も数人見受けられるが、俺の視線は自然と千国の方へと向けられる。
いつも通り、いつも通りでいいんだからな。
「おっす」
「……」
はい終わったー‼︎ 終わりましたー‼︎ 終了でーす‼︎ 今日は学校サボって帰りますかー‼︎
今日まで千国に挨拶をして無視されたことなんて一度もない。
それなのにガン無視を決め込まれるということは俺のしでかした行為に対して相当怒っているのだろう。
これは完全に嫌われたな……。
まあ無理もないよな。
千国は善意でただ俺の顔に付いていたまつ毛を取ろうとしていただけなのに、俺の方はやましいことを考えながら最後には完全に理性を失ってしまっていたのだから。
俺のやましい気持ちに気付いていたのだとしたら、挨拶をして無視されるのも受け入れるしかない。
「誰でも……」
「--ん? なんだって?」
「誰でも……」
「誰でも?」
意図的に俺の挨拶を無視したのかと思いきや、千国は遠くを見つめながら何やら訳の分からないことを呟いている。
誰でも、ってどういう意味だ?
というか千国、この様子だと俺の挨拶を無視したのではなくて、挨拶されたことに気付いていないだけなのではないか?
「千国?」
「誰でも……」
「おーい、千国?」
「ぴゃっっ!!!!???? ほしくん?」
千国があまりに驚くので声をかけた俺の方も体をびくつかせる。
「お、おう。俺だけど」
「びっくりしたぁ」
「いや、挨拶したのに千国がボーっとしてるみたいだったから」
「あ、いや、あの!? ほ、ほしくんは誰でもいいのかなって思って……」
「誰でもいい? 何の話してるんだ?」
「何でもないの!! べ、別に誰でもいいって思ってることにショックなんか受けてないからね!?」
「いや、何の話してるんだよお前」
「うーーーーごめんなさーい!!」
「は? 千国⁉︎ ちょっと待てよ‼︎ 俺も謝りたいことが……」
謝るのは俺の方だというのに、なぜか千国は俺に謝罪をしながら教室を飛び出して行ってしまった。
今千国が何を考えてるのか皆目検討が付かないんですが……。
とりあえず俺は千国を追いかけるのではなく、自分の席に座って頭の中を整理することにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます