第8-4話 「したいようにしたらいいと思うよ」
休日の図書館、あまり利用したことはなかったが予想していたより人は多く、俺たちは窓際の席で声を殺しながら勉強を進めていた。
「ほしくん、ここの問題分かったりする?」
「あー、この問題は……」
「あ、でも補習受けてるような人にはこの問題の答えなんて分からないか」
「補習受けたのは麻薙を助けたからだって言ってるだろ」
俺のことを馬鹿にしてくる千国だが、これが冗談であることは言うまでもない。
麻薙と会話をしづらくなっている状況だからこそ、こうして冗談を言い合える千国との関係は俺にとって大切にしたいと思えるものだった。
「そうだっけ?」
「お前絶対覚えてるだろ」
「私頭悪いからすぐ忘れちゃうんだよね」
「そんなに頭悪くないだろ」
「それにしても今日はなんで勉強に誘ってくれたの? ほしくんの方からこうやって休みの日に私を誘ってくれたのって初めてじゃない?」
「まあなんというか……。ちょっと気分が落ち込んでたから誰かと一緒にいたかったのかもな」
「--っ!? そ、そうなんだ……。それで私を誘ってくれたんだね」
「ああ……」
ん? なぜか千国の反応がいつもと違うような気がするが……。
いや待てよ? 今俺結構とんでもないこと言ったんじゃないか!?
落ち込んだ時に一緒にいたいと思う人となると、その人には心を許していることにもなるし友達以上の関係である人物になる。
かなり無理はあるかもしれないが、その人物のことを好きと言っているのと何ら変わりないのではないだろうか。
「べ、別に他意はないからな!? ただ千国と一緒にいると気が楽になるっていうか……」
「う、うん……」
自分から傷口広げに行ってないかこれ。これ以上変なことを言うのはやめておこう。
「すまん。落ち込んでるせいで頭がおかしくなってるかもしれん」
「ほしくんが最近落ち込んでるのってもしかして麻薙さんのこと?」
「な、なんでそれを!?」
「やっぱりそうなんだね」
この反応を見るに、千国は俺が麻薙のことで落ち込んでいるという確信があったわけではなさそうだ。
まんまとはめられたらしい。というか勝手にはめられに行ったな。
「やっぱりってどういうことだよ」
「ほしくんってそもそもあんまり人と関りが多いわけじゃないから、落ち込む理由があるとすれば麻薙さんのことかなと思って」
何気に失礼なこと言ってる気がするが、事実だし反論はできない。
「そういうことか……」
「麻薙さんと何があったの?」
「何があったって聞かれたら別に何もないな。むしろ最近関係はよかったと思うし麻薙に非があるわけじゃねぇよ。俺の方が勝手に麻薙を避けてるだけで……。あ、勿論理由なく避けてるわけじゃねぇけどな」
「そうなんだ。まあほしくんのしたいようにしたらいいと思うよ」
雑なアドバイスにも聞こえるかもしれないが、俺にとって、俺のしたいようにしたらいい、というこのアドバイスはかなり気が楽になるものだった。
「……いつもありがとな」
「ほしくん」
「どうした?」
「わたし、ほしくんのこと……」
……え、急にどうした?
この感じ、もしかして告白されるのか俺!? 流石に急すぎるだろそれは!?
いや、でもこの感じ、もう告白される以外には考えられないだろどうする俺!?
--ん? 向こうに見えるのって……。
「ちょっと待て!!」
「むぐっ!?」
俺は慌てて千国の口を手で覆った。
自分たちが座っている窓際の席とは反対側の窓側の席に麻薙の姿が見えたからだ。
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