第8-3話 「今なんて?」
放課後、俺は荷物を片付けてそそくさと教室を後にした。
麻薙に対する気持ちが整理できないまま一週間が経過し、余計に麻薙と会話をしづらい状況となってしまっている。
麻薙と会話しづらくなってしまった日から保健委員会の会合等強制的に会話をしなければならないようなイベントもなく、会話をする機会は一度もなかった。
「ほしく〜ん‼︎ はぁはぁ……。最近どうしたの? 学校終わってからやたらと帰るのが早いけど、バイトでも始めた?」
俺を追いかけてきたのは千国だ。
俺は普段から保健委員会の仕事で学校に残っていることが多いので、こうして連日すぐに学校を出て帰宅していれば多少の違和感を持たれるのも仕方がないだろう。
「千国か。バイトなんてしてないけど」
「じゃあなんで? 最近保健委員会の仕事が少ないの?」
「保健委員の仕事も家でできることが多いし、わざわざ学校に残らなくてもいいんじゃないかって思い始めてな」
「ふ〜ん。そうなんだ。まあ確かに学校より家の方が気楽にできるしね」
微妙に訝しまれたような気もするが、ここで深く踏み込んでこないのも千国なりの配慮なのだろう。
千国とは変わらず仲良くしており、麻薙と会話をする時間が短くなった分千国と一緒にいる時間は自然と長くなり会話をする回数も増えている。
千国とはどれだけ一緒にいても気が楽で、楽しいと感じる。
麻薙が爆速で走るスポーツカーなら千国は安定感のあるキャンピングカーといったところだろう。
「家だと誘惑も多いけどな。ずっと学校で仕事してるわけにもいかないし」
「私は誘惑に負けがちだから学校とか図書館とかで勉強する方が得意かな」
「そういえばもうすぐテスト期間に入るし、一緒に勉強するか? 図書館でもカフェでもどこでも構わないぞ」
「--え? 今なんて?」
「いや、だから一緒に勉強するかって」
「え、ほしくんからそんなお誘いしてくるなんて信じられないんだけど⁉︎ まさか夢⁉︎」
そう言って頬を引っ張る千国。
俺から千国にこんな誘いをしたことはないし、普通の俺であればこんな誘いはしないだろう。
しかし、今の俺は癒しを求めていた。
麻薙の件を頭から捨て去りたい。そのためには、何か他のことで気を紛らわすのが一番だと、そう考えて千国に声をかけたのだろう。
「夢じゃないぞ。俺自身夢かと思うくらい珍しいこと言ってるなとは思うけど」
「それなだよ本当に。私の方がよっぽど驚いてるよ」
「じゃあ次の休み、図書館で勉強な」
「りょーかい‼︎ 遅刻しないように行きます‼︎」
千国と一緒に勉強する約束を取り付けた俺は千国と別れた後、いつもより歩を進める速度を上げて帰宅した。
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