第8-2話 「訊かないよ」

 自分でも酷い対応をしているのは理解している。


 理解してはいるのだが、酷い対応をとらずにはいられなかった。


「あ~どうすりゃいいってんだよ……」


 お昼休みに屋上で一人、天を見上げながら思わず声が出る。


 普段は教室で弁当を食べておりわざわざ屋上まで弁当を食べに行くことはないのだが、教室にいると息が詰まりそうだったので教室を飛び出して屋上へとやってきた。


 麻薙の父親が保健委員長なのではないか、という疑念は麻薙の母親の発言によって確信へと変わった。


 そうなると、麻薙が俺に近づいてきた理由はやはり父親が保健委員長をしていたからということになるのだろう。

 これまではきっと俺の勘違いだと自分に言い聞かせてきたし、仮に麻薙が俺に近づいてきた理由が父親だったとしても問題ないだろうと考えるようにしていた。


 しかし、真実を知ってしまたからにはそう考えるのは難しくなってしまった。


 これから麻薙との関係をどうしていくべきなのだろうか。


「こんなところでどうしたの?」


 天を見上げている最中に声をかけられて思わず体をビクつかせる。


 声をかけてきたのは千国だった。


「ち、千国!?」

「教室からフラフラッと出ていくほしくんを見かけて、気になったからついてきちゃった」


 そう言いながら微笑む千国の表情は、麻薙のことで悩んでいるせいかいつもより眩しく見える。


「そ、そうか」

「それでどうかしたの? ほしくんって屋上で一人黄昏るようなタイプの人じゃないでしょ?」

「じゃあどんなタイプの人間なんだよ」

「えー? 悩み事とかあったらくらいトイレの個室の中で一人でウジウジしながらスマホとか触ってそう」


 今回は偶然屋上に来たが、千国の言っている内容が的を得過ぎていて反論することができない。


「まあそうなのかもな」

「そこは反論するところでしょ」

「反論する程千国の言ってることが間違ってなかったからな」

「流石私だね。長年ほしくんと一緒にいるだけあるよ」

「そんなに長い年月一緒に過ごしてないけどな」

「細かいことは気にしない!! それより何かあったの? 元気がないみたいだけど」

「まあちょっと色々あってな」

「そっか。なら仕方が無いね」

「……何も訊かないのか?」

「え、別に訊かないよ。ほしくんが屋上に逃げてきたことには何か理由があるのかもしれないけど、別に気にならないしそんな話するくらいなら二人で世間話してた方が楽しいでしょ?」

「そりゃそうだけど……」


 誰かが困っている姿を見れば、なぜ困っているのか理由を尋ねたくなるものだ。


 そうしなければ解決の糸口も見えないのだから。


 しかし、今の俺にはこうして何も訊かないでいてくれる千国の存在は本当に大きかった。


「そんなことよりそのウインナーもらっていい?」

「別に構わないけど」

「じゃあいただきまーす!!」


 そう言ってウインナーを頬張り見せた笑顔はいつまでも見ていたいと思う程輝いていた。

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