お仕事8

第8-1話 「う、うん……」

 起床して身支度を済ませ、朝食を食べて歯を磨く。


 毎朝のルーティーンがいつもより楽しく感じたのは昨日の健文くんとのデートが影響しているのだろう。


 昨日のデートでは明らかに健文くんの変化を感じ取ることができた。


 これまではどちらかといえば、というか間違いなく私の方から健文くんと関りを持とうとしていた。

 健文くんの方から進んで私と関わりを持とうとしてきたことはないので、健文くんが嫌がっても無理矢理私の方から健文くんと関わりを持とうとしていた。


 それなのに、昨日は健文くんの方から進んで私の誕生日を祝ってくれたのだ。


 知らない人からしてみれば、ただ友人が誕生日を祝ってくれただけに見えるかもしれないが、私にとっては間違いなく大きな前進である。


「いつもより上機嫌じゃない。保科くんとのデート、楽しかった?」


 ママから見ても私の機嫌がいいことは明らかだったようだ。


「うん。楽しかったよ。遅刻するといけないからもういってきます」


 いつもよりも意気揚々とした声でそういいながら家を出た。






 学校に到着して教室に入ると私の視線は健文くんの席がある方へと向けられる。

 私より先に到着していた健文くんは席に座ってスマホを操作していた。


 ママには上機嫌であることを気付かれてしまったが、健文くんには気付かれないように落ち着いて話しかけないと。


「おはよう健文くん」

「……おはよう」


 ……ん?


 私の気のせいかもしれないが、いつもより健文くんの反応が薄かったような気がする。


 いや、健文くんの反応はいつも薄いのだけれど……。

 薄いと言うよりも、冷たいという印象の方が強かった。


 誕生日デートにも行ったのだから、デートに行く前よりも私に気を開いてくれてもおかしくないはずなのに。


 いや、きっと勘違いだと思うことにして私は健文くんとの会話を続けた。


「次献血に行くならいついく? 予定空けとくけど」

「献血は一回やると3ヶ月くらい間隔を空けないと次はできないんだよ。またそれくらいの時期になったら話すわ」

「あ、あら。そうだったのね。それじゃあ別に献血意外の予定でも付き合ってあげるけど……」

「ありがとな。またなんか予定あったら声かけるわ」

「う、うん……」


 会話をしている内容に冷たい部分は見当たらないが、健文くんの声色は私に対して敵意を見せているかのようだった。


 いつもなら押せ押せで行くのだが、今まで見たことがない健文くんの姿に私はそれ以上押しを強くすることはできず、会話を途中で止めて自分の席へと戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る