第8-6話 「……チャンスだなと思って」
急いで図書館を後にしたせいで息を切らしていた俺たちは、とにかく一旦座って休憩したいと近くの公園に設置されていたベンチに座った。
急いでここまで逃げてきた勢いそのまま千国に先程の行動の真意について確認しようとしたのだが、急に気まずくなってきた。
だってキスだぞ!? なんでキスしたんだよ‼︎ って問い詰めるのってなんか恥ずかしくないか⁉︎
「ここまでこれば麻薙さんにはもう見つからなさそうだね」
「あ、ああ。そうだな」
千国から会話を始めてくれたというのにロクな返事もできず、そこでまた会話はストップしてしまった。
今まで俺にとっての千国は仲の良い友達、委員会の仕事を手伝ってくれる良き仲間という認識で意識することなんてなかったのに、今は意識せずにはいられない。
「どうだった?」
千国からそう訊かれた俺は頭をフル回転させる。
どうだったってさっきのキスのことだよな? それ以外ないよな?
もしそうではなかったとしたら変に意識しているイタい奴になってしまうので、先程のキスのことだとは理解しながらも訊き返した。
「ど、どうだったってなにが」
「さっきのキスだよ」
俺が思っていた通り千国が訊いてきたのは先程のキスのことだったが、普通そうゆうのって自分から訊くか?
恥ずかしげもなくそう問いかけてこられるということは千国は俺が知らないだけで実は経験豊富だったりするのか⁉︎
そんなことは想像したくもないが、まあ俺の方からも話しを切り出しづらかったし訊いてくれて助かった。
「--っ。……急だったから驚いた」
「そういう話を聞いてるんじゃなくてもっと具体的な話を聞きたいんだけど」
「それを言うならこっちだって訊きてぇよ。なんであんなことしたのかって」
「……チャンスだなと思って」
千国からは意外な言葉が返ってきた。
チャンスってのはどういうことだ?
図書館はキスをするにしてはあまりにも場違いすぎるし、キスをするチャンスなら他の場所でいくらでもあるはず。
その上視線の先には麻薙がいたのだから、むしろキスをするにはふさわしくないタイミングだったように思う。
そんなことは考えなくても理解できるはずだ。
ていうか、今俺が考えてることって全部千国が俺とキスしたいって思ってるってことが大前提だよな?
え? ってことは、千国って俺のこと……。
「チャンスなわけないだろ。麻薙もいたんだから危険しかったように思うんだが」
「私にとっては色々チャンスだったんだよ」
「……わけわかんねぇけどまあそう言うならそうゆうことにしとく」
「うん。私はチャンスだと思ったからほしくんにキスした。ただそれだけ」
「それだけってな……」
「本当にそれだけだよ〜」
その後も千国の真意を聞き出そうと質問を繰り返したが、全て上手くかわされて真意を知ることができないまま帰宅することとなった。
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