第8-7話 「ただいつも通りに」

 テスト前の勉強をしに図書館にいく。

 それが私のテスト前の習慣となっていた。


 一人で勉強することには慣れていたし、むしろ一人の方が集中できるのでぼっちで勉強をすることに抵抗はなく、進んで一人で勉強をしていた。


 しかし、今日の私は一人で勉強していることを寂しいと感じていた。

 

 最近私の周りには決まって健文くんや千国さんがいて、昔より明らかに賑やかになっている。

 いや、まあ私の周りに健文くんや千国さんがいるというよりは、私の方から近づいて行っていると言った方が正しいかもしれないけど。


 そのせいか、意気揚々と図書館で一人で勉強していた頃とは違って今日は一人での勉強を寂しく感じてしまっている。


 今回の勉強だって、千国さんのことをイジりながら健文くんと千国さんを誘って三人でできたら……なんて思ってたけど。


 最近の健文くんは私に冷たい、というか明らかに私を避けているので、私の思い描いていた勉強会は実現しなかった。

 健文くんが私を避けている理由は未だに判明していないし、勉強会なんて夢のまた夢だったのだろう。


 勉強会は実現しなかったが、私は私の変化に喜びを感じていた。

 昔の私は一人で勉強することに喜びを感じていたし、誰かと勉強会をしたいと思うなんて考えられなかったからだ。


 そんな自分が誰かと勉強会をしたいと思うなんて、昔の私に話しても信じてくれないだろう。


 そんなことを考えながら図書館で勉強を進めていた私は気分転換に何かしら本を読んでみようと席を立った。


 しかし、私の気分は最悪な方向へと転換されてしまう。


 本を撮りに行こうと歩き始めたそのとき、私の視界の先に健文くんと千国さんがいることに気付いてしまった。


 健文くんと千国さんが二人で図書館にいることに対して疑問を持つよりも先に声をかけようとしたのだが、その場で踏みとどまる。


 私は誘われず、あの二人が二人だけで勉強会をしているということは、私はあの二人にとって邪魔者でしかないのかもしれない。

 そう考えると、気軽に声をかけることはできなかった。


 ショックを受けた私だったが、元々健文くんと千国さんは委員会の関係でよく一緒にいただろうし、今二人でいることには特に意味なんてないのだろう。

 そんな風に自分に言い聞かせながら席に戻ろうとしたとき、私は信じられない光景に目を丸くした。


 千国さんが健文くんにキスをしたのだ。


 その瞬間私は目を背け、自分の席へと戻る。


 そしてあたかも二人がいることには気付いていないフリをしながら、勉強をしているかのようにテーブルに向かった。


 な、なんで? なんで千国さんが健文くんにキスを……?

 あの二人はそういう関係ではなかったはずだし、こんなところでキスをするような人たちではないと思っていた。


 色々な考えが頭の中を巡り、しばらくしてから振り返ったときにはそこに二人の姿はなかった。


 私はただいつも通りにしていただけだった。

 テスト前に図書館に来て勉強する。そんな習慣をいつも通りやっていただけ。

 それなのに、どう頑張って解釈してもいつも通りとは呼べない光景を目にしてしまったのだ。


 こうなると、健文くんが私を避け始めた理由については簡単に説明がつく。


 健文くんと千国さんは付き合っている、だから健文くんが私を避け始めたのだ。

 

 あまりにも信じられない驚きの出来事に私はこの現実が夢なのではないかと思い肩を落としながら帰宅した。

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