第6-6話 「デリケート?」
直美先生にペンを返すために保健室に戻ってきた私は保健室の扉を開けて、再度保健室に入室した。
「失礼しまーす」
保健室に入室すると、先程と同様直美先生は何やらアルバムのような物を見ていた。
「あら、千国さんどうしたの?」
「この前借りてたペンを返し忘れたので先に返そうと思って戻ってきました」
「別に後でもよかったのにぃ。律儀にありがとね」
「いえ、できるだけ早く返さなきゃと思ってたので。それ、何見てるんですか?」
「……ちょっとね。私が新任してきたばかりの頃に保健委員長をやってくれてた子が載ってる卒業アルバムを見てたの」
「へえ。どなたが初代の保健委員長なんですか?」
「この身長が高い子よ」
そう言いながら先生は一人の男子生徒を指さした。
「へぇ。確かに高いですね。ほしくんも身長は高いけどほしくんより高く見えます」
「この子、誰かに似てると思わない?」
「誰かに?」
そう問われてこの昔の卒業アルバムに写っている男の子が誰に似ているのかを考えてみるが、誰に似ているのか見当もつかない。
芸能人にもこんな顔の人はいなかったし、私の知り合いにもこんな顔の人は……。
「分からない?」
「そうですね。確かに格好いい人だとは思いますけど、誰に似ているか分からないです」
「この人ね。
「え、麻薙さんの?」
この人が麻薙さんのお父さん?
麻薙さんの父親がこの学校で初代保健委員長をしていたなんて話は初めて聞いた。
恐らくだがこれはほしくんも知らない情報なのだろう。
ということは、麻薙さんみたいな美少女が急にほしくんと関りを持ち始めたのは、もしかすると麻薙さんの父親が保健委員長をしていたからってこと?
「そうよ。これまで私が見てきた保健委員長の中で一番まじめでよく働く子だったわ。……まあ保科くんは麻薙さんのお父さんくらいまじめでよく働く子だけど」
「ほしくんは知ってるんですか?」
「麻薙さんからは口うるさく保科くんには内緒だって言われてるのよ。他の人には内緒にしてくれって言われてなかったけど、この話は誰にも言わないであげてね。デリケートな部分もあるから」
「デリケート?」
「ええ。もう千国さんには話しておくけど、麻薙さんの父親、保成くんは病気で亡くなってるよ」
あまりにも情報量が多くて頭が混乱しそうになる。
確かにもう亡くなっている父親が自分と同じ学校で保健委員長をしていたとなれば、現保健委員長であるほしくんと関わりを持ちたいと思う理由も分からなくはない。
そして、父親が保健委員長をしていたということをほしくんに内緒にしているのは、ほしくんにそれが理由で近づいたと思われたくないからだろう。
実際どうなのかは麻薙さんにしか分からない。
「そうだったんですね」
「彼女、だから心を閉ざしていてあまりほかの生徒と関りを持とうとしない部分もあると思うの。だから、それを理解したうえで助けてくれる人が必要なのよ」
「……え、それって」
「そうよ。千国さん、これから麻薙さんのこと、頼むわね」
「え、そんなこと言われても……」
「はい、それじゃあ手洗いシート張ってきてー」
「は、はあ……」
こうして私は追い出されるようにして保健室を後にした。
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