第7-8話 「パスタが好きなのよ」
『十祈ちゃん、パスタが好きなのよ』
唐突にラインで連絡が入ってきたのは麻薙の誕生日の二日前。
どこから俺の連絡先を仕入れてきたのかは知らないが、麻薙が母親から訊かれて俺の連絡先を教えるとは考えづらいので、麻薙のスマホから勝手に仕入れたのだろう。
俺の連絡先もそうだが、俺が麻薙の誕生日を祝おうとしていることをどこで聞いてきたのだろうか。
直美先生には遠回しに麻薙の誕生日を祝えという圧力をかけられたので、俺が麻薙の誕生日を祝うことを知っているのは直美先生くらいのはず。
麻薙の母親と直美先生には関わりはないはずだし……。
いや、よく考えてみれば麻薙の父親が直美先生の教え子なのだとしたら、麻薙の母親と直美先生が繋がっていても不思議ではない。
もしかすると気付かなかっただけであの卒業アルバムに麻薙の母親も写っていたのだろうか。
他に可能性があるとすれば、麻薙の誕生日を祝うように麻薙の母親が俺に圧力をかけてきたということも考えられる。
ここは変に刺激して反論されたり、面倒臭い絡みをされないようにお礼だけ言っておこう。
『ありがとうございます』
そう素気なく返信して終わりにするつもりだったのだが、その後も、
『確か映画を見るのも好きだったはず』
『最近は献血にも興味があるらしいわ』
『割とドラマとか見てるし意外とロマンチックなシチュエーションも好きだと思うわよ』
という内容のラインが立て続けに送られて来ていたのだが、そのラインに対して、『はい』とか、『そうだったんですね』と相槌を打つだけだったのは流石に申し訳なさを覚えている。
とはいえ、麻薙の母親から有益な情報を手に入れた俺はその後、その情報をもとにデートプランを練っていた。
そしてこのカフェも、麻薙の母親から教えられた麻薙が気になっていたカフェなのである。
「こんなにオシャレなお店を健文くんが知ってるなんて驚きだわ」
「そりゃ今時の若者にはスマホっていうどれだけでも情報を集めることができる便利ツールがあるからな」
この情報が麻薙の母親から仕入れた場所だということは麻薙には内緒である。
「てっきり帰るものだと思ってたのに……。帰るのが少し遅くなりそうね」
麻薙はカフェの前でそう不機嫌そうに話す。
「すまん、早く帰りたい用事でもあったか?」
「別に用事なんてないわよ。さっきママに帰るって連絡してたから、少し遅くなるって連絡するのが面倒だなと思っただけよ」
「……そうか。それはすまんかった」
「献血の後に寄り道して帰る予定があったなら先に伝えておいてほしいものね。まあ入りましょう」
「……おう」
俺が予約していたカフェに入るのを嫌がるそぶりを見せながらも、その表情に少し笑みが浮かんでいるように見えたのは勘違いではないのだろう。
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