第7-9話 「気になるけど」
カフェへと入店した俺たちは注文を終えて料理の到着を待っていた。
何かしらコースでも予約した方が良いだろうかと考えもしたが、麻薙がパスタが好きだという情報を手に入れていた俺はあえてコースを予約することはしなかった。
変にコースを頼むより、好きなメニューをその場で選んで食べてもらう方がいいだろう。
「そう考えてもやっぱりね、カルボナーラって最強だと思うのよ」
「確かにそうだな」
「綺麗なクリーム色のパスタの上に、黄色い卵が乗っているってルックスだけでもうお腹いっぱいよね」
「そりゃそうだ」
「チーズが上にかかってるお陰で風味も倍増してるし」
「チーズは大事だな」
この会話、もう三度目である。
パスタが好きだとは聞いていたが、まさかここまで好きだとは想像もしていなかった。
このレベルで好きとなると、もはやパスタオタクである。
「ごめんなさい。パスタのことになると急に饒舌になっちゃうの」
あまりの熱量について行けない俺の返答は雑になってしまっていたようで、麻薙は謝罪をしてきた。
「聞いてて面白いから気にすんな。まあなんでそこまでパスタが好きなのかは気になるけど」
「……昔ね、パパと一緒に行ったイタリアンのお店で食べたパスタが本当に美味しくて。それ以来パスタにハマってるのよ」
……なるほどな。
亡くなった父親と一緒に食べた思い出の料理となれば好きになるのも必然だろう。
パスタを食べる度に父親のことを思い出すのは辛いのではないだろうかと考えもしたが、父親のことを忘れないよう頻繁にパスタを食べているのかもしれない。
そうしているうちにパスタのことが大好きになっていったのだろう。
涙が出そうになる程の理由ではあるが、その話を聞いた俺の頭にはある考えが浮かんでいた。
亡くなった父親と一緒に食べたパスタがそこまで好きなのであれば、やはり俺に近づいて来た理由は俺が保健委員長だからなのではないか? と。
思い出話を聞いてその考え方に至るのは失礼なのかもしれないが、どうしても不安が拭い去れない。
このままこうして不安を抱えながら生活していくのであれば、いっそのこと今直接聞いてみるか?
なんて思ったりもしたが、今日は麻薙の誕生日。
直接質問するにしても、それが今日ではないのは明白である。
「どうかした?」
「……いや、なにも」
麻薙がパスタを好きな理由を聞いて黙り込んでしまい異変を感じ取られてしまったので、今日は一旦不安を全部頭の中から消し去って誕生日を祝うとしよう。
パスタが到着すると、麻薙は目を輝かせながらパスタを食べ進み舌鼓を打っていた。
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