第7-10話 「渡したかったんでしょ?」

 パスタを食べ終えた俺たちはデザートにプリンを食べていた。

 パスタの熱量には遠く及ばないものの、プリンを食べている麻薙は頬に手を当て今にも頬が落ちそうになっていた。


「プリンも最高だったわ。ここはまた来ないとダメなお店ね」

「確かにめっちゃ美味かったな。そんなに気に入ってくれたんならよかったよ」


 もう一度来店したいと思うくらいには喜んでくれているようで、麻薙の母親からリサーチしておいた甲斐があったってもんだ。

 リサーチというよりは無理矢理押し付けられたような形ではあったけども。


「あら、気に入ったんなら良かったって人事みたいにみたいに言ってるけど、また来る時も健文くんと一緒ってもう決まってるんだからね?」

「ゴホッ⁉︎ な、何言ってんだよ。別に俺がいなくたって問題ないだろ」

「まあ健文くんがいなくたって問題はないけどね」

「自分で言っといてなんだがハッキリ言われると辛いものがあるな」

「何言ってるのよ。健文くんがいなくても問題はないけど、貴方がいたからこそ今日食べた全部の食事がこんなにも美味しく感じたのよ?」


 麻薙の発言に狼狽しながらも、一緒に食べたからこそ美味しく感じたという発言には一理ある。

 今日は麻薙を祝う日だったというのに、どうやら麻薙と一緒に過ごした時間を俺は麻薙よりも楽しんでしまっていたようだ。


「…‥まあそうだな。その意見には同意しとくよ」

「もっと素直に私以外の人とご飯を食べても美味しくないって言ってくれてもいいのに」

「誰がそんなこと言ったんだよ捏造すんな」

「捏造なんてしてないわよ。だって真実でしょ?」

「はいはい。そういうことにしといてやるよ」


 プレゼントを渡したのに喜ぶ素振りすら見せずに

俺をからかう麻薙を適当にあしらう。


 すると、麻薙は途端に真面目な表情をこちらへと向ける。


「今日は本当にありがと。楽しかったわ」

「急に真面目な顔されても困るんだけど……。まあそりゃよかった」

「それじゃあ帰りましょうか」

「麻薙っ」


 席を立って帰宅しようとした麻薙を俺は急いで呼び止めた。


「どうかしたの?」

「……これ」


 そう言って俺が渡したのは今日のために準備しておいた誕生日プレゼントだ。


「……開けてもいいの?」

「もちろん」


 麻薙は包みを解き、中身を袋の外へ出した。

 

「ハンカチ?」


 俺が渡したのはハンカチだった。


「高校生だしバイトもしてないし、大した物は買えなかったけど保健委員には必須アイテムだろ」


 ハンカチなら金欠になりがちな高校生でも手が届く金額だし、誕生日プレゼントで渡すとしても、保健委員には必須だと取り繕うことでプレゼントを渡す恥ずかしさを拭い去ることもできる。


「照れ隠しなんてしなくていいのよ? 私に誕生日プレゼント、渡したかったんでしょ?」

「べ、別に照れ隠しなんか……」

「……ふふっ。冗談よ。ありがと。大切に使わせてもらうわね」

「最初からそうやって言っといてくれよ……」


 麻薙はどうやら俺が照れ隠しでハンカチを選んだことに気づいていたらしい。


 そして俺たちは帰路に就いた。

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