第7-7話 「ここ?」

 献血が終わり、待合室に戻ってきた俺は麻薙と合流した。


 表情を見る限り先程よりは機嫌がいいように見える。


「思ったより時間かかったわ。待たせてすまん」

「いいわよ別に。お菓子も食べれたし」


 麻薙は献血前に行われる検査に引っかかってしまい献血をすることができなかった。

 そのため、俺が献血をしている間待合室で待ってくれていた。


 献血ルームでは献血後に用意されているお菓子やジュース、アイス等を食べることができる。

 それは献血前の検査に引っかかった人も同様で、機嫌の悪かった麻薙だがお菓子を食べて若干機嫌は回復しているようだ。


「これが目的で献血を受けにきたわけじゃないけど無料で食べたり飲んだりできるのはありがたいよな」

「献血を受けられなかった私がお菓子を食べてるのは申し訳なさもあるけどね」

「検査に引っかかって受けられなかったんだから仕方がないだろ」


 女性の方が検査に引っ掛かりやすいという話も聞くが、麻薙に関しては性別関係なく元々の体の弱さが原因なのだろう。


 頻繁に保健室に訪れているくらいなので、そんな人間が献血したらいつ倒れるか分かったものではない。

 問題なく献血が受けれるくらいには体調が改善されるといいのだが……。


「それで、今日の目的は献血だけだったの?」

「まあそうだな」

「……それじゃあ帰りましょうか」


 自分の誕生日を祝われるのかと期待していたところで、献血だけして帰ると分かれば誰だって肩を落とすだろう。

 声のトーンが一段階落ちている麻薙の様子にいたたまれない気持ちになる。


 とにかく俺たちは献血ルームを出てエスカレーターに乗り込んだ。


「もう帰るのは少し寂しい気もするけど、まあ今日は健文くんと二人で献血デートできたことだしよしとしておくわ」

「そうしてくれるとありがたい。献血デートなんて他のどの生徒もやったことないんじゃないか?」

「そうね。自慢できるようなことではないと思うけど、思い出に残るデートにはなったわね」

「だろ」

「……? 健文くん、このエスカレーターには乗らないの?」

「乗らねぇよ。乗ったら目的地にたどり着けないからな」

「目的地? 自宅が目的地なのだとしたらこのエスカレーターに乗らないと帰宅できないように思うんだけど?」


 献血で麻薙を油断させるのは今日の作戦の第一段階に過ぎない。


 第一段階は予想以上に上手くいったので……というか行き過ぎた様な気もするがまあ失敗するよりはいいだろう。


 とにかく麻薙に今日の目的は献血だと信じ込ませた今がチャンスだ。


 そして俺は目的地へと歩みを進める。


「ここだよ」

「ここ?」


 凝ったことはできないが、俺は麻薙を予約していたカフェへと連れてきた。

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