第7-6話 「ええ」
麻薙には今日の目的は伝えていないが、一番の目的は麻薙の誕生日を祝うこと。
麻薙の誕生日を祝うのはサプライズにすると決めているので、今日俺が誕生日を祝うために麻薙を誘ったと悟られるわけにはいかない。
「それで、今日はなんの用事があって誘ったの? こんなビルの上まで来て」
俺は麻薙を連れてビルのエレベータを登り、エスカレーターに乗り換えて更に上の階を目指していた。
「おいおい麻薙、保健委員会に入ったってのに俺が今から何をしに行くか分かんねぇのか?」
「いや分かるわけないでしょ。え、なに? 今日向かう場所に保健委員が何か関係してるの?」
「当たり前だろ。そうでもなきゃ俺と麻薙が二人で出かけるなんてことあるわけないだろ」
「ふーん……」
麻薙は今日俺が麻薙を誘った理由を自分の誕生日を祝うためだと気付いている可能性がある。
それならば、なんとかしてそうではないと思わせなければサプライズにはならないし、これ以上期待されても今以上に準備することはできない。
それならば、今のうちになんとかして今日麻薙を誘ったのは誕生日を祝うからではないからだと思ってもらう必要がある。
そして俺がやってきたのは……。
「ここだ」
「え、ここって……」
麻薙は今日の目的地を見て言葉を失っている。
それもそうだろう。
まさか俺に連れられて休日にこんなところ、献血ルームにくるなんて思ってもいないだろうからな。
「見ての通り、献血ルームだ」
保健委員会の活動としてすくニコ報で献血を呼びかけるため、実際に自分で献血の体験に来た……。
という体にすることで、今日は誕生日を祝うために来たのではないと思い込んでもらおうと考えた。
我ながら完璧な、いや、完璧過ぎる作戦である。
「今日は献血に来たの?」
「献血ルームに来たんだからそりゃ献血するだろ。すくニコ報に献血の体験談を掲載したいんだよ」
「そういうことね……」
「お、おう」
何やら麻薙の態度が急に冷たくなったように感じる。
気のせいだろうか。
麻薙の機嫌は気になったが、とりあえず俺たちは受付を済ませて順番を待っていた。
順番待ちの間も麻薙の機嫌が治ることはなく、気まずくなった俺は麻薙に話しかけた。
「麻薙も献血は初めてか?」
「ええ」
「献血って針太そうで怖いよな」
「ええ」
「どれくらい時間かかるんだろうな」
「ええ」
ええええええええ。
最後の質問で確認してみたが、麻薙は完全に俺の質問を真面目に聞いていない。
あからさまに不機嫌なように見える。
「あ、麻薙?」
「私、今呼ばれたから先に行くわね」
タイミング悪く麻薙が呼ばれてしまい、麻薙は俺を残してスタスタと歩いていった。
これは完全に怒らせてしまったな……。
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