お仕事7
第7-1話 「いいんじゃない?」
麻薙の父親がこの学校で保健委員長をしていたことが発覚した翌日の昼休み、俺は誰もいない保健室で今後どのように麻薙と接するべきかを考えていた。
どのように接するも何も、麻薙の父親が保健委員長をしていたことも、麻薙がそれを理由に俺に近づいてきたのではないかということも俺の予想でしかなく、真相を麻薙に訊いてからでないと話は始まらないのだが……。
そんな話直接聞けるわけないだろ!?
『お前、父親が保健委員長だったから俺に近づいたのか?』
なんて訊いたとして、仮に麻薙の父親が保健委員長ではなかったり、保健委員長であったとしてもそれが理由で俺に近づいたのではなかったとしたら、 麻薙と俺の関係は完全に破綻してしまう。
「俺はいったいどうすれば……」
「何をどうするの?」
「あ、麻ナギ!?」
先程まで保健室にはいなかった麻薙から急に声をかけられた俺は思わず声が裏返ってしまう。
保健室に入ってくるには扉を開ける音がするはずなのに、それに気付かないとなると相当悩んでしまっているのだろう。
「麻薙だけど……。何をそんなに悩んでいるの?」
「別に悩んでるわけじゃねぇよ」
「俺はいったいどうすれば……って言ってた人に悩みが無いとは到底思えないんだけど?」
その独り言を訊かれてしまったからには悩みが無いと嘘を貫き通すのは流石に無理がありそうだ。
「……知り合いから、もし最近友達になった人が自分の本質を見ずにイケメンだからってだけの理由で近づいてきたんだとしたらどうするか? って訊いてきてさ。なんて答えるか悩んでんだよ」
流石に俺の悩みを直接話すわけにはいかないので、知り合いの話と嘘をつき内容を変えてみた。
「……別にイケメンだからって理由でもいいんじゃない?」
麻薙は予想外の回答をしてきた。
「……どうしてそう思うんだ?」
「確かに本質を見ずにイケメンだからって理由だけで近づいてきたのだとしたら、それは気持ちのいいものではないかもしれないけど、私なら逆にそれがきっかけでいい出会いをすることができたんだって思うかもしれないわね」
……確かにそうだよな。
仮に麻薙が俺に近づいてきた理由が俺が保健委員長だからだとしても、それで麻薙と知り合えたのならそれでいいじゃないか。
むしろ俺にとってはそれがプラスに働いたのだから、何も悲しむことはない。
「……確かにそうだな。麻薙が俺に話しかけてきたのも俺がイケメンだからだろ」
「あら、健文くんもそんな冗談言うのね」
「え、何それ遠回しに俺がイケメンじゃないって言ってない?」
もし麻薙が本当に俺が保健委員長だからという理由で近づいてきたのだと知ったら、俺はショックを受けるかもしれない。
しかし、今麻薙の言った通りそれがきっかけでいい出会いができたのだとしたらそれでいいじゃないか。
この話の真相は深掘りするのではなく、このまま知らないでいる方が幸せでいられそうだ。
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