第6-10話 「麻薙保成」
麻薙保成。
保健室の机の上に置かれた古びた卒業アルバムでその名前を見た瞬間、俺の頭の中には様々な考えが過ぎった。
しかし、解答に辿り着くまでにそれほど時間は必要としなかった。
苗字が麻薙という時点で麻薙、麻薙十祈の父親であると考えるのが自然だろう。
麻薙なんて苗字、あいつ以外で出会ったこともないからな。
それにこの麻薙保成という人物、どことなく表情が麻薙に似ている。
男性でこれほどまでに小顔な人は見たことがないし、大きいながらに鋭い目つきも麻薙にそっくりである。
そして、麻薙の父親がこの高校の卒業生という事実を知ってしまったからには、麻薙という美少女が目付きが悪く友達も少ない俺という人間に近づいて来た理由についても考えなければならない。
俺と麻薙が関係を持ち始めたきっかけは表面だけ見れば、道端で蹲っていた麻薙を助けたことになるのだろうが、麻薙の父親がこの学校に通っていたとなれば話は別。
そして、麻薙の父親世代の卒業アルバムを直美先生が見ていたという状況から考えると、恐らく麻薙の父親は保健委員長をしていたのだろう。
直美先生が偶然見ていた卒業アルバムに、偶然麻薙の父親が写り込んでいるなんてことはあり得ないだろうからな。
しかも、名前に「保」という字が入っているところが俺が保健委員長になった理由とダブっており、この名前も麻薙の父親が保健委員長をしていたという裏付けになった。
麻薙の父親が保健委員長をしていて、学校1の美少女で俺とは殆ど関わりのなかった麻薙が俺に声をかけて来た。
この状況を整理すれば、麻薙が俺に近づいて来たのは、父親が保健委員長をしていたからということになるのかもしれない。
俺が麻薙と同じ状況下にいたとしたら、保健委員長という亡くなった父親がしていた仕事と同じ仕事をしている人物について気になるのも理解できる。
勿論これは俺が勝手に予想しているだけであって、事実は麻薙本人にしか分からない。
もしかすると俺に近づいて来た理由に自分の父親が保健委員長をしていたことなんて全く関係ないのかもしれない。
だとしても、俺は自分で予想したことに対してショックを受けたのだ。
千国は今回の件について全く関係がないというのに、ショックを隠しきれなかった俺は帰宅中に千国に話しかけることができず、険悪な空気が生まれていた。
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