第9-5話「つもりだったの」
千国と手分けして麻薙の捜索を始めてから一時間が経過するが、未だに麻薙の姿は見えないし、それどころか手がかりも見つからない。
せめて麻薙が行きそうな場所くらい把握できていればすでに発見することもできていたかもしれないが、麻薙がどこによく行くかなんて話は聞いたことがない。
どれだけ探しても姿の見えない麻薙にイラ立ちを覚え始めた俺だったが、俺が麻薙にイライラするのはお門違いってもんだろう。
これまで嫌というほど俺に付きまとってきていたので気付かなかったが、麻薙はすでに俺にとってかけがえのない存在になっていたのかもしれない。
学校では千国しかまともに俺と会話をしてくれる生徒はいなかったし、目付きの悪い俺と一緒にいても嫌がらないどころかつきまとってきた麻薙は大切な存在だったのだろう。
今になって気付いてももう遅いのかもしれないが、だからこそもう一度麻薙と話がしたい。
今はセンチメンタルな気分になっている場合ではなく、一刻も早く麻薙を見つけなければならない。
息を整えるために一度止まっていた俺だったが、再び足を動かし始めた。
◆◇
私が麻薙さんを見つけた場所は学校から程近い場所にある河原で、遠くを見つめながら物思いに耽る様にして立っていた。
気付かれて逃げられないようコッソリ近づいていくものの、砂利の上を歩く音で私の存在に気付いた麻薙さんがこちらを振り返る。
「こんなところで何してるの?」
少し怪訝な顔をされたような気もしたが、逃げられなかったのでよしとしよう。
「…‥よくここが分かったわね。学校の近くだし逆に見つかりずらいかと思ったのだけれど」
「見つからないと思ったとか言って、実は見つけてほしかったんじゃないの?」
「…‥別にそんなこと思ってないわ」
「まあどうせ見つけてもらえるなら私じゃなくて、別の人に見つけてほしかったって思ってると思うけど」
「……」
図星だった様で麻薙さんは言葉を詰まらせる。
「それで、なんでこんなところに? 今ほしくんが必死になって探してるけど」
私がそう訊くと、麻薙さんは徐にポケットから一枚のハンカチを取り出した。
「このハンカチ、健文くんにもらったものなの」
「へぇ。そうだったんだ」
「このハンカチはね、毎日持っているしこれからも大切にしていくつもりだったの」
「今聞きたいのはそういう話じゃ……。ん? 大切にしていくつもりだった?」
「でももう、これは必要ないから」
「--へ?」
次の瞬間、麻薙さんはそのハンカチを川に向かって放り投げた。
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