学校1の美少女が保健委員長の俺に「胸を揉め」ってお願いしてきたんだが、職務放棄していいですか?

穂村大樹(ほむら だいじゅ)

保健委員長のお仕事

お仕事1

第1-1話 「保健委員長だから」

「それじゃあ今日は解散です。次回までに手洗い場に設置する手洗いのイラストを完成させてきて下さい」


 保健委員長の俺、保科ほしな健文たけふみの挨拶で今日の保健委員会は解散となり、保健委員達が帰宅していく。


 今日は一週間に一度開催される委員会の日で、委員会を終えた俺は机上の資料を整理していた。


「おつかれさま〜。今日の委員会も完璧に進行してたね。流石ほし君、保健委員長になるべくして生まれてきた男だよ」


 委員会終わりに声をかけてきたのは保健委員の千国ちくに優愛ゆうあ


 千国とは同じクラスで席が隣になってから会話をするようになった。


 話しかけてきたのは千国からだったが、俺に話しかけるのは容易なことではない。


 俺は人と比べてあまりにも目つきが悪い。


 そのせいで、実際の中身は小心者なごく普通の男子高校生なのに周囲には人が集まってこない。


 それなのに、千国は席が隣になっただけで怖がることなく俺に話しかけてきた。


 理由を訊いても、「別に怖くなかったもん」とだけ言われるので、恐らくはその他大勢の反応が普通で、千国の危機管理能力的な何かが欠如してしまっているのだと思う。


「普通に進行してただけだろ。それに保健委員長になるべくして生まれてきたってたいそれたこと言ってるけど名前に保と建が入ってるからって安直な理由で先生から保健委員長に指名されただけなんだから適正なんてゼロだろ。どう考えても名前負けしてるし、そんな理由で委員長やらされるこっちの身にもなってくれよ」

「ほし君は頑張ってるよ。そんな理由で委員長にさせられたのに真面目に委員長の仕事やり遂げてるんだもん。むしろ名前勝ちしてる」


 名前勝ちなんて言葉聞いたことないが、普段誰とも会話をせず褒められた経験なんて記憶にないのでこれがお世辞だとしても嫌な気分ではない。


「まあ任された仕事だけはがんばるよ」

「それでいいんだよ。それができるのがすごいんだから」


 自画自賛をしたいわけではないが、正直言って俺自身保健委員会の仕事は滞りなく無難にやり遂げられていると思っている。


 しかし、この時の俺はまだ知らない。


 任されている保健委員長の仕事の範疇を超え、無理難題を押し付けてくる人物と出会うことを。






 今日は中間テストの日。


 昨晩遅くまで委員会の仕事を片付けていたため、テスト勉強があまりできず夜更かしをしてしまい寝不足で家を出る時間が普段より遅くなってしまった。


 先生から意味の分からない理由で押し付けられた保健委員長ではあるが、任されたからには仕事を疎かにするわけにはいかないからな。


 家を出るのが遅くなってしまったが、ホームルームが始まる直前には校門を跨げそうだと安堵した俺は走るスピードを少し緩めた。


 もう少しで校門が目に入る位置までやってきたその時、道端で蹲っている女子生徒を見つけた。


 その女子生徒を見た瞬間、それが誰なのかをすぐ把握できた。


 道端に蹲っていたのは同学年の麻薙あさなぎ十祈とき


 別段女子生徒に興味のない俺だが、男子生徒の人気ナンバーワンである麻薙の話は嫌でも耳に入る。


 腰上まで伸びた長い黒髪を靡かせ校舎を歩いているその姿はこの俺でさえ目を奪われそうになる程だ。


 それ程までの美少女なら友達も多くクラスの中心人物だと思うかもしれないが、麻薙は極端に愛想が悪く校内では一人でいる姿しか見かけた記憶はない。

 それでも男子生徒からの人気が高いのは、その冷たい性格に惹かれる男子が多いからだ。


 その気持ちも分からなくはないが、「叩かれたい」とか、「踏まれたい」と言っている男子を見るとそれは流石に如何なものかと口を挟みたくなる。


 そんな麻薙が道端で蹲っている状況に出くわせば男子生徒なら恩を売るチャンスだと飛びつくのかもしれないが、麻薙を助ければ間違いなくテストには間に合わなくなるだろうし、麻薙と仲良くなりたいわけでもないので手を差し伸べる必要はない……と言いたいところだが、保健委員長の俺が体調の悪い生徒を見過ごすわけにもいかない。


 小さくため息を吐いてから麻薙に近寄った。


 近くで見ると麻薙の顔色は悪く調子が良いと言える状況ではない。


「大丈夫か?」

「大丈夫よ。少しめまいがしただけだから」

「立てるか?」

「ちょっと一人で立つのは難しそう……」

「よっと」


 一人ではとてもじゃないが歩行できる状態になかったので、麻薙の脇に腕を入れ持ち上げてから肩を貸す体勢を取った。


「な、何してるの?」

「保健室まで運ぶんだよ。知らないだろうけど俺、保健委員長だから」

「本当に気を遣ってもらわなくても大丈夫。これじゃああなたが遅刻しちゃうでしょ」

「いいんだよ別に遅刻したって」

「で、でも今日は中間テストだから……」

「遅刻して補習になろうがなんだろうがいいんだよ。俺は保健委員長なんだから、この学校に通う生徒の健康を優先するのは当然だろ」

「なんでそこまで?」

「特別な理由はないよ。保健委員長だからってだけだ」


 その後、保健室に到着するまで麻薙との会話は一度もなく気まずい時間が流れたが、なんとか病人を保健室まで運ぶ任務は遂行し、俺は補習を受けることになった。

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