運命の糸のその先は 11

 手のひらに収まるほどの懐中電灯は、まばゆい光を放って、道を照らし出した。おもちゃみたいなこの懐中電灯でも結構明るいので、最初使った時は妙に感心したものだ。

 懐中電灯を持った右手を上へと上げていき、女性の足下、ストッキングを履いた足からスカート、ニットを通って、マフラーが巻かれた首元から顔までを順番に照らした。彼女は顔を手で隠すことなく、僕たちのことを見つめていた。

「赤井さん」

 顔がわかったところで、彼女の顔に光が当たらないように光源を下げた。もう一度呼びかけて、彼女に駆け寄った。

 赤井さんが、こうして無事にいてくれるだけで本当によかった。ほら見ろ、赤井さんはちゃんとここにいるじゃないか、と真壁に言ってやりたかった。

「ごめん、まぶしかったよね」

 腕を伸ばせば届く距離まで近づくと、はたと足を止めた。彼女の様子が、少しおかしいように思えた。

「もしかして、怒ってる?」

 本来僕と交わした約束は結果的に破ることになってしまったが、仕方ない。何せ、彼女が後から約束した響との待ち合わせに合わせたのだから。

「約束、破ったから?」

 赤井さんは無言のまま、手をマフラーに置いた。

「赤井さん?」


「毎日、一緒に帰ってくれるって約束したよね?」

「そうだね」

「それ、本当に守れるの?」

「……え?」

「大学を卒業しても、一緒に帰ってくれるの?

 就職先の同じ会社からも、結婚して同じ家にも、一緒に帰ってくれるの?」

「…………え?」

 さすがにそこまでは想定していない。就職も結婚も、遙か遠い未来の話で、そこに赤井さんがいるかどうかも考えたことはなかった。

「なんで、いつもそのマフラーしているの?」

 機械に吹き込んだ声を再生したように、赤井さんが言う。

「急に何?」

「なんで、いつもそのマフラーしているの?

 そう聞いたよね」

 赤井さんは、マフラーの結び目をほどきだした。

「それはネ」

 結び目がほどけて、赤いマフラーの端が垂れ下がる。

「マフラーしてなイト」

 首元があらわになる。血で染まったように、真っ赤な液体が広がっていた。

「こうなッチャう」


 頭部が前に転げて、地面に落ちた。


「カラダヨ」



 地面に転がった生首が、そう答えた。

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