手を貸してくれませんか 6
僕の頭の中でウデババアとカシマさんが結びついた頃には、響から現れた女の幽霊が子どもたちに手を伸ばして追い回していた。
今思えば、腕を求めてさまよい歩くはずのウデババアがなんで足まで欲しがるんだ、とツッコめばよかったのだ。
テケテケの方が怖いという話をしていたので、怖い本には少なくともテケテケが出てくる話があるはず。テケテケという妖怪は聞いたことがある、そしておそらくは実在する。同じくくりとしてウデババアが登場するなら、ウデババアにも何らかのモデルがいると推測できたはずなのだ。
僕が知っている範囲でウデババアに似た妖怪を探すとしたら、1つだけ心当たりがある。響から出現するなり「手を寄越せ」と言ってきた女の幽霊。真壁は最後の最後でぼかしたが、真壁が響をその名で呼んだあたりを考えると、あの女の幽霊こそカシマさんだったのだ。
手と腕という微妙な差異はあるものの、最初の状況がウデババアに酷似している。となると、おそらくウデババアはカシマさんをモデルにした妖怪であろう。
真壁の話とりんかさんの話を合体すると、
カシマさんは話を聞いたり読んだりしたら呪われる話で、
正体には様々な説があるが手を求めてさまよい歩くと言われており、
出会った子ども、とは限らないか、に手をくれといい、
手をくれと言われたら今使ってます、
足をくれと言われたら今必要です、
その話を誰から聞いたかと聞かれたらウデババア、違うな、カシマさん、か? と答えないと手を持っていかれたりあの世に引きずり込まれたりする、
ということだろう。
僕がもっと早く有効に頭を使っていれば、こんな事態を回避できたに違いない。
今、僕が助けるべき対象はたける君だけでなく子どもたち全員、おやつの時間に話を聞いていたメンバーだ。
カシマさんは、子どもたちに次々に襲いかかった。金切り声のようなものをあげて、鬼のような手を伸ばして子どもたちを捕らえる。カシマさんは捕まえた子どもたちを引きずって、「手を寄越せ」とすごんだ。
どの子もすぐに助けなければならないが、まず一番近くで捕まっているひまりさんの元に向かった。
ひまりさんの腕を握りしめる手に飛びこうとした途端、ものすごい圧力で上から押さえつけられる。呼吸ができなくて苦しい。じたばたもがいていると、背中に靴で蹴られたような感触が走った。僕はあっ、とうめき声をあげる。
起き上がれないとわかったのか、押さえつけられていたものから解放された。僕は踏みつけたものの正体を見上げた。
「響……?」
響は別人のように、僕を見下すような視線を向けると、もう1回僕の背中を踏みつけた。うめき声とともに、体の中のものを吐きそうになった。
前を見ると、子どもたちは全員、僕ですらつかまえられなかったかい君まで捕まってしまって、青白い顔をしてわなわな震えている。そこらかしこから「手をよこせ」「足をよこせ」と不気味な声がこだまする。子どもたちは抵抗を続けて逃げようとしているようだが、カシマさんにつかまれた腕や足を握る手にも力がかかっていて、今にももげそうだ。
「響、子どもたちは助けるんだ」
響の腕が伸びてきて、僕の頭をつかんだ。
「今どういう状況だか分かってるか?」
「子どもたちが死にそうなんだぞ――」
響は僕の髪を引っ張りあげた。
「今この状況で、オレがあのガキどもを助けるとでも思ってんのか?」
髪を無理矢理引っ張りあげられる痛みに耐えながら、響はカシマさんに操られているのだと願っていた。響は絶対にそんなこと言わない。響なら――。
乱暴に手が離されて、僕の顎は地面に打ちつけられた。
「あんなやつら、生きてても仕方ないだろ」
響の声で、そう言うのが聞こえた。響は僕を仰向けにして、顔をのぞき込んだ。
「目を覚ましてくれよ――」
「目を覚ますのはおまえだぜ、夕介。人をバカにして、サボって、ハブって、人の邪魔して、いじめて、見て見ぬふりして、あげくの果てには人のせい。
そこまでのクズを助けてくれって懇願するおまえも大概だろ。こんなどうしようもないやつらを無罪放免、野放しにしてくれって言っているようなもんなんだからな。
それとも子どもだから無条件で許してやれってか?」
首元を両手で押さえつけられる。圧力がかかる首元からなんとか手をどけようと、手首をつかんで剥がそうとしたが、全く力がかからない。
このままじゃ僕も子どもたちも殺される。
響が人殺しになってしまう。
先生になりたいんだろ。そのために子どもたちと遊ぶサークルに入るんだろ。伝えようとしても首が絞められていては、声すら出せなかった。
このまま死んでたまるかと力を振り絞っても、抵抗する力すら尽きてしまい、腕が地面についてしまった。
今の僕にできることがあるんだろうか。最低な大人のまま僕は死んでいくんだろうか。
目の前が走馬灯のように思い起こされた時、僕はたった1つの望みを思い出した。
僕の首元を締める力にスパートがかかる。響はこのまま僕を殺す気だ。
だらりと垂れ下がった右腕の力を振り絞って、上着のポケットを漁る。力尽きる前に、目当てのものを取り出した。
僕は響の真実が知りたい。
真上に覆い被さっている響に向かって、あの少女からもらった懐中電灯の光を当てた。
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