異世界に昇る
異世界に昇る 1
4時44分。駅前の十字路にて。
時計を確認しながら、今か今かと待っていると、彼女は現れた。
「君っ」
僕は十字路の真ん中に立っていた女の子に駆け寄った。
「君、何者なの?」
車のクラクションも気にとめず、僕は彼女に問いかけた。
全く反応がないので、「ねえ!」と肩に手を置く。ようやく気づいたようで、くるりとこちらを振り向いた。
あどけなさを残した顔つき。制服のようなボレロとブラウスとスカート。頭にはつばのついた帽子、手にはトランク。やはりあの日、夕焼けの中十字路に立っていた、何でも照らしてくれるという懐中電灯をくれた、あの少女だった。
彼女はスカートを翻してカバンの持ち手を両手でつかむと、カバンを持ち上げて歩道へと走って行ってしまった。
「待て!」
僕は手を伸ばして彼女を追いかけた。昨日今日と、まさか連続して子どもを追いかける羽目になるとは。しかもよく重そうなカバンを持って、颯爽と走って行けるものだ。今回も僕は自分の体力のなさを呪った。
彼女は急に曲がって敷地に入っていったので、一瞬ためらったものの、えいや、と彼女を追いかけて曲がった。
曲がった先に、女の子は立ち止まっていた。僕の目の前にいながら、後ろを振り返ることもなく逃げるそぶりもないので、息を整えながら周囲を見回す。滑り台、ブランコ、砂場、そしてベンチ。
彼女から懐中電灯をもらった、あの小さな児童公園だった。
女の子はようやく振り向いて、僕に気づいたようでニコリと微笑んで見せた。あのときと同じ笑顔だった。僕たちは公園に1つしかない同じベンチに腰掛けた。
「君は一体」
彼女の大きな瞳が、僕の顔をじっと見つめる。僕はつばを飲み込んだ。
「四辻の少女」
こちらから話を切り出した。
「4時44分の四辻の少女。4時44分になると、四つ角、ああいう十字路とかに現れるっていわれている。
そして話しかけると、大概不幸になる」
肩を触って追いかけてきた見知らぬ男が、いきなりこんな突拍子もない話をしてきたら誰だって怖いだろう。この時の僕はそんなことすら思い浮かばずに、彼女に語り続けた。
「覚えてないかもしれないけれど、僕たちは一度、あの交差点で会ってる。君が車の行き交う交差点にぽつんと立っていたものだから、危なっかしくて僕は君を連れ去ったんだよ。
で、君は僕をこの公園に連れてきた。僕が話をしたかったから。そして、ここで君は僕に小さな懐中電灯をくれた」
今日も羽織ってきた上着のポケットから懐中電灯を取り出した。手のひらの上に置いて、彼女に差し向ける。
「その日から僕は、なんだかおかしくなったみたいなんだ。悪夢を見るたびにおかしなことが起こる。友達がいきなり化け物みたいになって襲ってくるし、たまたま知り合った人は死んでいたし、別の友達は、化け物に体を乗っ取られて子どもに襲いかかった!
教えてよ。君からもらった懐中電灯は、僕の身に起きたことと何か関係があるのかい?」
問い詰めると、彼女は答えた。
「うん。私たち前も会ってるし、そのライトもあげたよね」
以前聞いたときと同じ、鈴のように高い、ころころした声だった。
「君は」
「四辻の少女。そう呼ばれているみたいね」
彼女は、僕に顔を近づけた。
「あなたが怪異に遭うのはね、私に触ったからだよ」
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