彼女が欲しいと思ってたら婚約者が3人できてました! ……作った記憶ないけど
シクラメン
第1話 コーヒー飲んだら婚約者ができた
「ハル先輩! 下で飲み物買ってこようと思ってるんですけど、何か入ります?」
気を効かせてそう言ってくれたのは、2人しかいない文芸部の後輩の
下、というのは自販機のことだ。
うちの学校に購買は無いから。
「んー。なんでも良いよ」
「おっけ〜。買ってきます」
「あ、お金……」
まぁ、戻ってきてから渡せばいいや。
そんなことを思いながら手元のラノベに視線を戻した。
読み進めていると、すぐに
「はい、先輩。買ってきましたよ」
「ありがと、水瀬。これは?」
「コーヒーです!」
そういって、紙パックのコーヒーが俺の机の上に置かれる。
「……そ、そっか。ありがとな」
「あれ? こういうの嫌いでした?」
「いや、嫌いってわけじゃないんだが……」
俺はシンプルにコーヒーが苦手だ。
体質的にカフェインで酔うため、一口コーヒーを飲むと頭が痛くなる。
だから、なるべく飲まないようにしているんだが……。
「じゃあ、どうぞ!」
そういって、
「そうだ。お金払うよ」
「いいですよ! 今日、ハル先輩誕生日じゃないですかぁ」
「これが誕生日プレゼント?」
「そです!」
なら、素直に受け取ろうっと。
「ありがとな」
「いえいえ。お返し期待してますね」
それが狙いか。
「なーんて、冗談です。こんなのでお返し狙うほど、私はがめつい女じゃないですから!」
「がめついって……」
今日日聞かないな、その言葉……。
しばらく、部室の中にお互いにページをめくる音だけが響いていたが……ふと
「飲まないんですか、それ」
「え?」
「ハル先輩、ぜんぜん口つけないから……」
「ほ、本に集中しててな?」
確かに後輩が買ってきてくれたものに手をつけないって、普通に失礼だよな。
俺はそういって誤魔化すと、コーヒーのストローを取り出して紙パックに差し込んで一口飲んだ。
「なーんだ。ハル先輩が『後輩の買ってきたものなんて飲めるかっ!』なんて言う人だったら、私部活やめるところでした」
「俺もしかしてそんなやつだと思われてる?」
そんなゴリゴリの体育会系みたいなノリが嫌で文芸部入ったんだけど、俺。
「冗談ですよ。冗談!」
なんて笑ってる
あれ? 俺、カフェインに耐性できた?
「買ってきてくれてありがと。美味しいよ、これ」
「ハル先輩、あんまりコーヒー系買わないんで苦手なのかなって思ってたんですけど、お口にあったなら何よりです!」
「おー、よく知ってんね」
「いつも先輩のこと見てますから」
さらっと言ってニコっと笑った
この子、こういうとこあるからな〜。
「先輩、ちょっと顔赤いですけど大丈夫ですか?」
そして、半笑いでそう聞いてくる。
「あ、ああ……。まぁな……」
「それでハル先輩。いま欲しいものとかありますか?」
「欲しいもの?」
「だってほら、今日誕生日じゃないですか」
「……これは?」
俺がそういってコーヒーを手にもつと、
「いや、コーヒーを本当にプレゼントとして送るわけないじゃないですか。いつもお世話になってるんで、なにか贈りますよ!」
「……欲しいものね」
俺は少し考え込むようにして黙り込んだが、頭がふわふわして考えられない。
「彼女かな」
しかも、こんな適当なことを言ってしまう始末。
自分で言ってて何いってんだって思うわ。
「それなら……私がなりましょうか?」
少しだけ恥ずかしそうに、ただそれ以上に小悪魔的に笑いながら水瀬がそういうものだから……俺は派手に顔を赤くした。
「そ、そういうこと言うなよ」
悲しいかな、女の子に強く出れない俺はこう言うしか無いのだ。
「何でですか?」
「だ、だって……勘違い、するだろ?」
そう言ったのを誤魔化すように俺はコーヒーに口を付けて、一気に飲んだ。
そこからの記憶が、ない。
無いので、ある。
――――――――――――――
朝日が窓から差し込んで、目を覚ます……のが、いつものことなのだが、今日は違った。キッチンの方から音がする。その不気味な物音で目を覚ました。
……俺は、一人暮らしなんだけど?
母親を幼い頃に無くした俺は、シングルファザー家庭で育った。で、そんな親父だが今は単身赴任中で家にいないのだ。
俺は恐る恐る顔をキッチンへと覗かせると、そこには長く蒼い髪が舞っていた。
「あ、ハル先輩。やっと起きたんですね。もう、起きるの遅いんですからぁ〜」
「……み、水瀬?」
どうして俺の家に?
そう問いかけようとしたのだが、彼女の顔が露骨に不機嫌になった。
「その呼び方、やです」
ちょっとむっとした表情を浮かべて、
「ちゃんと昨日みたいに名前で呼んでください」
「……な、名前で?」
何の話……?
「先輩がそう呼んだんじゃないですか」
「そ、そうだったっけ……? わ、悪いな。
そういうと、彼女は満足したように頷くと味噌汁をお椀によそった。
「座ってください。もう、ご飯できてますよ」
「あ、ああ……」
狐につままれる、とはこういう時に使うのだろうか。
何で俺の家に後輩の水瀬……じゃなくて、弥月がいるのか分からないが、とにかく俺は彼女の言葉に促されるように椅子に座った。
「先輩のお茶碗、欠けてますよ?」
「い、良いんだよ。別に、使えるから……」
まさかまだ夢でも見てるのかと思いながら俺はそういうと、お茶碗を手に持った。
「じゃあ、今度の土曜日に一緒に買いに行きましょう!」
パン、と手を叩いて
「え? 別にそこまでしなくても良いけど……」
「ついでに私の食器も買っていいですか? 先輩とお揃いのやつ」
そういってご機嫌になる
「あと、先輩って本当に1人暮らしなんですね。合鍵もらった時は、ちょっと嘘だなって思っちゃいましたけど……そんな先輩も大胆で素敵でした♡」
そういって、ポケットから鍵を取り出して俺に見せつけてくる
えっ!? 合鍵?
俺の家の??
なんで???
しかし、鍵フェチでもなんでも無い俺にはそれが本物の合鍵なのかは分からないまま。
「んー。先輩、見た感じ家事とかできなさそうだし、これは私が定期的に来ないとだめですかねー!」
「え、来てくれんの?」
「あったりまえじゃないですか。だって、私たち結婚するんですから」
「…………ん?」
いま、なんて言った?
思わず顔が青くなる。
昨日の記憶はない。
だが、その
「やだなぁ、先輩。昨日あんなに強く約束したじゃないですか」
それを誰よりも知っている俺は……いや、俺だからこそ続けられた言葉が真実以外の何者でもないということを、
「私たち、結婚を前提に付き合うって……ね?」
誰よりも先に理解した。
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