第21話 コーヒーを飲まなくても押しには弱いようです
「ハル、一緒に寝ましょ」
「な、なんで……?」
「結婚したら2人で寝るのよ? 今のうちから寝てても変わらないじゃない」
「そうなの?」
「そうよ」
「そうなの?」というのは、結婚したから2人で寝るんであって、結婚してないんだったら別に2人で寝る必要は無いんじゃないかという疑問だったのだが、
い、いや……! 待て俺……ッ!
今の今まで
まだ、一緒に寝るというのは速いし……それに一線を超えたら、今までの努力が全て水の泡になる……ッ!
ここは勇気を出して「1人で寝る」と言うんだ……っ!!
「ちょっと寄って」
「え? ああ、うん……」
嘘……俺の意思……弱すぎ……?
「狭いわね」
ベッドに入って、
俺のベッドは1人用。
そこに無理やり2人入っているんだから、狭い。とにかく狭い。
だから、
……流石にこれはライン超えだってッ!
と、俺の理性が叫ぶが……残念。人間は理性に勝てない本能の動物であり、俺は目と鼻の先にある
……近くで見ても可愛いな。
俺は彼女を見ながら、心の中でそう漏らした。
「……どうしたの?」
そういった
「なんでも無いよ」
「嘘。いま、ハルが嘘ついた顔してた」
「……わかる?」
「多少はね」
「ちょ、ちょっと! くすぐったいって!」
だが、
「ハルの匂いがする」
「……臭いだろ」
「ううん。良い匂いだわ」
「嘘」
「嘘じゃない」
「ちょっと?
「……難しいわね」
「何が?」
「キスマーク付けるの」
「え? キスマークって、口紅で付けるんじゃないの??」
「違うわよ。キスマークってのは、キスしたときにちょっとそこを吸うのよ」
「……詳しいな」
「本で読んで知ったの。ちゃんと、ハルに付けとかないって思って」
「何で俺に付けるんだよ」
「他の女に取られたくないから」
「……マーキング?」
「そう。ここに印を付けておくの。私のハルだって」
愛おしそうに俺の首を撫でながら
まるで吸血鬼みたいだ。
「……俺の意思は?」
「ハルも私に付けていいわよ」
「…………はい?」
「ほら、ちゃんと。見えるところに」
そういって、
「でも、まだ私がつけてないから……私の方が先につけるわね」
ちくりとした痛みがわずかに走ると、
「綺麗にできたわ」
「……そ、そうか。良かったな」
いや良かったのか?
これはよくないんじゃないのか?
だが、
「ハルも、ちゃんと付けて」
「……良いのか? 付けても」
「付けてほしいの」
そういって流されるがままに、俺は
初めて付けたキスマークはいびつな形をしていて、本当にうまくできているのかが心配だった。
「どう? できた?」
「ああ……。なんか、変な形になったけど」
「それで良いの。スマホ、持ってくればよかった。写真撮りたいわ」
「こんなの、わざわざ写真に残すなくてもいいだろ」
「ダメよ。ハルが最初につけてくれたんだもの」
そうは言うが、
「……
それを俺は手で制す。
今度は、ちゃんと言えた。
「どうして?」
「どうしても」
「……む」
でも、今度は余裕を持って対処できた。
これ以上俺たちの関係性が先に進んだら……もう、戻れなくなる。
だから、駄目だ。
「もう、寝よう。
「……うん」
俺は
ちゃんと
俺は
「おやすみ、ハル」
9割眠りかけていた重たい目を開けて……ゆっくりと、
すると、まつげが触れてしまいそうなくらい近い場所に
「ダメって言われたら、やりたくなるでしょ?」
夢、だろうと俺はぼんやりする頭で思った。
彼女は微笑むと……再び、唇を重ねてきた。
甘く、柔らかく……貪欲に、
「おやすみなさい、ハル」
俺はそれが夢なのか、現実なのか……それすら、分からないままに俺は眠気に身体を任せて意識を失った。
朝、目を覚ますと……隣に、
「……あれ?」
もしかして、
俺は身体を起こして、パジャマ姿のままリビングに向かった。
すると、そこには2人の女の子が無言で向かい合っているではないか。
「……なんでアンタがハルの家に来るのよ」
「それはこっちのセリフです。どうして、あなたがハルさんの家にいるんですか」
互いが互いをにらみ合うようにして、座っている。
だが、その空気はあまりにも一触即発で、俺は寝起きの頭が一瞬にして全覚醒した。
「あ、ハル。起きたのね。おはよう」
「あ、ハルさん。おはようございます」
2人が俺に向かってにこやかに挨拶したとき、俺はついに恐れていた時が来たのだと……悟った。
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