第25話 2+1
俺は神様を信じない。
本当に神様なんてものがいるなら、俺の母親は死ななかったと思うのだ。
だが、ここ最近……本当に、ここ最近、俺は神様のいたずらというのは信じ始めている。そうじゃないと、誕生日にコーヒーを飲んで3人の婚約者が目の前にやってくるなんて状況にならないだろう?
だから、きっと神様というのはとびっきり性格が悪いやつだ。
「……せーんぱい。どうしたんですか? そんな焦ったような顔して」
「いっ、いや、別に! なんでもないぞ!」
そんな俺の思考を現実に戻すかのように
なんでよりにもよってこのタイミングで
と、思ったが、
問題は
よく考えてみれば、前にも
「またお腹の調子が悪いんですか?」
「いや、お腹の調子が悪いっていうか……!」
今は家の中にルナちゃんと
「あー、もしかして。私に隠れて女の子でも連れ込んでいるんですか?」
「…………」
冗談めかして
「でも、先輩でもこの時間に起きるんですね。休みの日はいっつもお昼まで寝てると思ってました」
「そ、そういう日もあるかな……!」
俺がどう誤魔化すか冷や汗を走らせていると、廊下の奥から足音が聞こえてきて、
「ハル? いつまで玄関で話してるの?」
「……あっ」
時すでに遅し。
玄関口に立っていた
「だっ、誰ですか!? なんで女の人が先輩の家にいるんですかッ!?」
「そ、そっちこそ誰よ! ハル、説明して!!」
「ハル先輩! 説明してください!!」
俺は2人から詰め寄られると、全てを諦めて両手を上に上げると降参のポーズ。
「……こっちが部活の後輩の
俺はお互いにそれぞれの素性を簡単に説明すると、
「で、部屋の中にもう1人いる」
「……どういうことですか?」
ルナちゃんも
彼女は最初、困惑の表情を隠しもしなかったが、ルナちゃんを見るとぱっと顔を輝かせて小走りで駆け寄った。
「わっ! すごい! 本物の金髪ですよ!! ハル先輩は女たらしだと思ってましたけど、まさか外国の方までたらしてるとは!」
「それ日本語あってんの……?」
たらしてるってのは、果たして動詞になるんだろうか。
「ど、どなたですか……?」
「ハル先輩の後輩の
「ハルさんの後輩……」
ルナちゃんはそういうと、
そして、俺の方を向いて何かを言おうとしていたがそれよりも先に、
「わー! 目が青い! 宝石みたい!!」
「
ルナちゃんが小声で、お礼を言っていた。
「で、なんでハルの後輩がここに来るの?」
「……昨日、告白された」
「えっ!?」
ルナちゃんと
「それって……」
「……ごめん。ちゃんと話すよ」
俺はそういって、3人を食卓に集めて……ついに、正直に話すことにした。コーヒーを飲んでから、記憶が無くなったこと。目を開けたら3人から告白を受けていたこと。また、その記憶もないということ。
だから、告白されても、すぐには頷けないということ。
そのことを、俺はただ正直に話した。
話すしか、無かった。
今まで黙っていたという心苦しさが、喋りを加速させた。
そんなに長くは話さなかったと思う。5分か、10分か……とにかく、それくらいだ。だが、俺以外の誰も喋らずただ黙って俺の話を聞いていた。
「黙ってて……ごめん」
俺は最後にそういって、頭を下げた。
3人には絶縁されたっておかしくないことをした。
だから、正直……この話で全てを失っても俺は良いと思った。
それが報いだとも。
だが、最初に返ってきたのは俺の思っていた言葉とは違うものだった。
「だから、先輩は私の告白にOKしてくれなかったんですね」
「……悪かった」
「良いんです。むしろ、先輩が保留してくれたことで……安心しました」
「安心?」
「だって、私にもまだ可能性があるってことですよね?」
「…………可能性」
「はい! だから……やることは一緒です。先輩が私のことを好きにさせれば良いだけなんですから」
「……怒らない、のか?」
俺が
「怒ったら、私と付き合ってくれるんですか?」
「……それは」
そんなことにはならない。
「でしょう? だから、怒りません。怒ったってなんにもなりませんから」
「ハルさんが……正直に言ってくれたことは嬉しいです。でも、私は……」
そこまで言って、ルナちゃんは明らかに弱気になると首をぶんぶんと横に振った。
「大丈夫です! 私とハルさんは運命で繋がってますから!」
「……うん」
「それにハルさんが私を家に入れるときに、拒否する権利もあったんです。でも、ハルさんは拒否しなかった。大丈夫です。ハルさん、私はハルさんのことを信じてます」
「俺は……信用されるような人間なんかじゃ」
「そりゃ……ちょっとは、嫌です。私だけを見てほしいです。でも、大丈夫。最後には私とハルさんが結ばれるから、大丈夫です」
何が大丈夫なのか俺にはさっぱり分からないまま、ルナちゃんはそういうとにっこり笑った。
「……ハルに女が近づかないようにしてきたのに、全部裏目に出ちゃったわ」
「それ本当にやってたの?」
ルナちゃんが言ってたのを聞いた時は、ルナちゃんが
なんでそんなことを……。
「しょ、小学生のときはね。ハルが誰かと付き合うのが嫌だったから。……でも、中学生に入ってやめたの。そんなことをしなくても、ハルは私と約束したから……それを護ってくれるって思ったの」
「……悪い」
「まさか、その間にこんなことになるなんて思ってなかったわ」
「俺も思ってなかったよ」
「けどね、こんな状況になって……もしハルが他の2人のどっちかを好きになってたら、ハルは私の告白を断ってた。そうでしょ?」
いや、拒否権無かったじゃん……と、思いながらも俺はうなずく。
誰かと付き合っていたら、流石にそのことを
意志薄弱も薄弱な俺だが、流石にその一線は超えなかったと思う。
いや、思いたい。……でも、俺のことだからどうかなぁ……?
いまいち、自分を信じきれない。
これも全部、コーヒーが悪いんだ。
「でも、ハルは受け入れてくれた。それって、やっぱり私のことが一番好きってことよね?」
「
ルナちゃんがツッコむと、
「冗談よ。でも、話してくれてありがとう」
「……悪い」
俺が再び頭を下げると、
「でも、まさか先輩のことが好きな人がこんなにいるとは……」
「それはこっちのセリフよ。ハルは私だけに優しんだって思ってた。……でも、思い上がりだったわ」
「ハルさんはみんなに優しいんです。それがハルさんの良いところですから」
3人がそろって褒めてくれるのだが……逆に俺はそれで胃が痛くなり始めた。まさか、褒められて胃が痛くなるなんてことになるとは、俺も思っていなかった。
だが、俺が正直に言ったことについて3人が怒らなかったというのは……完全に予想外だったし、その結果として
俺がそう安心し始めた矢先、
「でも、私が一番先輩のことが好きなんですけどね」
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