第26話 恋に恋して
「私がいちばん先輩のことが好きですけどね」
俺には区別がつかなかった。
ただ、先程までの
勘弁してよ。
「……は?」
「……はい?」
余りにも全く同時にいうものだから、俺も息ぴったりやんかとエセ関西弁を話してしまう始末。いや、本当は喋ってるんじゃなくて心の中でそう思っただけなんだけど。
「ねぇ、ハル。あんたの後輩はどうなってるの? 何を思ったらこんな勘違いをするのよ」
「そうですよ、ハルさん。
ピシッ! と、音がなりそうなくらいの勢いで、2人の視線が俺に向けられる。
やめて! 俺そんな目で見ないで!
心臓が痛くなってくるから!
ただでさえ、今の俺は胃と舌が機能を放棄している。
ここで心臓君に裏切られたら俺はこれから誰に頼って生きれば良いんだよ。
「いや、断ったっていうか……。保留してるっていうか……」
俺がそういうと、
「そもそも、お二人は本当にハル先輩のことが好きなんですか?」
「お、おい、
猛獣の監視員にでもなったかのような気持ちで、俺は
だが、
「いえ、ハル先輩。これはすごく大切な話です」
「た、大切……? なんで」
「お二人は好きを勘違いしているかも知れないからです」
「どういうこと?」
好きを勘違いという言葉の意味がよく分からず、俺は
「良いですか、ハル先輩。
ちなみに、
「だとしたら、勘違いの可能性があります。だって、小学生の頃に好きになるのって……それは、恋に恋してるからですよ」
「恋に恋してるから?」
なにそれ。
「ハル先輩、まず大前提として女の子は恋が大好きです」
「人によると思うけどなぁ」
「だから、恋に恋してるんです。自分も、漫画やドラマのような恋がしたいって。特に小学生の頃は憧れと好きの区別がつかないのです。なにしろ恋愛経験が少ないんですから」
「そんなわけないでしょ!」
と、真っ先に反論したのは
「
「え、そうなの?」
と、言ったのは俺。
「大事なのは、あくまでも
陶酔とはまた、難しい言葉を……。
「良いですか、誰かを好きになっている
「うーん、つまりそれってチョコミント派みたいなもんか?」
「はい?」
「チョコミント派はチョコミントが好きなんじゃなくて、チョコミントが好きな自分が好きってあれと同じだろ?」
「ハル先輩がチョコミント嫌いなのは分かりましたけど、大体そんな感じです」
良かった。間違えたかと思ったけど、大体合ってたみたいだ。
「だから、お二人は小学生の頃にハル先輩のことを好きになったって勘違いしてる可能性があるんです。恋愛物が好きな女の子なら……特に」
「なるほどなぁ……」
だが、名指しされた彼女たちは納得が言っていないのか、明らかに不服そうな顔を浮かべていた。
「そんなわけないでしょ。大体、恋に恋してたって……すぐに冷めるわよ」
「そういうもんなのか?」
「……って、聞いたことがあるだけよ。わ、私の初恋はハルだし」
いや、この状況はモテてるのか?
俺が夢見ていたモテ男たちは毎日、こんな修羅場を乗り越えているのか?
「……あの、私も別に恋に恋してるわけじゃなくて、ハルさんのことが好きなんですけど……」
「あの、
「好きです」
なんで、この人たちは恥ずかしげもなく人のことを好きって言えるんだろう……と、俺は他人事のように考えた。
「憧れ、とかじゃないんですか?」
「……憧れ、ですか?」
「だって、
「はい。そのときに、ハル先輩と出会いましたけど」
「それが、どうかしたんですか?」
そして、顔に浮かんでいる表情と全く同じことを言った。
俺も何だかんだで
「だからその……ハルさんは
「先輩ですから」
「それは、恋じゃなくて憧れなんじゃないですか?」
ルナちゃんはまるで、幼稚園児にでも言い聞かせるようにゆっくりと語りかける。
これは今なんの話が始まったの……?
頭が悪すぎて急な話の展開についていけない俺を置いて、ルナちゃんは続ける。
「小学生や、中学生のときに年上の男の方に憧れるなんて……別によくある話だと思うんです。だから、
なるほど……?
ゆっくりとだが、ルナちゃんの言いたいことを俺は理解した。あれだ。幼稚園のときに、幼稚園の先生のことを好きというようなものだ。それは恋なのではなく、憧れみたいなものだから……。
つまり、ルナちゃんはこういうことが言いたいのでは?
俺なりにルナちゃんの話を噛み砕いて、心の中でぽんと手を打った瞬間に
「そんな、幼稚園児じゃないんですから……。それに」
「憧れだとしても、それの何がいけないんですか?」
俺はちらりと時計を見る。
時刻は10:30。
こんなに時間が経つのが遅いと思ったのは、生まれて初めての経験だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます