第2-7話 絡め手の蛇
「食べさせあい……?」
意味が分からず俺は首をかしげた。
そりゃそうだ。
だって俺は記憶を無くしていないのだ。だから、彼女が言っていることが嘘だとしたらすぐに分かる。
だからか、俺には
つまり嘘だ。
食べさせあいってなんだろうか……。
その言葉の不穏さもさることながら、彼女が部室に入る時にさらっと鍵を締めていたのも個人的には恐怖ポイント高めである。帰りたい。今すぐ
自分で自分の首を締め続けるのを自縄自縛というだとかなり前に
二進も三進も行かなくなった俺が首をかしげたまま固まっていると、
「つまりですね、ハル先輩は私に、私はハル先輩にお弁当を食べさせ合うのです」
「それになんの意味が……?」
「部員同士の仲を深めるって、ハル先輩が教えてくれたんですよ」
教えてねぇよ。
「そうなんだ……。じゃあ、文芸部伝統の活動なの?」
「さぁ……。私が入った時に三年生の先輩はいなかったんで、ハル先輩しか知らないと思います」
いや、そんなわけ無いよね。
喉元まで出かけた言葉をぐっと飲み込んで、俺は続けた。
「ふうん? じゃあ、俺は
「やってないです!」
「ん?」
「あ、いえ……。なんでもないです……」
俺は
お前、信じさせる気無いだろ。
「だ、だってこの部活にはハル先輩以外の部員がいないって、先輩が言ってたんですよ!」
「じゃあこれは俺が提案したの?」
「そういうことです」
提案してねぇって。
「だから、私たちは毎日これをやってたんですよ。先輩」
「毎日……?」
「私たちは仲良しだったんですから」
だが、俺の記憶が無いことにあることないこと言いまくれる
「ほら、先輩。あーんです」
なんてことをやってきた。
仕方がないので俺はそれを食べると、今度はお返しとばかりに
「……むぅ」
「どうしたんだ?」
「先輩、上手です」
「上手だと何かマズいのか?」
「一体誰と練習したんですか?」
そんな上手いか? てか、他人の弁当を誰かに食べさせるのに上手いとか下手とか存在すんのか??
「
「そ、それなら良いんですけど……」
と、ちょっと満更でも無さそうな顔して、不満の矛先を収める
なんてことをやりながら弁当を互いに食べさせあうという謎の時間を過ごしている間、俺はこの行為が何かに似ているということをずっと考えていたのだが……いまいち思い当たるものがない。
なんだろこれ……。
そう考え続けながら、
これあれだ。餌付けだ。
餌付けに似てるんだ。
昔、友達が小鳥を飼っていて一度だけ餌やりをやらせてもらったことがあるから、それに似てるんだ……。と、後輩の可愛さの方向転換を終わらせると、
渋いもん飲むなぁ。
「そういえば先輩」
「ん?」
「昨日、
俺がそんな彼女を横目に見ながら麦茶を飲んでいると、唐突に爆弾を放り投げてきたのでむせそうになった。
急に何言い出すんだこの子は!?
「……何の話だ?」
しかし、努めて記憶が無いように。
全く何も知らないかのように俺はしらを切る。
「だってこれ、先輩ですよね」
「…………」
そう言って
「……そうだな。俺だな」
「病院の帰りにしてはおかしいと思うですよ。だって、こんなに
「そ、そうかな……?」
「ええ、おかしいです。だってハル先輩と私は付き合ってたんですから」
「え、そうなの?」
「はい。ハル先輩は記憶を無くしているから分からないかも知れませんが、私とハル先輩は付き合ってたんです。それに、将来も約束してたんです」
「しょ、将来って……?」
「結婚に決まってるじゃないですか」
ほら、またさらっと嘘を付く!
俺はその話断っただろ!!
ガンッ! と、大きな音がして椅子が倒れるが、俺は手をついて頭をぶつけるのを回避。だが、
「な、何やってんの?」
スカート越しに
何が起きているのか理解ができず、固まったままの俺に一分近くキスをした
「また先輩のファーストキスをもらっちゃいました」
「……また、って」
「記憶があるときのハル先輩のファーストキスも、私だったんですよ?」
こればっかりは事実なので何も言えずに、俺がへたりこんでいると
「お昼休みは長いですから、たくさんできますね。先輩」
このために鍵を閉めたのかよ。こいつ……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます