第2-3話 真理の選択
次の日、ガチで俺のことを記憶喪失だと思いこんでいる
医者からは色々と言われていたがその全てを全く覚えていない。
健康に関することとか、なんかそんなことを言われていたような気がするのだが、正直言ってこれから先どうしようかという漠然とした不安しか無かったからだ。
というのも、流石にここまでの大事になってしまった以上、どこかでネタばらしをしなければ行けないというのはよく分かっている。だが、昨日の今日でネタばらしをしようものなら、「お前の記憶喪失、嘘じゃねーか」とツッコまれてしまうことは必至。
なので、それっぽい頃合いを見てネタばらしをしようと思ったのだが、
「それにしても大きな怪我がなくてよかったねぇ、ハルくん」
「すみません……。お忙しいところ」
「いーのよ。昨日、
「ちょっと、ママ。言わなくてもいいから、それ」
ちなみにだが、今の俺の記憶喪失の設定としては「ここ5年間の記憶がなくなっている」である。つまり、
だから、5年前からそこまで容姿の変わっていない
「ねぇ、ハルくん。どう?
「どう、って?」
運転中だと言うのにバックミラーで後部座席に座っている俺の方を見ながら
「だって、今のハルくんが知ってる
あ、これ可愛いって言わされるやつじゃん。
おばさんとの付き合いが長い俺はそれを瞬時に理解。
「そうですね……。始めはびっくりしたんですけど、でも小学校の時から全然変わらず可愛いなって思いました」
「ね? そうでしょ? そうでしょ? ね、どこが可愛いと思ったの?」
「目元ですかね」
「分かってるわね、ハルくん」
なんておばさんに合わせたやり取りをしているものだから、いつ
どうして……と、思って助手席に座っている
そんなこんなで家に着くと、
「今日は
俺と一緒に
「……別に、全部一人で出来るんだけどなぁ」
そんな一人言を漏らしたのもつかの間、家に入ろうと鍵を取り出そうとした瞬間、背伸びした
「うおっ!? な、何? どうしたの?」
「……ハル、あんた」
そして彼女は何かを調べるようにじぃっと俺の瞳を覗き込む。彼女の透き通ったきれいな瞳に吸い込まれるようにして、ただお互いに何も言わない時間を過ごしていると、ふと
「ほんとは記憶喪失じゃないでしょ」
「ど、どういうこと?」
……ば、バレてる。
思わず背筋に冷や汗が走る。
あの四人の中で一番付き合いが長いのが
特に俺が嘘をついたときなど、彼女は信じられない精度でそれを当ててきたりするのだ。つまり、
「今日病院に行ったのは、ハルがどっかで頭を打ってたら何も検査しないのはまずいって思ったから。昨日は慌てたけど、冷静になったらすぐに分かった。ハルが記憶喪失じゃないって」
「な、何の話をしてるんだ……?」
「別に嘘つく必要無いわよ。ハルのことだから、意味もなくこんなことしないでしょ?」
「…………」
さて、俺の中にはいま2つの選択肢があるわけだ。
「確かに昨日のあの状況をどうにかするんだったら、それくらいインパクトがある方が良いとは思ったけど、流石にやりすぎよ。私じゃなかったら気が付かなかったわ」
「……なんで」
「どうしたの?」
「なんで、俺が記憶喪失じゃないって思ったの?」
「簡単よ」
俺がそう尋ねると彼女は不敵に微笑んだ。
「ハルが嘘ついているかなんて、顔を見れば分かるもの」
そう言われてしまうと、手も足も出ない。
俺は深く息を吐き出して、観念したばかりに両手を上げた。
「……よく、分かったな。
「当たり前でしょ? 何年一緒にいると思ってるの」
そして俺は、
「それにしても、記憶喪失ね。ハルも変なことを考えたものね」
「……悪い。こんな大事になると思ってなくて」
「記憶が無くなったなんて言ったら騒ぐに決まってるでしょ。……ハルは、ああいうのから抜けるのだけはうまくなっていくのね」
「ぐぅ……」
ぐぅの音もでねぇ一撃を食らわされた俺は沈黙。
「や、やっぱり……他のみんなに言ったほうが良いかな? 俺の記憶喪失は嘘だったって」
「うーん……。そうね……」
俺が
「ううん。私とハルの二人だけの秘密にしておきましょう」
そう言って微笑んだ。
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