第13話 コーヒー飲んだらデートすることになりました
「ハル先輩。おはようございます!」
「おはよう」
朝から元気な
「顔色悪いですよー? もしかして、私とのデートが楽しみで寝られなかったんですか?」
「そんなところ」
「えっ!? 本当ですか!?」
冗談で軽口を叩いたら、予想以上に彼女は驚いた様子で声を震わせていた。
「せ、先輩。私とのデートが楽しみすぎて寝れないなんて……もう、何歳なんですか」
「今までデートなんてしたことないしな……」
眠いからか、頭が回らずちゃんと受け答えできてるか心配になってくる俺。
「わわっ! じゃあ、先輩は初デートなんですね!」
「あんまりおっきい声で言わないで……。恥ずかしいから……」
「何で恥ずかしいんですか? 私も初デートですよ!」
「えっ? そうなの? 普通に意外だわ」
「普通なんですか? 意外なんですか?」
普通に意外だったんだよ。
「だって、
「か……っ? ハル先輩、もしかして今日は大胆ですね?」
「今まで誰かと付き合ってるんだろうなって」
「……そんなわけ、ないじゃないですか」
「なんて?」
「私が付き合うのはハル先輩が初めてだって言ったんです!」
俺は
「中学のときはハル先輩とこうやっておでかけするなんて思ってなかったです」
「確かにそうだな。
「別にそんなもんじゃないですよ」
俺は運動部のノリが嫌で文化部に入ろうと中学生の時も文芸部だったんだが、
「あんときはびっくりしたけどなぁ。1年にいた可愛い子が部活に入ってくるなんて」
「本当に思ってるんですか? ハル先輩だけでしたよ。文芸部に私が入ってびっくりしてなかったの」
「……まぁな」
そりゃ、
だから、周りの連中が騒ぎ立てるのもよく分かる。
ただ、俺は幼馴染に
「それに、ハル先輩だけでしたもんね。部活で話しかけてきてくれたの」
「そうだったっけ?」
「そうでしたよ。他の人たちはいっつもハル先輩が私と話した後でした」
……ああ、なんだかふと思い出してきた。
あの時は、部活仲間が戸惑っていたのだ。
1年生の可愛い子が、同じ部活に入ってきたって。
だから、誰もどう話しかけて良いのか分からずに腫れ物に扱われるようにして、
俺はそれと全く同じ光景を、
彼女も性格はともかくとして顔が良いから、それでグループに馴染めないことがよくあったのだ。
だから、俺は見ていられなくなって
「そういえば、そんなこともあったな」
「あれすっごい嬉しかったんですよ、先輩」
「そんなこと無いだろ」
クラスの端っこの方でひっそり隠れて本を読んでるようなオタクに話しかけられて嬉しいわけがない。……そうだろ?
「ハル先輩って、時々びっくりするくらい自分のこと卑下しますよね」
「……卑下するっていうか、釣り合ってないっていうか」
「何がですか?」
「俺と、
俺がそういうと、
「そんなわけ無いじゃないですか」
「そうか?」
「そうですよ。むしろ、逆です」
「逆?」
「私が先輩に遠く及ばないんです」
「なんでだよ」
いつもは何でも応えてくれる
「内緒です♪」
「ハル先輩! 映画行きましょう!」
「え? ああ、良いけど……。茶碗とかは?」
「そんなもの後で良いじゃないですか。もしかして、女の子とデートに来てるのにお椀だけかって終わらせるつもりだったんですか?」
「……いや。それだけで良いのかなって思ってたけどさ」
「というわけで映画を見ましょう! デートと言えば、映画ですよ」
「そうなのか?」
「そうなんです」
「だから、映画に行きましょう」
あまりにも
なので、
「ハル先輩、ここにしましょう」
そういって
「あれ? ちょっと高いのか?」
だが、値段を見たときに俺は思わず首を傾げた。
こんなに映画って高かったっけ?
と、疑問に思ったのだ。だが、そんな俺の問いかけに
「はい! カップルシートですから」
「か……なにそれ?」
「え? 知らないんですか? カップルが2人で並んで同じ映画を見れる席ですよ!」
「へー……」
しばらく映画に来ない間に、めちゃくちゃ映画ってのは進化していたらしい。
いや、カップルで同じ席に座ってみるのを進化とは呼ばないか……。
「どんな感じなってるんだ?」
「実は私も知らないんです」
「そうなの?」
「だって言ったじゃないですか。私も初デートなんですから」
「……ああ」
そういえばそうだった。
慣れてるからてっきり……
「もう入れるみたいですね! 行きましょう!」
テレビでCMやってるのを何度か見ただけで、興味も何もなかったのだが……こういう機会でもないと一生見る機会がなさそうで、少し楽しみ。
「わっ。先輩、見てください! これ、本当に2人席ですよ!」
「ほんとだ。しかもこれ、
「えへへ。先輩、何しますか?」
「映画を見るんだよ」
なんてツッコんでで、俺がその席に腰掛けると隣に
その時、ふわりと彼女の方から甘い匂いが漂ってきた。
「楽しみですね、先輩」
「……そうだな」
そして、ゆっくりと
びっくりして、わずかに引きかけた俺の手を
「……楽しみだよ」
俺は冷静を装ってそういうのが、精一杯だった。
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