第15話

居達さんはドリーを叱った日には朝岡に会えず、数日間が過ぎた。他にも用事があったりして当日は駄目だったが、彼は朝岡がもう アンジェリンにちょっかいを出さないと思っていた。少なくともそんな直ぐにはだ。  アンジェリンも居達さんに話した事で安心していた。                彼はドリーの家にも電話をしたが、その時は側にドリーを置きながら電話をした。時差があるが、日本では普通に出られる時間帯にだ。                  母親が出ると、事情を説明した。娘が犯罪未遂の事をしたと。それから、父親もいるなら代わる様にと言った。          母親は聞かれて近くにいるとは言ったが、嫌そうに、後からちゃんとに話すからと言って代わりたがらなかった。         居達さんは母親を怒鳴り付けて、今直ぐに代わる様にと強制した。父親が電話に出ると、又詳しく事情を説明した。目撃者に通報されていたら警察沙汰になる筈だったと、母親に言った様に又同じ事柄を話した。     アメリカは色々と厳しい国だから、もしその目撃者に通報されていたら娘は逮捕されていた。そして犯罪者なら、たとえまだ18歳でも関係なく厳しく罰せられると。     だから今からドリーと代わるから、親からもきつく注意をして二度とこんな事が無い様に言い聞かす様にと言った。そうしてドリーと代わった。               彼女の両親は内容に驚愕しながら、娘にしつこく、自分が何をやったのかを懇懇と説いた。どんなに恐ろしい事をしたのかを。もう絶対にそんな事に協力して、嫌がる相手に男をくっつけようと無理強いしてそんな事をしたら絶対に駄目だと言った。そしてそんな男とも関わらい様にと強く言った。     ドリーは泣きながら交互に両親の言う事を聞きながら、泣きながら謝った。そして二度とそんな馬鹿な事をしないと誓った。    居達さんは横でその様子をしっかりと見届けた。                  そして翌々日にアンジェリンは授業が終わり、ドームに帰ろうとしているとキャンパス内で朝岡を見た。自分が帰る方角にいた。 ドリーとはけりが付いたが居達さんはまだ朝岡と会って、叱り飛ばしていなかった。  ドリーも朝岡には自分が叱られて、親にも電話をかけられたのを話していなかった。  朝岡はアンジェリンを待っていた訳ではなかったのかもしれない。彼女を見ると驚いて じーっと凝視した。           横には彼を好きな、同じ九州出身でやはり25歳の女の生徒がいた。彼女は以前から朝岡が好きで付き合いたいと思っていた。  それはドリーから聞いて知っていた。朝岡はそうしてモテるし、そんな男と付き合わないのは損だとまだアンジェリンに、居達さんから叱られるまでは言っていた位だ。どうしても彼女とくっつけて、この単純で馬鹿な元 おまわりの男を自分の下僕的な味方にしようとしていたからだ。           そしてこの男朝岡を好きな彼女は、彼とドリーとは同じCクラスだった。色が浅黒く髪はショートカットで、いつも濃い原色の服を着ていた。緑や真っ赤やオレンジ、黄色等の色だ。何か信号機の様な感じで、必ず上下ともそうだった。              だから正直趣味は悪かったから、最初は内心驚いたり馬鹿にする者もいた。だが本人は丸で分かっていなかった。         彼女の名は、仮に綾子としよう。綾子は前から朝岡を恋人にしたかったので、よく友達のふりをしてつきまとっていた。      ドリーはアンジェリンに、居達さんから叱られた後にも、彼女が朝岡を相手にしなかったから仕方無く直ぐに綾子と付き合い始めたみたいだと言った。だからアンジェリンは勿体ない事をしたと、まだ言った!!     アンジェリンは、それなら良かったし素晴らしい事だと返事をした。もう自分はうるさく付きまとられて、あんな乱暴をされなくても良いからと言ってやった。ドリーは嫌な顔で睨んだ。                だから、アンジェリンはキャンパスで近くを通らなければドームへと帰れないので内心怯んだが、この二人の横を通らなければならなかった。そうでないともっと遠回りをしなければならない。そこまでわざわざ面倒な事をしたくなかった。            朝岡はアンジェリンに気付くと熱っぽい目で穴が開く様に見つめるし、綾子はそれを見ると気にしながらやはりアンジェリンを見つめた。                  嫌だなぁ!!でもそこを通らないと寮ヘは直ぐに戻れないし、仕方ない!今は綾子もいるし、付き合い始めたなら何かをを仕掛けはて来ないだろう。そう自分に言い聞かせた。 だから知らんぷりして近くへと近付いて行った。見ないで素早く通ろうとした。    すると綾子が朝岡の顔を気を使いながら見ながら話がけた。自分の事を言っていた。  アンジェリンは凄く可愛いからきっと男にうんとモテてボーイフレンドが沢山いたし、いるんだろうと。凄く羨ましい、自分もそうなりたいと。               これはわざとだ。わざとこうした事を言って、好きな男に、相手はもう誰かいるとか誰かを簡単に見つけられるのだからそんな面倒臭い女よりも近場にちゃんとに他がいるよと言う事だ。自分をアピールしている訳だ。 こうした事を女はする。だから綾子が2回そうした内容を言うのが聞こえた。     朝岡はそれを聞くと嫌そうに綾子に答えた。それは違う、彼女は男と一度も付き合った事が無い。日本ではハーフだから凄く虐められていたそうで、だから男とはろくに口も聞けないし聞いた事もないと。        だから自分が付き合いたいと言うと、売春はできないからそうした店ヘ行ってくれと本気で言われた。だから物凄く驚いたし、凄く 可愛そうな境遇だったのだ、と言っているのがアンジェリンに聞こえた。       彼女は用心して、見ないふりをしながらも様子を伺いながら近くを通ったからその内容が耳に入った。              綾子はそれを聞くと信じられないと言って大変に驚き、朝岡は自分も凄く驚いたが本当だと言った。後からドリーに、それを本人からハッキリと聞いたのだと教えられたからと。                  それで綾子はアンジェリンが横を通り過ぎる時には憐れむ様に彼女を見つめて、朝岡も何とも表現できない様な複雑な顔をしながら彼女を見つめた。             アンジェリンはそうした哀れみの表情で見られるのが不快だったから、腹立たしく感じながら通り過ぎた。            翌日もその次の日も、アンジェリンが部屋に戻る時に又この二人が同じ場所にいた。朝岡は、わざといたのかは分からない。そうだったのかもしれない…。          だから又そこを通らなければならず、仕方ないから傍を通ると又憐れむ様に綾子は自分を見た。朝岡も怒った様な、それでいて物欲しそうな顔を向けてアンジェリンを見続ける。アンジェリンは腹が立ち、綾子の間抜けに 見える全て原色カラーの服装を一瞥すると、フフンと鼻で笑って横を通った。     綾子が嫌な顔をした。朝岡も一瞬驚いたが直ぐにカッとなった顔になった。単細胞だが、きっと短期でもあるのだろう?      この朝岡はアンジェリンを好きと言いながら、きっと本当に好きではないのだ。後から居達さんが本人に、又他の男がそう言ったが恐らくそうだったのだろう。       唯見た目だけだったのだ。本当に好きなのではなく、見た目だけで、独占したいだけだったのだろう。              居達さんが彼を叱りつけるまで役5日後だ。彼は一人で何十人もの生徒の責任者だから、忙しかったのだろうが、もっと早くに叱り飛ばしてくれたら良かった。        アンジェリンが綾子を馬鹿にしながら通ると、綾子の顔は凄く険しくなった。怒り顔で彼女を睨み付けた。           アンジェリンはその顔を小馬鹿にした様に見ながら朝岡にもチラッと顔を見て様子を見た。綾子同様に自分を睨み付けている。  やはり又飛びかかって来るだろうか?多分無いとは思う。今度はまだ周りに学生がいる、歩いている。だから大声を出せば誰かしらが飛んで来てくれるだろう。助けになるだろう。                  だから朝岡はその立ち位置から離れなかったが、いきなりアンジェリンを見ながらこれみよがしに大声で笑い始めた。       驚いたのは当のアンジェリンと綾子だった。唖然としてどちらもが彼を見た。     だが朝岡は笑いを繰り返しながら、綾子にも大笑いをする様にと支持した。そう言いながら何かを言った。            後から考えたら簡単に分かった!それはそうすればやられた相手は気にする、嫌な気分になる。原因が分からなくてもそうして不愉快になり、いたたまれない気持ちになるから相手に打撃を与えられるからだ。      だから朝岡は、綾子を馬鹿にした素振りをしたアンジェリンに怒り、わざと彼女が不快になる様にそうした。           綾子は従って、朝岡の真似をしてアンジェ リンは見ながら大声で笑い出した。    アンジェリンは驚いて、案の定そうした不安で嫌な気持になった。二人の顔を見た。交互に見比べた。              二人はいつまでもアンジェリンを凝視しながら、見下す様に笑い続ける。       まだ19かやっと20歳になった若いアンジェリンはいたたまれなくなり、顔をそむけた。そしてそのまま急いで歩いて行った。   だが二人の笑い声はいつまでも後ろから続いた。                  同じ事が翌日も続いた。又二人は同じ時刻にそこにいた。彼等も同じ時間に授業が終わる。だから寮でなく、学校で借りているモーテルの部屋に住む彼等はまだ帰らずにそこにいた訳だ。               もしかしたら朝岡はアンジェリンがそこを通るのが分かって、わざと待っていたのかもしれない。                この日、アンジェリンが二人に気付き、嫌そうに横を向いて通ると彼等は又大声で笑い始めた。しつこい!!           流石にいい加減にしてほしくて、彼女は立ち止まると朝岡を真っ直ぐに見た。     「朝岡さん、何を笑っているの?!」   朝岡は返事をせずにそのまま笑っている。 綾子も調子を合わせて笑っている。    「ねー、いい加減にしてくれる?」    返事はない、同じ状態だ。        「私が何かしたの?何もしてないでしょ?なのに何を笑ってるの?」         何も反応は無い。さっきと同じだ。    「いい加減にしなよ?!笑うの止めなよ! 馬鹿じゃないの?!」          そう言うともっと激しく朝岡は笑い出した。綾子も負けずに更に大声でオーバーに笑う。                  「馬鹿じゃないの?!子供じゃないんだから!!」                笑い声は相変わらずだ。自分を軽蔑的に見て笑い続ける。              アンジェリンは目に涙がジワジワと浮かぶと、目が赤くなった。そうしてもう無駄だと分かると、足早に立ち去った。後ろから又物凄い大笑いがいつまでも聞こえた。    部屋に戻り、悲しいし悔しくてでアンジェ リンは泣いていた。何故いつまでも朝岡は 自分に固執するのだろう?!何とかならないだろうか?居達さんは何をしているのだろう?                  同室のドリーが声をかけてきた。居達さんや両親にきつく叱られて、この時は少しは反省していたらしい。            「アンジェリン、どうしたの?何で泣いてるの?!」              

 「もう、朝岡さんを何とかしてよ?!何で あんな事又いつまでもやるの〜?!もういい加減にしてほしいよ〜!何もしていないのに〜!!」               もう朝岡はアンジェリンのストーカーだった。                  ドリーに訳を聞かれて怒りに任せてぶちまけた。ドリーはアンジェリンに同情すると、朝岡に明日話すと言った。そうした事を止める様に頼むと言った。           そして次の日に又同じ時間に同じ場所にいた朝岡と綾子を見て、アンジェリンは焦った。まだいる?!              だが部屋に戻りたいし、そこを通ろう!仕方無く、又笑われても何を言われても完全に無視してその場を通り過ぎようとした。   笑い声は聞こえない。何気なく二人の様子を見た。どちらも少し下を向いてアンジェリンを見ている。どちらも何か悪そうな顔をしながら。                  アンジェリンは嫌そうに彼等を一瞥すると 一言こう言いながら通り過ぎた。  「Finally!!」              綾子が直ぐに朝岡に聞いた。      「今、何て言ったの?」         「やっと、ついにって意味だよ。」     綾子が何か不思議そうにアンジェリンを見た。                  ついに止めたな、その下らない嫌がらせを!そうした意味だよ。分からない?アンジェ リンは呆れながら通り過ぎた。      ドームの部屋に戻るとドリーがいた。   「アンジェリン、今日はどうだった?!朝岡さん、何かした?」           慌てて聞いてきた。           「何もしなかったよ。笑わなかった。綾子さんも。」                「良かった!私、朝岡さんに頼んだの。もうアンジェリンに構わないであげて、何もしないでって。アンジェリン、笑われたのを凄く気にして泣いていたから。何もしてないのに朝岡さんと綾子さんにしつこく笑われたって言って、凄く悲しがっていたからって言って頼んだの。だから良かった!聞いてくれたんだね。」                 アンジェリンはドリーに感謝の気持ちなど無かった。恩に着せようとしているのも半分、後は自分の言い分なら聞くと思っている様にも見えた。もしそうでなくても、自分だってその朝岡の為にあそこまで酷い事をしたクセに、そう思った。              大体そんな事を言われなくても、朝岡も25歳にもなってるのだから人に言われなくてもそれ位分かれ、と言う気持があった。    この数日後に居達さんは朝岡がカフェテリアの入口前にある、リビングの様なロビーにいるのを発見すると、名前を呼びながらすっ飛んで行った。               その時朝岡は、ゲーム機の前にある椅子に座って何か日本の雑誌を読んでいた。彼と同じCクラスの連中は全ていた。皆は担任の教師が来るのを待っていた。         このKBSでは朝の9時から授業が始まり、午前中は3時間あった。一つの授業が50分で、次の授業までに10分間の休憩があった。そして昼の昼食の時間だ。         そしてよくは覚えていないが午後から後1時間の授業があって、終了だった気がする。たまに確か、他のクラスが授業が終わっていても午後2時からあるクラスもあった。大学の空いた教室を使わさせてもらっている関係上だったからだと記憶している。(何せ40年も昔の話だ!!)             居達さんは喚きながら、Cクラスの連中が 待つそのロビーに走って行った。担任の教師が私用で遅れて(滅多には無いがたまにそうした事はあった)その日、生徒達は彼女を ロビーで待っていたのだ。        その日、アンジェリンのクラスは午後からの授業が終わっていたから、その時彼女はカフェテリアにいた。授業が終わるとお茶を飲みながらそこでTOEFLの勉強をしていた。    ハクと手下二人がいる時は気を付けて余りしていなかったが、その後彼等全員が追放されて、特にハクが帰らされてからは頻繁に、1時間もしくは2時間そこで勉強していた。  「朝岡!朝岡はいるか?!、おい朝岡!!」大声で走って来た居達さんに皆が驚いて一斉に見た。                朝岡も読んでいる雑誌から目を上げて、驚いて居達さんを見た。愚鈍な彼には何で居達さんが怒り顔で興奮しながら自分の名前を呼んでいるのか丸で分からなかった。

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