第33話

やっぱりこれはアンジェリンだ!!自分達を騙していたのか?!三人は口々に興奮しながら大声で話す。             ここでアンジェリンの愚かさは、バレたなら仕方ないと思ってしまった事だ。自分がアンジエリンだが、一体何か用があるのかと日本語で聞いてしまったのだ。            すると三人はたちどころに豹変した。やはりそうだったのか、おかしいと思ったと鬼の形相で言い始めた。そして、アンジェリンの体を取り囲んだ。             訳が分からないから理由を聞くと、おまえが皆にに意地悪い事を沢山言っている、物凄く嫌な奴だなと言い始めた。        驚いて否定しても、ちゃんとに聞いているんだから嘘をついても駄目だと嬉しそうに言うし、完全にそう思い込んでいる。         アンジェリンはすぐに、ハクが何か変な事を色々と吹き込んだのだと思った。この娘達も同じ大阪出身なのだろうし、さっきからずっと関西弁を話している。           だから、簡単に信じたのだ。後に居達さんが言っていた。彼等は物凄く仲間意識が強く、同じ大阪出身だと直ぐに信用する。又、悪い事をしているのを知ってもやった相手が同じ大阪出身か関西人なら、仕方ないと思う。そうして、何か理由があったからだとか大した事ではないと、その相手に同調したり庇ったりする。そうした傾向が強いと。        そしてアンジェリンも彼等の性分はそうなのだと、それを聞いた時には頷いたが…。     結果どうなったかと言うと、アンジェリンが誤解を解こうとしても絶対に駄目で、しばいてやると言い出した。中でリーダー格の、一番派手で目立った娘は特にそう意気込み、何度も繰り返した。            しばくと言う言葉の意味が分からないから聞いても、教えないで只しつこく繰り返す始末だ。                  「アッ?!それ、方言だね!!」     アンジェリンは生まれて初めて聞いたその言葉が大阪の、又は関西地方の方言だと理解した。悪気はなかったが、そう確信したからだ。                  すると三人は怒り狂った。特になリーダー格のその目立っ、髪にパーマをを強く当てた娘は顔が真っ赤になり、「なんやて~?!」と大声を出すとアンジェリンを罵倒し始めた。そして、外人なんかに普通に日本語は分からない、外人だからだ。外人なんて日本語が分かってたまるか、外人のくせに!!、と言った。他の二人も急いで同じ様に言って加勢する。                  さっきまでは、英語でおどおどしながら質問してきたり、こちらが英語を使うと嬉しそうに、丸で幼児の様にニコニコしながらたどたどしい英語で返事していたのにだ。日本語が通じたらたちまちこれだ!!           これが多くの日本人のお約束行為、お決まりコースだから仕方はないが…。外国人には英語を話しかけられたらドキドキしたりして、喜んだり困ったりする。だけど何かあれば急に外人呼ばわりして下に見る。その人間が混血で、自国の同じ血が入っていても、それが分かっていても丸で関係ない。むしろ余計によそ者扱いして差別化する。やはり島国だからだろうか?              アンジェリンはその目が血走った娘に答えた。自分は母親が日本人だから、外人ではなくて混血だ。日本語も普通に話せるから、だから今自分に話しているのだろうと。そして横浜出身なので標準語を話すが、そんな言葉を今までに一度も聞いた事がないから、恐らく自分の母や祖母も、勿論普通の日本人だが、その言葉を知らないだろうと。        その娘は一瞬怯んだ。凄く戸惑い顔になると、言葉に詰まった。残りの二人もそうだ。だが直ぐにリーダー格のクルクル頭は、そんなのは関係ない、外人が生意気な事を言うんじゃないと言い、二人の子分的な娘達も同じ事を真似して言った。          アンジェリンは呆れながら、外人は自分達だろう、ここはアメリカだからと返した。外国から来てる自分達が外人だろう、そう言うと又三人は怯んだ。アンジェリンが言っている事が正論だし、言い返す内容が無い。           その時に奥のキッチンの方から、メキシコ人のチャベスが顔を出して、心配そうにアンジエリンを見た。チャベスはその頃新しく入った従業員で、アンジェリンとは仲が良かった。アンジエリンと一番仲が良いジョージはその日は休みだったが、チャベスはいた。                  彼はアンジエリンが三人のアジア人の娘達と揉めているのを見て、気になって姿を現した。大阪弁で、大声を出している娘達に不信感を覚えたのだ。              アンジェリンがチャベスに声をかけた。それを見た三人は、そそくさと彼女から離れて カフェテリアの入り口へと急いで歩いて行った。外人なんてアホだから相手にできないなどと、戯言を言いながら逃げる様に急ぎ足で!!                 真っ黒い髪と黒目の、ひげを生やした茶色い顔のチャベスにジッと見つめられて恐くなった様だ。                カフェテリアの入り口へ行くと、ドアから出てからクルクル頭が振り返って睨み付けた。二人が彼女を挟みながら同じ様に振り返り睨み付ける。               「外人なんか相手に出来ないからなぁ!外人なんてアホを、誰がいつまでもかまってられるか?!」                負け犬の遠吠えだ。           「バ~カ!外人はおまえらだろ?英語も出来ないし、変な方言使ってるくせに?!」 「何~?!」                一番体が大きくて太い娘はそう言って向かって来ようと前に出た。          だがクルクル頭が急いで止めた。     「やめやめ~、外人なんか相手にするんや無い。アホらしいわ!」         そう言って急いで二人を促して、ドアから三人は姿を消した。            「外人は自分だろう!!」        アンジジェリンは大声でドアの方へ叫んだ。まだ聞こえるだろう。聞こえなくても、コソコソ逃げて行ったのは自分達だ。      なんだかんだ言って威張ってもまだ十八の、言葉の通じない国へ来ては固まって行動している娘達だ。強がっていても、中味は伴わない。                  こうして先ずは一戦が終わる。      チャベスが傍に寄ってきて、大丈夫かと聞く。頭のおかしな日本人の娘達だったが、大丈夫だと説明すると彼は安心して奥へ入って行った。まだ仕事中なのだから。      少しすると又三人とかち合った。やはりアンジェリンがコーヒーを取りに行った時に、三人は食堂へ来たのだ。          アンジェリンを目当てに来たのかは分からない。そうだったのかもしれない…。最初の時はチャベスが来たから何も出来なかった。だから又、やりに来たのだ。執念深い奴等だ。無駄な事に時間を使う。       その時は、三人は自分の廻りに来ると無言だった。アンジェリンは嫌な顔をしながら通り過ぎようとすると、三人は自分の前に立ちはだかった。違う方向へ行こうとすると、中の一人が前を塞ぎ、後ろへ行こうとするとそこを塞ぐ。左右どこへ動いても同じにして行かせない。子供の様な事をして、通せんぼをする。                  「どいてよ。」              返事をしない。             「早くどいてよ。」            無視だ。そうして、前を塞いで自分を困らす事にしたのだ。             「いい加減にしてよ?!通れないじゃん。」 アンジエリンがきつく言ったが、返事をしない。                  手には熱いコーヒーをもっている。走ったら溢れる。廻りには誰もいない。      この時間帯はそうだから、アンジェリンも授業が終わったらさっさと真っ直に寮へ帰れば良かったのだが!!            コーヒーを飲み干してから急いで走るか?今走ってこいつらの誰かに少しでもかかれば、大騒ぎになる。相手は三人だ。乱暴で非常識な女達だから危険だ。しかも一人は小結みたいな体型だ。必ず凄い暴行を受けるだろうし、奥から又誰かがすぐに気付いて出て来なければ必ず怪我をする。         アンジェリンがそう慎重に考えていると、いきなり名前を呼ぶ声が近くで聞こえた。                  聞こえた右後方を見ると、恵梨香が自分の方へ歩いて来て傍に立った。        

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