第32話
この学校にはこうしたろくでもない者達が沢山いた。男ばかりてはなく、女もいた。恐らく半分はそうだったかもしれないし、半分が多ければ、三分の一は必ずいただろう。 その理由は簡単だった。大半が、高校を出た者達だったからだ。だからまだ社会を知らない。たとえアルバイトをした経験があった者達がいても、飲食店か何かで一日数時間程度だったろうし毎日しっかり仕事をしていた訳ではないからまだ本当の世間を知らず、中味が子供だった。だから、非常識で自分勝手だった。 では成人はどうかと言うと廻りは自分達以外は外国人で、英語を話して交流する。なので英語を話さない、又は話せないと相手にされない。なので皆、ほぼ全員が日本人同士で固まっていた。だから当然、誰も自分達を知らない。なので平気で何でも好きな事をしていたし、それができたのだ。幾ら居達さんがいても、たった一人だから皆へは目がいかなかったのだから。 だからアンジェリンに対して、平気で酷い言動をした。 ハクも、後から入って来た大阪出身の18才の娘達三人を焚きつけて彼女を苛める様にと仕向けた。加須山と五味川と共に彼女達を部屋に招くとピザとビールを奢りながら、彼女達に学校内の生徒達の噂話を色々とした。 そしてその中で、アンジェリンと言う混血の女がいるが最高に生意気で意地が悪く、英語が出来るのを花にかけて物凄く威張っていると言った。だから皆に嫌われているし、友達もいないと。兎に角とんでもない嫌な奴だと嘘をついた。酷く陰険で恥も外聞も無い奴だったし、何せアンジェリンを憎んでいたのだから何でも御座れだった。 三人の娘達も高校を出たばかりだし、英語は殆ど出来なかった。 彼女達はアンジェリンの外見も年も聞かされた。細くて背は高め、顔は人形の様だと。そして授業後にはよくコーヒーを飲む為に食堂に行くと。 それを聞かされた彼女達は、後日アンジェリンを探しに食堂へ来た。わざわざ探しに来て、懲らしめてやろうとしたのだ。そうした、浅はかな事を企んだ。 彼女達はコーヒーを手にして奥から出て来たアンジェリンを見ると、ジーッと目を凝らしながら見つめた。そしてあれがそうじゃないかと言い始めた。だがまだ来たばかりの彼女達には確信が無かった。 ついに、中で一番体格の良い太って背が高い娘が近付いて来た。この子が一番英語が話せたらしい。 彼女はたどだどしい英語で名前を聞いてきた。アンジェリンは言わなかった。一体何だろうと、訝しんだからだ。 見た事も会った事も無い、自分と年が近い娘達が自分の名前を何度も出しながら、あれがそうじゃないかと凝視しながら言っている。確かに顔も人形みたいだし、あれがそうに決まってるだろうだとかを大阪弁で話し合っている。 カンの良いアンジェリンはピンときた。何か良からぬ事に決まっているし、何かしらの悪意があるのだろうと。ハク達以外にも、大阪から来た娘達がアンジェリンに反感を抱いていたからだ。その他の関西系の人間達も、そうした人間が割と多かった。 アンジェリンが答えないと、しつこく何度も聞いてくる。だが見ず知らずの人間にいきなり名前を聞かれて教える必要もないし、教えたくないと返事をするとそれが伝わらないから、又同じ文章を相手はしつこく繰り返す。嫌だから行こうとすると他の二人が急いで廻りに立ち、行かせない様にする。 アンジェリンは名前を言うとまずいから、自分の日本名の最初の文字を言いながら考えていた。母が一歳の時に父親が付けたアンジェリンと言う名から改名した名で、リホのリを。言いながら、違う名前にしようと考えていた。万が一自分の日本名を知っていたら大変だからだ。 するとこの娘は名前がリーだと勘違いして、 他の二人にそう知らせた。すると二人は苗字を聞けと騒いだから、又聞いてきた。 仕方ないから適当にジョーンズと答えると、又二人にそれを知らせる。 すると三人は不安そうに、これはアンジェリンではなく別人ではないかとか、それでも話しに聞いている通りの外見だしそうだろうとかを話し、ついには違うのだろうと言う結論になった。 アンジジェリンは、自分は違うのだと安心させるために英語で質問をした。いつ来たのかとか、名前をだ。 三人は、一番体格の良い娘が何とか通訳をしながら嬉しそうに答えた。そうしてニコニコしながら、アンジェリンが通れる様にと廻りから離れた。 アンジェリンはバーイと言うと、三人は嬉しそうに手を振りながらバイバイとかバーイと返事した。 アンジェリンは離れて歩き出した。 すると正面からこの大学の学生が一人食堂へと入って来た。アンジェリンの知り合いの男子学生だ。 アンジェリンを見ると、名前を呼びながら挨拶をした。しまったと焦るアンジェリンに、又名前を呼びながら挨拶した。 全く、こんな時に限って間が悪い事が起きるものだ!! 三人の大阪娘達が騒ぎ出した。幾ら英語が分からなくても名前位は聞き分けられるのだから。彼女達の顔が段々と険しくなり、怒り顔になった。
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