第31話

ドリーは、アンジェリンに興味を持ったり気に入った男達に、彼女を斡旋しようとした。彼等は、アンジェリンと同室の彼女にアンジェリンの事を色々聞いたりした。だから、その中の誰でも良いから、彼女とくっつけようとしたのだ。              母親に何も色々と経験させてもらえなかった為に年相応に育てずに、精神年齢が6歳程度の彼女は、廻りの人間にそれがバレて苛められるのを極端に恐れた。そしてもし万が一、それがバレて苛められたりからかわれたりした時に、助けてくれる相手を求めた。それは男や年上の者だった。自分を庇い、戦ってくれる人間だ。そしてそれが、自分の手助けで、ゲスな言い方なら、アンジェリンをモノにした男だったのだ。              ある土曜日の休日に、いきなり部屋に訪ねて来る太った、汗ばんだワイシャツの男がいた。ハンバーガーを食べにモールへ行こうとしつこく誘ったから、アンジェリンは面食らった。                  いきなり来てそんな事を言い、断るといつまでもしつこく食い下がった。そしてドリーも横に来て、行くように執拗に言った。断るのは、わざわざ誘いに来てくれたのに失礼だと騒いだ。                その時部屋には、冴子という25、6才の女がいた。アンジェリンと同じクラスの、ドリーや朝岡と同じ九州出身の女で、えらく顔の大きな、フランケンシュタインを思わせる様な容姿をしていた。             結果的に掻い摘まんで言うと、ドリーはアンジェリンの腕にしがみつき、無理矢理にドアの外に引きずり出そうとした。前に朝岡の車に、無理矢理に引きずろうとした時と同じにだ。アンジェリンが抵抗すると、驚いている冴子に、手伝う様に必死で懇願した。         最初は困りながら様子を見てい冴子も、段々と面白くなってきた。なのでアンジェリンの反対側の腕を掴むと、抵抗するアンジェリンを無理やりにドリーと二人がかりで外へと出した。どんなに彼女が困りながら、冴子にも止める様に頼んでも、笑いながら、ふざけながら、力尽くで腕を引っ張った。               太った、汗ばんだ男の大石は、その様子を少し唖然としながらも黙って見ている。   結果、アンジェリンは二人に無理矢理に、大石が買った中古車の後ろの座席に押し入れられると、ドアを閉められた。ドアを開けようとしてもドリーはドアを強く押さえつけながら、大石に早口で車を出すようにと数回叫んだ。                  大石はチャンスを逃さない様にと車に飛び乗ると、急いで発信した。アンジェリンが何度も、停めて降ろしてくれと一生懸命に頼んでも無言で無視した。           そしてモールへ着き、アンジェリンを車から出すと無理矢理に腕を掴み、中へ入った。放せと言っても、未成年だから危ないから駄目だ、と自分勝手な理屈を述べるとモール内にあるデニーズヘと連れて行き、無理矢理に自分の向かい側に座らせると、直ぐに席に来たウエートレスに、ハンバーガーを二人分注文する様にと命令した。           アンジェリンが拒むとしつこく命令した。彼女は、まだ12時前だしお腹は空いてなかったし、こんな男と食事などしたくなかった。仕方なくウエートレスに事情を説明して、店を出てバスで帰ろうとしたが、年配のウエートレスは相手にしなかった。アンジェリンよりも明らかに年上の大石の側について、何か注文する様に迫った。            仕方なくコーラを二人分注文すると、急いでトイレへ行くと言って立ち上がったが、ウエートレスが直ぐに傍に来て拒み、アンジェリンが行こうとするとマネージャーの男まで呼び、無理矢理に席へと戻らせた。     どうやら男女の友人か恋人同士が内輪揉めをして、女側が帰ろうとしていると勘違いしたらしい。そして勝手に、まだ若く未成年の娘を帰してはいけないと思っらしい。(アンジェリンは19才だったが、17位にも見えた。だから大学生にも見えたが、高校生にも普通に見えた。)だから仕方なく席に着いたが、マネージャーとその年配のウエートレスが奥へ去ると急いで又席を立ち、トイレへ行くと大石に早口で言うと、急いで店を出た。        そのままバス停へと走れば良かったが、彼女はミスをしてしまった。本当にトイレへ行きたくなり、行ってしまった。用を足したので急いでバス停へ向かおうとしながら女子トイレから出ると、目の前に大石が立っていた。大石は、アンジェリンが逃げない様に迎えに来たのだ。そして又無理矢理に、アンジェリンをデニーズへと連れ戻した。      彼は英語は余りできなかった。だが、確かC かBクラスだった。恐らく、Bクラスだった。なので、又戻る位は言えたのかもしれない。                  兎に角又店に戻されて、店はランチタイムにさしかかる頃だったのでコーラはまだ来てなかった。                不安で嫌な気持をしながら大石と面と向かって座っていると、コーラが運ばれてきた。 大石が驚いて叫んだ。          「ハンバーガーじゃないの~?!」    アンジェリンは、腹立たしそうにしている大石を恐そうに見たが返事した。      「頼んでないから。」          「何で頼まないの?!」

「私、お腹空いてないから。さっき、言ったし。」                  大石が睨み付けた。だが、アンジェリンは言った。自分はハンバーガーなど食べたくない。お腹は空いてないし、来たくなかった。部屋でTOEFLの為の勉強をしていたかった。部屋にはカップヌードルが置いてあったからあれを昼時に食べてから、又勉強しようと思っていたと。               だが大石は本気で、アンジェリンがハンバーガーが大好きで、いつでも食べたくて仕方ないと思い込んでいた。確かに、同じ部屋で年の近い娘がそんな事をしつこく話せば、誰でも普通は信じるだろう。ましてや、人間と言うのは自分が好きな方や自分に都合が良い事を信じる傾向がある。           結論から言えば、大石は腹が立つし、又何か食べたかったので、コーラを飲み干すと又無理矢理にアンジエリンの腕を掴み車に無理やりに入れるとラーメン屋に連れて行った。 行きたくないと行っても無駄だった。自分は腹が減ってきていたし、ドリーから、彼女はハンバーガーとラーメンが大好きで、いつも食べたいと言っていると聞いていたからだ。 だから、日本人がやっているラーメン屋へ無理矢理に連れて行き、ラーメンを二つ注文した。アンジエリンが恐る恐る、食べたら帰って良いか聞くと良いと言った。それで仕方なく、大してまだお腹は空いていなかったがそのラーメンを食べた。          そして、ラーメンを食べながら味を聞かれたから、特に美味しくも無い、日本に極普通ににあるラーメンなのでそう答えると、大石は怒り始めた。              「何で美味しいって言わないの~?!」   アンジエリンが困ると、素直じゃない、本当は嬉しいくせに、もっと普通に喜べ、等をネチネチと顔を赤くしながら言って怒った。                  それから次には何かを話せと言い、困っていると又しつこく言うので、アンジエリンは狼狽しながら、無理だと言った。      すると又激しく怒りながら、「もういいよー!」と叫んだ。そして、「そんなに自分が嫌いか?」としつこく聞いてきた。    こうして自分を困らせた。ならどんなタイプが好きかとしつこく聞いてきたり、何故自分では駄目なのかと聞いてきたりして、やっと何とか帰れることになった。       だが車に乗る直前に、この後アイスクリームを食べに行かないかと聞いてきた。モールへ戻り、アイスクリーム屋ヘ行こうと何度も言い出し、それを何とか断り寮へ帰れた。車から降りて急いで部屋へと歩き出すと、後ろから名前を呼ばれた。             「アンジエリン、又行こうな?」      自分がした事に対して何の罪悪感もなく、こちらが無理矢理に連れて行かれ、拘束されて、仕方なく2時間近くも無駄な嫌な時間を費やし、食べたくもないラーメンを無理に食べさせられ、うるさく質問されたり攻められたりして不快な思いをしたのを、丸で分かっていない。               アンジエリンは無性に腹が立って、言い返そうかと思った。いい加減にしろ、無理矢理連れて行き、引きずり回されて、もう二度とこんな事をしないでくれ!迷惑だから、とでも。                  だがこんな男だ!!それこそ逆恨みをして、何をするか分からない。又このまま車に引きずり込まれて暴力でも振るわれたり、又何処かへ連れて行かれたら大変だ。だからそうした事が無い様に、作り笑いをしながら言った。                  「そうですね。又機会があったら。」    そして会釈すると、相手が返事する前に急いで部屋の方へ歩いて行った。       この男はその前にも、付き合いたいと言うのを断ると、部屋にまでは来なかったがやはりドリーが段取りをして、何処かに(もう忘れたが)用事があったアンジエリンを連れて行くと言い、断るとドリーが何度も、連れて言ってもらえと言い、アンジエリンもその時は承諾した。                するとその帰りには、夕飯時だと言い、マクドナルドでかまわないし自分が払うと言うのにステーキを食べようと言い張り無理矢理に日系レストランへ連れて行き、勝手にステーキを頼んだ。更には酒を飲めとい言い、自分はビールを頼むと、呑めないと言っているアンジエリンの為にグラスワインを注文した。               それが来ると、吞め吞めと執拗に勧めた。当時はまだ酒が飲めなかったアンジエリンが困りながら断ると、無理強いした。勿体ないから呑め、高いのだからと言い、挙げ句には吞まなければもう車に乗せないし連れて帰らないと言い始めた。一人で帰れと。せっかく高い飯や酒をおごってやっているのにと。  これには廻りで食べていた若いカップル達も、ムカムカした顔をしている者達もいた。アンジエリンは怒りながら、タクシーを呼ぶからかまわないと言った。そして、近くにいた中年の日本人のウエートレスを呼ぶと、ワインを下げる様に頼んだ。        ウエートレスは困り顔で、無言だった。アンジエリンが又繰り返すと、何度も彼女と大石の顔とを見比べた。すると大石は仕方なさそうに、もう良いと言いながらそのグラスワインを取ると一気に飲み干した。そして、ちゃんとに送って行くからと渋々言った。そうし気まずい食事を終えると、アンジェリンは寮へ帰った。               結果、居達さんがこの事を知った。アンジェリンとキャンパス内で会った時に近況を聞いたのだ。これは、朝岡の件が起きる少し前だ。                  居達さんは大石を呼びつけて、日本へ帰る様に言い渡した。大石は必死に弁解した。自分は只、アンジェリンが大好きなハンバーガーを食べさせてやろうとしただけだと。何度も何度も繰り返した。            アンジェリンは近くにいて、聞いていた。 大石は居達さんに、彼女はハンバーガーや ラーメンが大好きで、いつも物凄く食べたがっているから奢ってやっただけだと。        だが居達さんは、ドリーと冴子が無理矢理に車に押し入れたアンジェリンを、下ろしてくれと頼むのを無視してモールへ連れて行き、ハンバーガーが駄目ならラーメンを食べに連れて行き数時間無理矢理に引きずり回した事を責めた。そしてアンジエリンがそのどちらも特に好きではないし、それらの食べものは只普通に好きなだけだからそんなた物の話などしていないはっきり伝えた。そして自分がドリーに騙されていた事を指摘した。               居達さんは、ドリーが物事を何も知らずに中味が幼児と丸で同じ精神年齢なのはもうこの頃は薄々知っていたから、そうした旨も話して聞かせた。              大石は非常に驚いたが、帰らされるのは困ると騒ぎだし、アンジェリンの為にしてやったのにこんな仕打ちはないと開き直り、半分泣きながら怒りだした。そして、ならラーメンを奢ってやったのにこんな思いをして、その金を返せとも騒ぎ出した。良くしてやったのに、混血で日本では目立っから可愛そうだから、だから結婚してやろうと思っていたのに等とも言い出した。            居達さんも、「誰もそんな事を頼んでないし、自分が変な助平根性を出しただけだ!」と喚いた。まだ十代の若い娘が結婚など考えてないし、自分が独り占めして独占したいだけだろうと言い放った。結婚さえしたら簡単に離婚は出来ないし、子供でも作ればずっと子供の面倒を見なくてはいけないから、束縛出来る、だからそれが狙いなんだろうと。                  そうした罵声が互いに大声で、誰もたまたまいなかった、寮(ドーム)の直ぐ近くにあるゲームルーム内でしばらく響いた。       居達さんは割と短気な所があった人で、わあわあと二人の怒鳴り声が響いたが、「もう直ぐに帰れ、来週には帰れ!」と言い、冴子も帰すと言った。            二十代半ばの女が、まだ十代の女に先導されてそんな事に加担して、普通なら止める側になるのに、と言う理由だ。しかも自分のクラスメートに対して平気でそんな事をやっているのだからと。             大石はついにはもう泣きながら懇願していた。頼むから返さないでくれ、まだアメリカにいたいと。                  居達さんが、段々と折れてきた。やはり男は男の味方だと言うが、確かにそうなのだろう。気持が少し変わり始めた様だ。このままでは大石を許してしまい、そのまま居座るだろう。そうしたら又しばらくしたらアンジェリンは同じ様な事をされるかもしれない。許された大石は大して懲りずに、又同じに最悪な迷惑行為を繰り返すだろう!!      だからアンジェリンは急いで二人の前に立つと、居達さんに必死に頼んだ。大石を日本へ帰さなければ、もう二度もこんな事をしているのだから、必ず又やると。そうしたら、とんでもない事になると。どうしても帰さなければ、こんな恐ろしい学校はもう辞めるとまで言った。母親にも連絡して全てを話して、何処か他の学校へ変えもらうとか、何かしらの方法を取る様にすると何度も言った。      怒った大石は狂った様に居達に帰さぬ様に懇願しながら、同時にアンジェリンを罵倒した。お前のせいでこんな酷い思いをするのだと言って。そう言いながらラーメン代を返せと騒いだ。               そして結果、この様な酷く恥知らずで危険な愚行から、大石は日本へ帰された。勿論、冴子もだ。冴子の場合も懇願して、主犯ではない為に翌月だけはいても良い事になり、まだいる期間中は逆恨みしてアンジェリンと絶対に口を聞かなかった。彼女も反省などしていなかったのだ。             居達さんはドリーも当然帰そうとした。ドームへは来ると、今度の今度こそは絶対に許さないと言いながら、荷造りをしろと言った。「もう危険すぎてアンジェリンと同じ部屋には置いて置けない、そんなポン引きみたいな真似をしやがって!!」、と繰り返した。そして今日は、秘書のジャスティーンので部屋に泊まる事にさせて、明日の便で日本へは帰すと言った。              だが、ドリーも必死に謝った。そして、同じクラスの和彦と一緒に住むからと言い、もう二度とアンジェリンには近付かないし、そうした事をしないと約束をした。      実はドリーは和彦と付き合い出していたのだ。和彦はアンジェリンに行為を抱き、ハクとその手下に虐めを受けている彼女にとても同情した。だから彼等に、余り彼女を虐めない様にと注意した。           怒った彼等は和彦を部屋に連れ込み、暴力を振るった。そして土下座するまで出さないと言って、どんなに謝っても部屋から出さなかった。                 数時間後に和彦は泣きながら土下座をした。彼等は何度も土下座をさせて、「申し訳ありませんでした。もう二度としません。」、と言わせてからやっと解放した。                以来和彦は物凄く根暗になり、誰とも口をきかなくなり、アンジェリンのせいでそんな事をさせられたと思い、彼女に逆恨みをした。                  ドリーはどういう訳か、この出来事がある前に和彦と親しくなっていた。色々と何も知らない彼女だが、クラスの人間や他のクラスの人間の話や、主には授業についてや宿題の話をしたりして、上手くバレずに周りの人間とはやっていたからだろう。自分の知らないとか分からない話題の時にはその場をそっと離れたり、只黙って聞いていたから。    だから、誰とも口を聞かない和彦もドリーとは口をきいて、恋人の仲になった。彼自身、一人も口をきく相手がいなくなるのは嫌だったのだろう。何故なら、後から分かった事だが、和彦は自分の意思で廻りと口をきかなくなったのではないのだ。彼はハク達に脅かされたのだ。もう誰とも口をきいてはいけないと。廻りと仲良く、親しくしてはいけないと。ドリーだけは、一応付き合い始めていたから赦したのだろう?だが他の人間とは絶対に駄目だし、もししたなら又痛めつけてやると。勿論、居達さんに言い付けるなんて問題外だと。だから和彦は凄く根暗になり、誰とも口をきかなくなったのだ。       彼が寮を出て独りでアパートを借りて住んだのも、そのせいかもしれない。もしかしたら自分よりも英語力のあるドリーが手伝ったのかもしれない?兎に角、彼は可愛そうな青年だった…。               ドリーの計らいで、アンジェリンの事でそうして日本に帰させられた男たちは数人、他にもいた。だから、彼女は本当に疫病神だったのだ。

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