第18話
「うん、この間さ…。」 聖子はボソボソと話し出した。そして自分が見た、ハクとアンジェリンとの場面を話した。 「それで、ハクがそこに立っていてアンジェリンが床に寝ていて…。倒れていたみたいで…。」 「何でもっと早く言わないんだよ?!あいつはハクに暴力を振るわれたから倒れてたんだろう?!」 居達さんが怒鳴った。 「だって…。おかしいとは思ったけど、まさかそんな事までするなんて想像できないもの。アンジェリンだって何も返事しないしさ。」 「だから、痛くて言えなかったんだろう?!そんな事が分からないのかよ?だけど今じゃもう遅すぎるんだよ!!その時に直ぐに言えば、何とかできたのに…。この馬鹿野郎!あいつはアンジェリンを毛嫌いしてるんだから!嫉妬してるんだからな。ハクは日本人ではない、韓国人だ。だからアンジェリンが半分外人の血が入っていて顔が違うのに、見て分からない自分の方が嫌な思いをしてると思い込んでいて、悔しくて仕方ないんだからな。だから、外人なんかがこの学校に入るなとか、そんな事ばかりいつも言うんだろうよ!だけどアンジェリンは日本国籍だ。日本人から生まれている。なら何が悪いんだよ?それに後半分はこの国の血が入っている。あいつの父親はアメリカ人だ。なら、どっちの理由を取ってもうちの学校にいたり、この国にいても何もおかしくないだろう?もしそれがおかしいと言うなら、あいつがいる方が余程おかしいだろう?あいつの方が外人だ。日本人でもアメリカ人でもない。ならあいつの方が日本の、うちの学校に入っていたり、アメリカにこうしている方がおかしいだろう?そんな理由を言うんなら自分の方がよっぽど変でおかしいし、誰だって普通そう思わないかよ?!リョウ、お前とハクは同じ国の人間だ。あいつはお前や忠夫と同じ韓国人だ。だが、お前はハクの言い分がおかしいと思わないか?変だと思わないか?お前や忠夫は、 アンジェリンにそんな嫌がらせや虐めをしないじゃないか?ならハクがおかしいのは分かるだろう?そして隆、お前はあいつと仲が良い。友達だ。だが、ハクがおかしいのは事実だ。あいつは異常だ。アンジェリンに対する嫌悪感や執着心は異常だ。そしてあいつは、五味川や加須山も、うちの学校中の人間に嫌われている。教師達は誰もが皆あいつ等を嫌いだ、毛嫌いしている。それからここの大学の人間も、あいつらを知っている食堂の人間達も同じだ。そして俺もあんな奴等は大嫌いだ!だから、皆がそうだよ。」 ハッキリと言う居達さんに生徒達が又凄く驚いた。 「隆、お前もあいつ等と同じ出身地だから仲が良い。特にハクとだ。だが良いか?ハクがどんなにお前と気が合っても、色々な会話をして面白くても、あいつを良い奴だと思っても、あいつは女にしつこくいつまでも嫌がらせをして、その女を平気で殴りつける様な奴なんだよ!あいつにはそうした面がある。例えどんなにお前には良くても、そうした事をできる恐ろしい奴でもあるんだよ。どんなに嫌な悪い奴でも、自分の好きな奴や仲間には良くするもんだ。でなきゃ独りぼっちになるからな。だから、お前にはたまたま良いだけだ。だから俺は今に必ずあいつを、あいつ等を追い出してやるよ。皆、教師達もそれを願っているし、そうなったら凄く喜ぶだろうよ。」 「何でじゃあアンジェリンを虐めてるのに、何もしないの?」 聖子が弱々しく聞いた。 「それはな、本人が何とかしない限り駄目だからだ。自分で本気にならない限りは、幾ら俺が注意してもあいつ等は必ず又やる。むしろそんな事をしたら余計やるだろうよ。だからだよ。」 「…可愛そうじゃないの?」 「聖子、やっとお前もそうした気持になったか!だがあいつはいつまでもやられっ放し じゃない筈だ。あいつはそんな奴じゃないよ。今に必ず何かしでかす。仕返しをする。只やられっ放しじゃない。俺にはそう思えるからな。あいつには芯があるんだよ。軸だ。人間には自分を支える軸がある。又、それがなきゃ困る。あいつは普段大人しいが、度胸がある。真っ直ぐな、自分の軸があるんだよ。だからいつまでもあんな奴等に好き勝手に虐められていない筈だ。そしてその時は俺も力を貸す。あいつ等を葬ってやるよ。アンジェリンがその時に勇気を出して、何か行動を冒した時だよ。そうすりゃ、正式に助けられるんだよ。」 そして居達さんは隆を見ると言った。 「だから隆、俺が今言った事をあいつ等に話すんじゃねーぞ。絶対にだ。」 隆が嫌そうに下を向いた。 「隆、分かったな?!お前が何か言えば、 ハクは怒り狂って又アンジェリンに当たるぞ?!そうしてあいつは必ずアンジェリンを捕まえに行くよ。そして無理に連れて行って、何か酷い事をする筈だ。だから絶対に今日の事を言うな!!他のみんなもそうだ。 分かったな?隆、黙ってないで返事しろよ。おい、隆?!」 「はい。」
「良いな?お前がハクに今日の事を色々と話せば、必ずアンジェリンは何かされるぞ。だから俺に今、そんな事はしないとハッキリ誓えよ!!」 「分かりました。言いません。」 「よし、絶対だぞ。お前等も、分かったな?!」 「でも、ハクがどうやって連れて行くのよ?」 聖子が又恐る恐る言った。 「車で寮まで行って待ち伏せしてて、連れて行くんだよ!そうして無理矢理に連れ出して、モーテルの部屋に監禁したらどうするんだよ?あいつ等ならやるぞ。そんな事、丸で平気だぞ。そしてもしアンジェリンに裸になれって言ったらどうするんだよ?!裸になって犬の真似をしろ、四足で部屋の中を歩けなんてもし言ったらどうするんだよ?!そんな事をされて、嫌がって泣き喚けば泣き喚く程、あいつ等は喜んでもっとするぞ?!絶対に止めないぞ!!そんな事を平気で何時間もさせるぞ。あいつ等はそうした連中だからな。だからもしそんな事になったら、一体どうするんだよ?!何もしていないのに唯嫌いだからって、気に食わないからってだけで、そんな事をされたらどうするんだよ?!ハクなら必ずやるぞ。そして必ず後の二人もそれを喜んで手伝うぞ。」 皆の顔が驚きや恐怖、怒りを露にした。男の生徒達は怒り狂った顔をした。朝岡も不快そうに聞いていた。女達は驚きと恐怖の入り混じった顔をしていた。 皆に分からない様に話を聞いていたアンジェリン自身も、自分の身に降りかかるかもしれないその恐怖に驚愕した。 「だから良いか、お前等?男は全員、アン ジェリンがもし近くにいたら、必ず目を配ってくれ。ハク達が、例え一人でも近くにいたら、アンジェリンに近付く様な事があれば必ずあいつの味方になれ。傍に行って助けてやれ。あいつは幾ら動物的な感があっても、もし本当に連れて行かれたら何もできないぞ。あいつは只の女だからな。そして相手は男三人だ。だから良いな?必ず助けろ。そして誰でもそうした時には、直ぐにセキュリティや警察に、又は周りの大学の職員や生徒に知らせるんだ!!つたない英語力でも騒いで、ポリスポリスと言えば伝わる。何か起きたのは分かる。だから、絶対にそうするんだ!そして今此処にいない連中にもそうする様に話せ。分かったな。」 居達さんはそれから聖子とロイスを見た。「聖子、ロイス?お前等も絶対に今の話を ハク達に言うんじゃねーぞ、分かったな?!」 二人は困った様な顔をした。 「良いか、分かったな?!なぁ、お前等も同じ女だろう?なら、あいつがもしそんな事をされたら、同じ女として悔しくないか?可愛そうじゃないか?もし自分だったらどうだよ?!どんな気持がするよ?だから例えあいつが嫌いでも、ヤキモチを焼いていても、だからってそんな事をされたら良いだなんて絶対に思うな!!もし自分がそんな思いをしたらどうだと思え。お前等の親がもしそんな事をされたらどんな風に思うか考えろ!そして、あいつの親だってお前等の親と同じだ!どんなに悲しくて辛いか、苦しいか。もしそんな事をされたら、もう苦しくて絶対に相手を許せない。殺してやりたい位に腹が立つ筈だ。だから絶対にどんな理由があっても、ハクやあいつ等に何かを言うんじゃない。黙ってるんだ。ハクを逆なでする様な事を、アンジェリンが困るからとか嫌な思いをさせてやろうだなんて思ってするんじゃない!良いな?!」 「わ、分かってるわよ〜。」 聖子がその中身の重さに圧倒されながら、恐そうに答えた。 ロイスは黙っていた。返事をしない。彼女はそんな大事になり、アンジェリンが嫌な思いをすれば面白いと思ったのだ。 顔は綺麗だがまだ18歳なのに身体はブクブクと太っていて、二重顎だった。 そのふくよかな身体も、食べたいが為に気にはしていてもダイエットが絶対にできなかった。 殆どの若い娘達は皆が細かった。アンジェリンも当然、何もしなくてもひょろっとした身体でスリムだった。 だからロイスはアンジェリンを嫌っていた。聖子よりもそうした気持はあっただろう。後に居達さんにもハッキリと言われた。居達さんの言い方は酷かった。 「教えてやるよ。凄い嫉妬だよ。顔なんか悪くなくてもそんなの関係ないんだよ!あんなにブヨブヨしてたら、男は相手になんかしないんだよ。男は豚なんて好きじゃないから、あんなデブを誰も抱きたくないんだよ。絶対に嫌なんだよ!あんな身体を絶対に抱く気にならないから、そんな事を誰も思わないからな。あいつもそれをよく知ってるから、だからなんだよ!!」 だからロイスは黙って返事をせずにいたし、ハクに何か言ってアンジェリンがそうした惨めな思いをしたら面白いと思った。 そして自分は只軽く何かを言っただけだ。口を滑らしただけだと言える。わざとだが、わざとではないと言える。そして何も責任を取らずに済むし、罪にもならない。 だから彼女はこの日の出来事を言い付けるつもりだったのだろう。こんな良いチャンスはまたとないのだから。 だが居達さんはその魂胆を見破った。 「ロイス、良いか?よく聞くんだ。もしお前が面白がってハクに言って、焚き付けて、あいつがアンジェリンに何かをしたらどうだ?お前は本当に嬉しいか?心から喜べるか?もしアンジェリンがハク達に強姦されたら、又そうじゃなくても同じ位に酷くて恥ずかしい事をされたりさせられたりしたら、お前本当に平気か?嬉しいか?絶対に違うぞ。お前は必ず後悔するぞ。そんな事耐えられないぞ。そしてそれはお前が言わなきゃ、何でもなかったのにだ。お前が言ったからそんな事になったんなら、お前は物凄く後悔する。だがその時はもうどうしようもない、どうにもならない!もう絶対に元に戻らないんだ。そしてそれでアンジェリンがおかしくなったり、自殺したりしたらどうするんだよ?!そんな風にだってなり得るんだぞ?!分かってるのか?だから止めるんだ。変な事を考えるん じゃない。アンジェリンを嫌いでも、あいつはハク達に何もしていないし、恨まれたり酷い事をされる理由なんてないんだ。だから考え直せ。でないとお前は一生後悔する。必ずするぞ!!だから分かったな、ロイス?!」ロイスはしばらく真剣に考えていた。自分の心の中で葛藤していた。アンジェリンを痛ぶり、酷い思いをさせたい。だがそれは本当にそうした最悪な事になるかもしれない。なら、やはり良心の呵責で苦しむかもしれない。それがずっと続くかもしれない。 だからロイスは居達さんを見ると返事をした。 「はい、分かっています。」 居達さんは安堵のため息をついた。
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