第35話
この太った娘はカフェテリアのテーブルの所に両親と共に立っていた。居達さんも傍にいた。 居達さんはアンジェリンがコーヒーを取りに来るのを待って、彼女に会わせようとしたのだ。 彼はアンジェリンの事で帰された人間達何名かの殆どを、最後にこうして会わせた。彼の彼女への配慮だったのか、半分は興味だったのかもしれない。 そうして両親に彼女を見せながら、改めて自分達の娘が何をどうしたかを細かく話し出した。 ハクがいかにアンジェリンにやきもちや劣等感を抱いているか、その理由も詳しく述べた。 そしてKBSの生徒や教師で、ハクと加須山と五味川を好きな人間はいないし、それどころかこの大学の従業員や生徒達で、食堂で彼等と関わったりその様子を見た者達は、高校生のアルバイトの者達も含め、全員が嫌いだと述べた。ハク達がその人間達や、和彦にも酷い事をした事も告げた。 そしてハクが大阪人や関西人の持つ強い仲間意識を利用して、アンジェリンを虐めさせる様にと彼女達を利用する事を仕組んだと言った。 聞いていた両親は驚き怒り、みるみると顔が嶮しくなり、引きつった。そして二人の子供で(アンジェリンもその時に初めて名前を知ったが)、香苗と言う娘は驚きながら、次には悔しくて泣き始めた。顔をまっ赤にして泣き崩れた。そんな下らない奴等の為に、そんな奴等に騙されて帰らなければならなくなった事に!! 香苗の父親が申し訳なさそうにアンジェリンに謝った。何度も謝った。母親も途中から謝って、二人して彼女に許しを請いた。 最初は無視していたアンジェリンも、次第に気持がほだされて許した。もうかまわない、と言った。 すると居達さんは次に香苗に話しかけて、 アンジェリンに謝れと促した。黙って下を向く彼女に何度も言った。 もうこれで最後なのだから、そんな風に仲たがいしたまま帰るのかと。もう帰ったら一生会う事も無いのだから、今謝らなければずっとこの先、必ず後悔するだろうと言って。 元は自分が何かしたからだろう。何もしていない、まだ会った事の無い相手に名前をしつこく確認までして、複数で挑み嫌がらせをした。しかももっと苛めようとして、自分が一番凄かった。もし逆ならどんな気持だと。 怒ったりなだめすかしたりしながら、居達さんは説得した。 そうこうしていると、香苗がやっと納得したのか、小声でアンジェリンに謝った。 「…ごめんなさい。」 居達さんに、もっと大きな声で言えと言われて、今度は普通の声で謝った。 「ごめんなさい。」 黙って香苗を見るアンジェリンに、居達さんは許す様に言った。彼女にも、これが香苗と話すのは最後なのだからわだかまりが無い様にどんなに諭した。 それでアンジェリンも段々とその気になっていった。 「分かった。もう良いよ。」 「じゃあお前、許すんだな?」 「許すよ。」 「良かったな、香苗!」 「うん…。アンジェリン、ごめんね。」 「良いよ、もう。」 「本当に、ごめんね。」 「ううん。じゃあ、気を付けて帰ってね?」 「うん、ありがとう。アンジェリンも、頑張ってね!」 居達さんは香苗に約束をした。今に必ずハクも日本に帰してやると。そんな汚い事をする奴をいつまでも置いてはおかないと。 そうして彼は香苗達親子を連れてカフェテリアを出た。そしてロサンゼルス空港へと、連れて行った。
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