第37話

居達さんには誰にも言えない、又言いたく   ない秘密があった。それは恐ろしい内容だった。                      彼はアメリカの名門大学を出ていた。本当は日本の一流大学へ進学したかったのだが、父親によってきつくへばまれだ。勉強の出来る彼はとても不服だった。         父親は彼に、アメリカの大学になら行っても良いと言い、それなら学費を払うと言った。全額を払うから留学をしろと言った。 そうでなければ絶対に大学には行かせないと言った。それに母親も仕方なく同意した。                  その結果、彼はアメリカの一流大学に入った。TOEFLも彼はクリアして入ったのだろう、彼は比較的頭が良い男だったから。        だが彼は人間的には甘く、まだ十分に世間知らずだった。 要は、お坊ちゃんだったのだ。                                       だが兎に角彼はその大学に入り、寮に住んだ。                  ルームメイトは白人の男だった。彼とは別段仲が悪くもなく、間柄に別に問題はなかった。                        只居達さんの人間性は、賢いが甘い所があり、自分は頭が良いし金持ちだと言う強いうぬぼれがあった。金持ちなのは当人ではなく、家がそうなだけなのだが。東京の裕福な商人の家に生まれただけなのだが、他人をある意味見下す所が多々あった。         お金さえ使えば、ばら撒けば人は喜ぶ。お金に人はいつでも転ぶ。彼はそう考えていたし、恐らくは今もそうであろう…。    なので彼はこの大学で、ルームメイトや廻りの学生達何人もに、知り合いになったり口をきく様になった人間達に、毎日昼休み時にはピザの出前を何枚も取っていたそうだ。  毎回十人かそれ以上の生徒達にピザを奢り、自分も食べていた。そしてその生徒達は喜び、彼を讃えていた。             彼等は奢られたいから彼を持ち上げていただけで、彼はピエロになっていたのだろう。   いや、彼自身も彼等を見下していた。お金さえ使えば誰でも犬の様に尻尾を振って寄って来るし、自分を持ち上げると思っていた。そうして蔑みながら、凄くいい気になっていたのだ。                  当然こうした彼の暴慢な態度は一部の生徒達の反感を買った。               時代は今よりも何十年も昔だ。当時その大学は、殆どが白人の生徒達ばかりだったらしい。なので彼等は日本から来たまだ十代のアジア人の成年が、毎日ピザを沢山振る舞いながらいい気になっている姿に非常に不快感を覚えたのだ。                それである策を考え出した。彼に思い知らせる為に…。                因みにこの大学はアンジェリンがいたカリフォルニア州ではない。アメリカ内に幾つもある、有名な大都市にあるのでもない。

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