第11話

男が驚いた顔をしてアンジェリンを見つめる。                  「エッ?!」              やっとそう声を出した。         アンジェリンはだからもう一度繰り返した。すると男の顔が真っ赤になった。そして物凄くおぞましい顔付きになると、掴んでいる腕に物凄い力を入れた。          それは本当に痛くて、アンジェリンの目からは涙が出て来た。だが男は中々離さずにいつまでも強く力を入れている。       愚かなアンジェリンは、大声を出せば周りが気付いて側に来て助けてくれる人間もいただろう。                 だがその時に、他のクラスの日本人の生徒が二人、やはりトレーを持ちながら出て来た。一人は男でもう一人は女だ。この二人が驚いてアンジェリンとこの男の様子を立ち止まって見た。                何をしているのだろう?彼等は不審そうに見ている。アンジェリンはその様子に気付いたが、この男は気にも止めなかった。    だがアンジェリンの涙が溢れる顔をジッと 見て、力を入れていた手を緩めるとやっと 放した。                アンジェリンはこの男ガ非常に恐くなった。だからおずおずとこう言った。      「あの…、みんなには黙ってますから。だから、大丈夫ですから。」          もし自分に売春の話を持ちかけたのが分かれば彼は恥をかく。そうしたら又自分の所へとやって来て、何をするか分からない。どんな言い掛かりを付けられるか分かったものじゃあない!!そう思った。         アンジェリンの言った内容を聞いたこの男は、キリキリしたきつい顔付きになって、こめかみが少し引くついた。そして相変わらず真っ赤な顔をしていた。         アンジェリンはびくびくしながら軽く頭を下げると、そそくさと逃げる様に奥にあるテーブルへと足早で歩いて行った。そして相手を見ない様にしながら急いで食べ始めた。  この件をアンジェリンは誰にも話さなかった。                  そしてこの出来事から少しして、アンジェ リンは同室のドリーにディズニーランドヘ 行こうと誘われた。週末の土曜日に行こうと。                  ディズニーランドヘは何度も既に行っていたし、ドリーとも行っていたからアンジェリンはその時はそこまで行きたくはなかった。だがドリーは執拗に彼女を誘った。二人だけで又行こうと。              その余りのしつこさに何か違和感を覚えたが、結果彼女は承諾した。        そして土曜日になると、二人でアナハイムにあるディズニーランドヘいつもの様にバスで行く事にして寮を出た。         途中でドリーがどうしても食堂に寄ろうと 言った。何かを飲みたいからと。     アンジェリンはそんな事をせずに行くなら 早く行こうと言ったがどうしても嫌だ、寄りたいと言うので食堂へ二人で行った。   そしてカフェテリアヘ入ると、入って直ぐ 近くのテーブルにあの男が座っていた!! アンジェリンは驚いて焦った。直ぐにそのまま逃げ帰れば良かった。だが常識や礼儀作法に変にうるさかった家での躾が仇となった。だからそれをしたら相手に失礼だと思った。いきなり顔を見ただけで逃げるのは。   「朝岡さん、お待たせ!待った〜?」   ドリーが嬉しそうに手を上げながら挨拶した。                  「いや、僕も今来た所。」         アンジェリンが困惑と怒り顔とが交じった顔で二人を見比べる。そして動かなかった。「アンジェリン、良いよねー?朝岡さんも一緒に行っても。」            「ドリー、わざとやったの?酷いじゃん?!」                「だってー、言えばアンジェリンは嫌がって来ないでしょう?」           「アンジェリン、僕も一緒に行って良いよね?」                 「あの、私帰る!2人で行って下さい。」 「何言ってるの〜?!せっかく朝岡さんが 来て待っててくれたのに!」       「そんな事聞いてないから!」      「だけどそうなんだから!なら悪いでしょう、行かないだなんて?!」       「だから二人で行けば?私はいいから。」「朝岡さんはアンジェリンと行きたいんだよ!なら一緒に行かなきゃあ。朝岡さんは車で来たから乗せてってくれるから。ならいいでしょう?」             「良いよね、アンジェリン?」     「私、行きたくないから。具合が悪いから。」                「何が急に具合が悪いの?嘘でしょう?」 ドリーが咎めた。            「本当だよ。頭が痛いから、部屋に帰ってもう寝るから。」             「なら薬を買いに行こう。僕が連れて行くよ。」                 「アッ、そうだね?じゃあみんなで薬を買いに行こうよ、アンジェリン。」      「いいよ、部屋に戻れば何かあるし。大丈夫だから。」               「大丈夫じゃないでしょう?!そんなに具合が悪いんなら放っておけないもの。さぁ、薬を買いに行こう。」           「そうだよ、アンジェリンを一人で置いておけないでしょ?さぁ、一緒に薬を買いに行こうよ!」                そう言ってどうしても離れない。     「もういいよ!もう痛くないから。」  「今、痛いって言ったじゃない?」    「嘘だよ!痛くなんかないよ。行きたくないからだよ!!」             普通はここまで言えば幾ら何でも何とかなる筈だ。普通の神経なら。最も普通の神経ならどちらもこんな汚い騙し討ちをしない! 「なんで嫌なの?」           朝岡が、聞くのが当たり前の様に聞いた。 アンジェリンは困りながら、ドリーと二人だけで行くのかと思ったからだと答えると、どちらもが反対した。           「そんなのは関係ないよ!何で朝岡さんが 行っちゃ駄目なの?!」         「そう、どうして僕が行くのは駄目なの?」「…女同士で、二人で行くのかと思ったから。」                 「何で二人じゃなきゃ駄目なの?朝岡さんがいたら駄目なの?良いじゃない、多い方が!もっと楽しいじゃないの?」       「そうだよ。何で男がいたら駄目なの?」 「でも、二人で行くのかとかと思ったから。」                「そんなの、僕は納得できないな。そんな理由だったら。」             「そうだよ、駄目だよ。そんな理由なら朝岡さんに悪いよ。」             アンジェリンはハッキリと、あんたが嫌だとは言えなかった。今のアンジェリンならハッキリと、ピシャリと言えた。迷惑だからいい加減にしてくれと。好きでもない男と、ましてやこの間しつこく腕を掴んで離さなかったりその腕をうんと力を入れて痛くしたりと、そんな相手と誰が行きたいか?!そんな事をする男に丸で興味なんか無い。元々無いのに、もっと無い!!だから恥ずかしい真似をいつまでもしないでくれと。       最も逆ギレされて又暴力を振るわれたら大変だから、もう少し同じ中身でもオブラートに包んだ言い方が良いか、何とか人がいる所に移動して、最悪大声を出して警察を呼んでもらった方が良いかもだったろうが…。   それでアンジェリンは仕方無くトイレへ行くと言って逃げようとすると、ドリーが朝岡に自分も付いて行くから大丈夫だと言ってくっついて来た。そしてトイレ内の彼女に、そんな風に隠れても絶対に無駄だから、1時間でもずっと待っているからと言った。必ずディズニーランドヘ連れて行くと。      アンジェリンは仕方無く出て来て、手を洗うと着ているTシャツを水道水でびちゃびちゃに濡らした。              「何してるの?!」           「こうして濡らせば、こんな濡れてる物を着て行けないからね。」           そうして洗面所から出るとドリーはしっかりとアンジェリンに腕を絡めて逃げられない様に身体に引っ付けて歩いた。だからアンジェリンはやむなく食堂へと戻った。     朝岡はアンジェリンの様子を見て驚いた。 アンジェリンは服を濡らしてしまったから 帰ると言うと、朝岡も困っている様子だったがドリーが助け舟を出した。そんなのは直ぐに乾くからと。             カリフォルニアは暑い。殆ど一年近く半袖で平気だし、寒くても夜以外はそんなに寒くならない。だから確かに少しすれば、ましてや外を歩いていたら直ぐに乾く。      だからそれを聞くと朝岡は安心した。   アンジェリンは頭に来て、テーブルに添えてあったケチャップの赤い容器を持つとその濡れたTシャツにベタベタとかけて塗り始めためた。                 朝岡とドリーはその様子を呆気に取られて見ていた。ある程度真っ赤にベタベタにしてからアンジェリンは言った。        「こんな物を着ていけないから、私、帰ります。」                  朝岡はそれで諦めた様だったがドリーは諦めなかった。彼女は、それならディズニーランドへ着いてからアンジェリンに新しいTシャツを買えば良いからと朝岡に言った。   「大丈夫!朝岡さん、新しいTシャツを アンジェリンに買ってあげられるよね?」   「ああ、良いよ!!」          朝岡は解決策が出たのを喜びながら嬉しそうに返事をした。             アンジェリンはもう泣きそうだった。   これはモテるだとか自分の事を自慢している訳ではなく、思い出しても凄く恐ろしいと 思う事柄なのだ。ハクにしてもそうだが、人間の自分勝手さ、凄いエゴにだ。     朝岡はアンジェリンを気に入ったから無理矢理にでも彼女を連れ出し、ディズニーランドの様な遊園地ヘ連れて行き一緒に乗り物に乗ったりして遊べば、彼女が楽しんで心を開き、自分を好きになると思ったのだ。   そしてドリーは、同じクラスの元警察官の 朝岡と親しくして恩を売っておけば、何かの時に彼が味方になるからと、彼を利用する為だったのだ。              ドリーはアンジェリンの腕にぶら下がり、反対側に朝岡が立った。朝岡が歩くとドリーがアンジェリンを引っ張った。アンジェリンは狼狽しながら無理矢理に歩く羽目になった。朝岡がアンジェリンにディズニーランドには既に行ったのかとか誰と言ったのかと聞いたから、アンジェリンは手短に答えた。   「じゃあスペースマウンテンには乗った事 ある?」                 「あります。」             「面白かった?」            「はい。」               「僕はまだ乗った事が無いんだよ?」   「あぁ、そうですか?」         朝岡が物足りなさそうに嫌な顔をする。まずいと思い、急いでアンジェリンが付け足す。「じゃあ、きっと乗れば面白いと思いますよ!」                 朝岡は黙っている。又沈黙だ。      こうした短い受け答えを、ドリーはいちいちその度に横から怒りながら注意した。   「アンジェリン、もっとちゃんとに話して!!」                うるさいなぁ、何でそんな事をいちいち言われなきゃならないんだよ?!こんな事をしたくもないのに!!            「僕はね、ラーメンが好きなんだよ。」   朝岡はその会話の短い返事を聞きながら、数回こうして話題を変えた。       「?!」                何で急にラーメンの話なんてするんだろう?あぁ、嫌だなぁ。早く部屋に帰りたいよ!!そう思っていると又ラーメンが好きだと繰り返す。                 「あぁ?はい。」            「アンジェリンは、ラーメンは好き?」  嫌いか好きかなら好きだ。だが特別に好きではない、普通だ。だから何て答えたら良いか分からないからとりあえず言った。    「はい、好きです。」           すると朝岡はこう言った。        「僕は、豚骨ラーメンが好きなんだよ。」  アンジェリンは当時まだ豚骨ラーメンを知らない。食べた事も無かった。だから困りながら言った。               「はい…。」              「食べた事はある?」          「いいえ。」              「じゃあ、食べたいとは思わない?」   「いえ、別に。」             どんな物か分からないのにそんな物を無理に食べたいとは思わなかった。それに大体ラーメンなんて食べたいだとかを考える気分じゃない!早くこの場から、このおかしくてしつこい男と超自分勝手なルームメートから開放されたい。それしか頭には無かった。   朝岡はアンジェリンの答えにムッとした。 食べたいと言うと思った様だ。だから少し 怒り顔で言った。            「どうして?!食べた事が無いなら、食べたいとは思わないの?!」         アンジェリンは困りながら言い辛そうに答えた。                  「別にラーメン、そこまで好きじゃないから…。」                 朝岡が驚いてカーッとした顔をした。   「アンジェリン、何でちゃんとに会話しないの?!ちゃんとに話して!!」      ドリーが朝岡に気を使って怒りながら叫ぶ。「もううるさいなぁ?!さっきから話してんじゃん?じゃあどうしろって言うの?!」 アンジェリンは頭に来てドリーに迫った。 「だからちゃんとに話をして。普通に。」「これが私は普通だよ?」          「アンジェリン、アンジェリンだって中学で男の子と口聞いたりしてたでしょ?だから そう言うのと同じにしたらいいの!」   アンジェリンは、高校は女子校だった。  「そんなの無いよ!用がある時以外、男と口なんて聞いてないもん!!」      

「でも、あるでしょう?!」       「無いよ。前に言ったじゃん?私、男と口 きいた事なんて殆ど無いんだから!だから、ドリーが見本見せてよ?ネッ、見本見せてよ、どうやるのか?だからドリーが真ん中になってよ。私、横で見てるから。」     アンジェリンが呆れ返った様に言った。  ドリーが困りながらアンジェリンを見つめる。                  「だから早く腕離して?!見本見せてよ?」朝岡はこの様子を驚いて見ていたが、ついにこう言った。             「もういいよ!もう無理だよ!!」     そうして怒りながらアンジェリンから離れて行こうとすると、ドリーが急いで追いかけた。                  ドリーは近付きながら朝岡に謝った。そしてアンジェリンに付いて色々と説明をし始めた。朝岡が信じられないと何度も言って、物凄く驚いていた。            ドリーは何度も朝岡に、都会はそうなんだと言っていた。そして自分も最初は信じられなかったと言っているのが聞こえた。朝岡はそれでも半信半疑だった。         アンジェリンは丁度いいからもう帰れると思い、キッチンへ入って行った。ドリーが後ろから声をかけたからコーヒーを飲むと返事をした。ドリーが止めるのを朝岡がかまわないと言った。               アンジェリンは発泡スチロールのカップ入りのコーヒーを手に持つと、キッチンの近くにある出入り口から急いで外へ出た。そのまま寮まで歩いて帰ろうとすると二人がいきなり前に現れた。              朝岡はアンジェリンの態度から諦めて帰ろうとしたかがドリーが引き止めたのだろう。そして丁度カフェテリアの裏に出た所が駐車場だったから、朝岡の車もすぐ近くに留めてあった。                 だからアンジェリンの前に来た二人は尚も車でディズニーランドへ行こうと誘った。アンジェリンが断るとドリーがアンジェリンの腕にしがみついた。            朝岡にどの車か聞いたドリーは、アンジェ リンをその車の方へ引っ張っていこうとした。                  アンジェリンが慌てて離れようとすると無理矢理に彼女は必死にしがみつき、絶対に離さない。朝岡は流石に驚いて口を開けて見つめていた。                だがこうした状況の時、女はかなり凄くて、共犯の男よりも凄い場合がある。ドリーは執念でしがみついた。そして抵抗しながら放す様に何度も言うアンジェリンを、丸で命がけで朝岡の白い車の方へと引きずっていった。「放してよ?!放してよ、ドリー!!」   だがドリーは返事をしない。       浅丘は黙って見ている。その朝岡にドリーが叫んだ。                「朝岡さん!車を回して?!」       朝岡が驚いて見る。           「早く車をこっちに回して?!そしたらアンジェリンを押入れるから!!」      朝岡が悩みながら二人のもつれ合いを見る。「早くぅ?!早く車回して、こっちに来て!!」                朝岡が決心した。何か嬉しそうに、車の方へと歩いて行くのをアンジェリンは慌てふためいて見た。               それで満身の力を込めてドリーを振り払った。本気で押し飛ばすと、小柄なドリーは 突き飛ばされた。幾ら細身のアンジェリンでも、力はあった。白人の血が役立った様だ。それでドリーはコンクリートの地面に転んだ。足を打って、しばらくはそのまま転んだままで、顔をしかめて苦しがっていた。目は真っ赤で、泣いていた。         アンジェリンは近くに寄って様子を見たが、頭は打っていなかったし大した事はない様だったのでそのまま離れると、寮(ドーム)の方向へ歩き出した。           朝岡が振り返り、ドリーが地面に腰を着いて痛がって泣いているのを見ると大声で何度も名前を呼んだ。             「ドリー?!ドリー、大丈夫かぁ?!」   この男は何度も何度も彼女の名前を心配して叫んだ。                そして次にはアンジェリンを後ろから呼んだ。                  「アンジェリン!!」           物凄い声だった。アンジェリンが驚いて振り返ると朝岡が怒り顔で睨み付けていた。  「オイ、こっちへ来い!戻れ?!」     アンジェリンが恐怖で逃げると朝岡も走って追って来た。そしていきなり後ろから飛びかかってアンジェリンを地面に叩き付けると背中に馬乗りになり、腕をねじ伏せた。よくテレビの刑事ドラマで犯人に飛び付いて捕まえる、あれだ!!             そうして暑い中、コンクリートの上に寝かされて顔は横向きで頬は熱いコンクリートの上だ。アンジェリンは慌てて顔を少し上げて頬が地面に着かない様にした。       飛び付かれてコンクリートの地面に両膝を強く打ち、とても痛かった。土曜日の朝でまだ人は周りに誰もおらず、駐車場も車は朝岡のを含めて数台しか無かった。       アンジェリンはショックと怒りとで涙が出て来た。何故こんな思いをさせられるのだ?!コイツラは一体何なんだ?!この男は何なんだ?!自分は私を好きなんだろう?!なら 何故好きな相手にこんな暴力を振るうのだ?!                 しばらくはそのままの状態で、朝岡は無言でアンジェリンの身体に馬乗りに跨っていた。                  するとやっとドリーが立ってこっちへ歩いて来た。馬乗りになった朝岡とアンジェリンの姿を見ると驚いて悲鳴を上げた。     「キャァ!!」              朝岡がドリーに声をかけた。       「ドリー、大丈夫か?」         「うん、大丈夫。」            「怪我してないか?」          「うん、してない。一寸かすり傷がある位。」                「そうか、良かった。」          「ねー、早くアンジェリンを起こして上げて?早く?!」             朝岡がドリーの命令でアンジェリンを起こすと少し離れたドリーの前にそのまま腕を後ろに捻ったままで引きずっていった。    ドリーの前に立たすとアンジェリンに言った。                  「さぁ、ドリーに謝って。」        アンジェリンが呆れ返りながら言った。  「何で?!早く放してよ!!」      「ドリーを押し飛ばしたでしょう?ドリーは怪我したんだよ?!」          「?!、だって放してくれないから!!引きずって行こうとしたから!!」      「だからって押し飛ばして怪我させて良い訳ないでしょう?さぁ、早く謝って。」   「嫌だ!!何で謝らなきゃならないの?そっちが悪いんじゃん?!」         「何が悪いの?悪いのは自分でしょう?」「何が?!だって正当防衛じゃん?放さなかったんだから!!」             朝岡は怒りだした。           「何が正当防衛だ?ふざけるな、怪我をさせといて。」               「怪我ってかすり傷でしょう?そんなの、大した事ないじゃん?!」         「何が大した事ないんだ?自分がやっといて。」                 「自分だって押し飛ばしたじゃん!なら同じじゃん?!なら自分も私に謝ってよ。」   朝岡が一瞬黙ったがすぐに又謝れと繰り返した。                  「さぁ、いいから早く謝れ?!」     「嫌だよ!!」             「早く謝れ!」              そう言ってアンジェリンの腕を上にねじ上げた。                  痛い!!               「早く謝れ!!」            「嫌だ!!」               朝岡は又腕を強くねじ上げて苦痛を与えた。「嫌だ!何も悪くないんだから。」     「なら放さないぞ?謝るまで絶対に放さないぞ。良いのか?」            アンジェリンは周りを見廻した。まだ運が悪く誰もいない。週末の朝なんてこんなものだ。                  それでも誰か周りにいるかもしれない?又は誰かが声を聞きつけて見に来るかもしれない?此処はアメリカだ。アメリカ人は日本人の様な平和ボケは無い。幾ら郊外でも、大学の敷地内だとしても。          アンジェリンは叫んだ。大声で。     「キャ〜!!」、 「キャ〜!!Help me!!」,「Help!!」         誰も来ない。だが、いつまでもこんな所で、外で羽交い締めにして放さない訳にもいかないだろう。次の動きがある筈だ。     アンジェリンは絶対にドリーに謝る気も、こんな男の言う事を聞く気も無かった。こんな理不尽な事に従う必要など微塵もない!! すると、カフェテリアの裏口のドアが開いて、中から人が出て来た。アンジェリンは 希望を含んだ目で急いでそっちを見た。ドリーと朝岡も急いでそっちを見る。     続く.

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