第3話

ハクとその手下二人はアンジェリンを見ると必ず近付いて来ては立ちふさがって何か意地悪い事をしつこく言った。そしてハクは相変わらずアンジェリンを外人外人と呼びまくった。(あの休憩用のスペースでの一件以来、ずっとそうだった。)そしてそれは主に  カフェテリアだがたまにキャンパス内でと、どこででもアンジェリンとかち合った場所 でだった。そしてたまに、彼女がいるかどうかをキョロキョロと探している時もあった。                  アンジェリンには隣室になった千鶴子と  言う異常者で、前回のエピソードに出て来る狐憑きの同い年の娘との問題もあったが、 このハクとその手下二人にも悩まされていた。                  もっとも千鶴子はしばらくするとサンタモニカの英語学校へ移っていなくなったが。 (これは居達さんのの機転が利いた計らいであった。)                  だがアンジェリンは小さな頃から嫌な事や トラブルとは隣り合わせの生活、そうした環境だった為にそうした事には嫌でも慣れていた。だからまだ平気だったのだろう…?だから、彼女はおかしくはならなかった。   又最初の頃にはまだ同室のドリーこと江内 弘子とも仲が良かった。だからドリーも彼女を心配した。              ハクと手下二人がアンジェリンを嫌うのはKBSの生徒なら自然と知る様になっていたからだ。                 だが意地悪い事を言うだけだからと皆は何もしなかった。又彼等も、アンジェリンを気に入っていたり好きな人間、特にそうした男がいると何かを言っても直ぐに離れた。そうして様子を見ながら嫌がらせをする卑怯な奴等だった。                それである時、安藤さんがドームの外で煙草を吸っているのをドリーは見て話しかけた。アンジェリンもその時にドリーと一緒に  いた。                 「安藤さん、何してるの?」       「おお、ドリーか。アンジェリンも。」   安藤さんはKBSでは年がいった方だった。 東京の有名なW大学を出て、自分の会社を 持っていた人で三十代だった。バツイチらしいが今は独りで、会社もたたんでその後は この学校に入った。しばらくゆっくりと海外生活でもしてのんびりしよう、そんな感じでアメリカに来た人だ。          サングラスっぽい薄茶色の度が入った眼鏡をかけて、いつも黒いスーツ姿だった。その 黒いスーツはカリフォルニアには暑苦しい イメージがあった。           「アンジェリン、安藤さんに相談してみなよ。」                 「エッ?」               「ほら〜、ハク達の事だよ。」      「エッ?!いいよー。」         「何でいいの?良くないでしょ?アンジェ リン、困ってるんだから!!」      「何だよ、相談って?」         安藤さんが聞いた。           「アンジェリン、ほら?」        ドリーが急かす。            「うん、だから…。ハクと五味川に加須山が私にいつも変な事を言ってきて…。」   「いつもアンジェリンを虐めるの!!ねー 安藤さん、何でだろう?アンジェリン、だから凄く困っていてね。」         「あぁ、あいつらか!」         安藤さんが嫌そうな顔をしながら言った。「居達さんは知ってるのか?」      「ううん、アンジェリンはチクればもっと やられるから嫌だって言って。」     「まあ言っても大して変わらないだろうなぁ。」                 「だけで何にもしてないんだよ、私。」 「何でアンジェリンを目の敵にしてるんだろう?かわいそうだよ。」           「そんなの、簡単だよ。分からないか?」「何で?!」              アンジェリンもドリーも驚いて聞き返した。                 「いいか?あいつ等は英語なんて丸っきり できないんだから!なのにアンジェリンは できる。そして可愛い。だからだよ。それがあいつ等には面白くないんだよ。だからだよ。」                 「エーッ?!」             アンジェリンが声を上げた。       「嘘でしょ、安藤さん?!じゃあヤキモチ 焼いてるって事?!」          ドリーも驚きながら聞いた。       「そうだよ。」             「だってアンジェリンは女だよ?!」   ドリーが呆れながら言った。       「そんなの、関係無いんだよ!男も女も無いんだよ。男だって女にヤキモチなんて焼くんだから。そんな男、幾らだっているんだから!!」                「何か信じられないけど。」        アンジェリンが言った。         「そうだよ。だってアンジェリンはハーフだよ?だったら英語ができたり可愛くたって、そんなの別におかしくないのに。」    「確かにそうだよ、ドリーが言う通りだよ。そんなの、アンジェリンじゃなくたって  ハーフなら英語が話せたり、可愛いだなんて、幾らでもいるよ。アンジェリンだけが 特別じゃないよ。だけど、そんなのも分からない様な馬鹿なんだよ、あいつ等は!」 「だけど、女ならまだ分かるけど?!」    ドリーがまだ納得できない様に言った。  「だから、男でもそうやって女にヤキモチを焼く様な下らない奴等なんだよ。だから、俺だってあんな奴等は大嫌いだよ!あんな糞みたいな奴等!!」            「じゃあどうしたら良いの?」      アンジェリンが言った。         「気にしなきゃ良い。何か言われても無視 する。それしかない。」         「安藤さん、それじゃあアンジェリンはずっと言われるよ。」            「だけど他に理由は無いんだからな。」  アンジェリンが嫌な顔をしていると安藤さんが言った。               「じゃあアンジェリン、聞くけど。もし今 直ぐに英語が全然できなくなって、それで ブスになったらあいつ等はもうアンジェリンを虐めなくなるよ。そうしたらもしかしたら友達にだってなれるよ。だったらそうなりたいか?」                「エッ?」               「だからもしそうなったらもうあいつ等は 虐めなんか一切しなくなるよ、あいつ等が 気に食わないのはそれなんだからな。だからどうだよ?そうなっても良いのか?」   「嫌だよ、そんなの!!」        「なっ、そうだろう?英語ができて、可愛い方が良いだろう?だったらあんな奴等、どうせクズなんだから。そんな奴等の事なんか気にしてるんじゃないよ?!」       「ああ?!そうだね、アンジェリン?」  ドリーが納得した。           「そうだよ。大体あんな奴等なんて、いつまでも一緒じゃないんだから。たったの一年だろう?一年したらみんな帰るんだから!そうしたらあいつ等は大阪に戻るし、アンジェ リンは横浜だろう?だったら全然近くなんかないし離れた場所なんだから、もうまず一生会う事も無いんだからな!!」      「アッ、そうだね?」          アンジェリンが嬉しそうに言うとドリーも 賛同した。               「確かにそうだ!アンジェリン、ここの学校はたったの一年なんだから。そうしたらもう絶対にあいつ等とは関係なくなるんだもの。」                 アンジェリンは安藤さんの意見を聞いてから気持が軽くなったし、ドリーも彼女の為に 喜んでくれた。             だが彼等はまだまだアンジェリンに対しての虐めを止めなかった。          安藤さんが言ったのは本当だろうが、ハクは他の二人よりも違う気持もあった。居達さんが後から言った事だがアンジェリンも納得した。                  アンジェリンが白人とのハーフで、見た目がアジア人に見えない。だが日本人から生まれているので産まれた時から日本の国籍を有している。だから立場は日本人だ。     だからハクは自分の方が只のアジア人で、 だから見た目も同じ東洋人なのに国籍が  違う。外国人だ。だから日本生まれだが立場は違う。そして自分への差別や偏見がある。そしてアメリカでも、英語が話せて周りの アメリカ人の学生や海外から留学している 学生と、又は大学に働く者達とアンジェリンが楽しそうにしていたり、上手くやっている姿を見て腹が立っていたのだ。      だからやはりヤキモチ、妬みだ。だから執拗にアンジェリンに固執した。       又この男は勘違いもしていた。アンジェリンが金持ちの家の娘で、甘やかされて育ったと勝手に思い込んでいたのだ!!これも後から、本人の口から明らかになる。     ここで、アンジェリンがどんな事を言われてきたかを思い出してまとめてみたい。彼女はそれらを思い出すと、彼等の事を非常に幼稚だと思う…。何故ならこんな内容だからだ。                  アンジェリンが横浜出身だがその横浜は東京の第一の子分で、女房役だとよく言っていた。そしてそんな場所の出身だと言う事。又、話しながら最後にジャンを付けると言って馬鹿にして真似を良くした事。そんな事を言うなら、自分達の訛りや方言はさておいてだ。そうして彼女の話し方や仕草を馬鹿にしたり、誰かと話した内容を持ち出してはその内容を彼女に馬鹿にして話した事。それは 彼女の事を、たまに彼女と話していたKBSの生徒に後から近付いて何を話していたのかを聞き出してからそうしていた事だ。又、彼女が半分白人だから、体臭があって臭いと何度も言ったり、足が太いと馬鹿にしたりした事等だ。                 アンジェリンはいつも身奇麗にしていたし、体臭があるとは思えなかった。又日本では 太いふくらはぎも、欧米では年中足が綺麗だとありとあらゆる男達にどこへ行っても言われまくっていた。(アメリカの他にオーストラリアやイギリスでもそうだったから彼女は逆に面食らった程だ。)          だからハク以外では本当は五味山も加須山も本当はアンジェリンが気になっていたし、 嫌いではなかった。だが英語ができず、一番下のクラスにいたし見た目も背が小さくて 顔も丸で良くない。そして関西弁だ。   だからアンジェリンに普通に話しかけても 相手にされずに馬鹿にされると思った。だが関わりを持ちたい。だからああして虐めるのだろうと言う男子生徒達もいた。     当時のアンジェリンには信用できなかったが、彼等はハク以外はそうだと言っていた。                  五味川と加須山は自分達のボス的存在のハクが毛嫌いしているから、それもあり、便乗して虐めていたのもあったのだろうか。何せ この2人はハクの腰巾着で、彼を恐がってもいた様だ。               ハクは気性が激しくて直ぐに暴力的になり、女にも平気で暴力を振るうしそれを何とも 思わず、むしろ自分よりも弱い相手に安心感と優越感を持つ男だったからだ。とんでもない蛆虫野郎だったからだ。        そう言えば彼等は大阪以外の土地の事も、 アンジェリンの出身地の横浜以外でも悪口をよく言って馬鹿にしていた。東京なんて何とかだ、京都はああだと。神戸や奈良や千葉、広島や九州や北海道はどうだとか、そんな事をよく口走っていた。          だから皆に相手にされずに嫌われていた。 いつも三人だけで、又は五味川と加須山と 二人していた。             そして大学の従業員にも直ぐに嫌われる様になる…。それは誰が見ても呆れる内容だった。それは次回、話そう。        続く…        

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