第2話

アンジェリンはKBSのAからEクラスの中で、Eクラスに属していた。Aが一番レベルが低く、Eが一番レベルが高かった。   だから他のクラスの連中とは普段余り会わない。せいぜいカフェテリアに食事をしに行った時位だ。それか寮(ドミトリー、通称ドーム)の周りで会う位だった。       だが、ハクとその手下達はアンジェリンを 見ると必ず近付いて来ては嫌がらせを言った。それは、必ずだった。        事の発端はこうだった。         カフェテリアのある建物の中に入るとまず 最初に、左手側に本屋がある。大学の教材や辞書や色々な本や雑誌、文房具を売っている。お菓子やアイスクリーム、缶詰めやインスタント食品等もある程度ある。基本ここに行けば何でも揃う。           この本屋の前には広いスペースがある。そこには大きなソファと椅子があり、真ん中には大きなテーブルだ。ソファや椅子の横には 大きな電気スタンドが置いてある台が二つ ある。                 そしてこれらから離れた壁際にはゲーム機が2台ある。当時流行っていたインベーダー ゲームやスーパーマリオだ。       この場所に、KBSの生徒達が招集された。 呼んだのは、日本から皆と一緒に来た責任者の居達(いだて)哲男さん、26歳だ。彼は居達さん、又は(教師ではないが)居達先生と呼ばれていた。まだ若いが切れ者の青年で、アメリカの一流大学を出ていた。だから英語も達者だしアメリカに慣れている。背が高く、スラッとしていて黒っぽいフレームの眼鏡をかけて、いつも殆どグレーのスーツを着ていた。               彼が、まだアメリカに着いて間もない生徒達を呼んで何かの注意や連絡事項をする為だ。生徒達は滞在中にたまにこうして彼に呼ばれた。人数が多いから全員でなく、何クラスかが一緒だとか、グループごとに別れてだとかだったりしたが、そうして呼ばれた。   そしてこの時、まだ居達さんは来ていなかった。本の少し遅れて来たのだが、その彼を 待っている間に事は起きた。       ソファや椅子のその応接セットがある、大学関係者や大学生達の休憩場所に生徒達が集合していた。座る者もいたが大半が立って待っていた。アンジェリンもその一人だ。   まだ居達さんは来ていない。       アメリカに住めて嬉しくて仕方がないアン ジェリンだ。だからその応接セットがある スペースを通って、中のカフェテリアに出入りするアメリカの大学生達を嬉しそうに見ながら、格好良いだとかかわいい男の子がたまに通ると大声で何度か言った。      「わぁ、あの人カッコイイ!」、「あの子、かわいいな!」              するといきなり罵声が飛んだ。      「うるさい!!お前、黙っとれ?!」   アンジェリンが驚いて言われた方を見ると、全身白づくめの、目が細くてつり上がった陰険な顔付きの男が自分を睨み付けていた。 アンジェリンが驚いて顔を見ていると、この同い年位の若い男はまだ続けた。     「俺はお前みたいな女は大嫌いなんや!俺はお前みたいな下らない女は大嫌いなんや! うるさいから黙っとれ、この外人!!」  アンジェリンは腹が立った。       「何なの、あんた?!」         「うるさいわ、この外人!!外人が俺に口 なんか聞くな!!」           誰かが言った。             「おい、止めろよ、ハク。」       「ハク?!」              アンジェリンが言った。         「何だ、自分だって外人じゃん?」    「なんやと、この外人が?!」      「私は外人じゃないの。お母さんが日本人 なんだから。」             「うるさいわ!!外人は外人や!生意気に何俺に口聞いてんのや、このクソ外人!!」 (関東出身なので関西弁が間違えているかもしれないが、要はこんな感じだった。)  「だから外人は自分じゃん?!」     「なんやと〜?!」           ハクは座っていたが、いきなり立ち上がって向かっで来ようとした。それを急いで周りにいた他の男子生徒達が止めた。      ハクが彼等を引き離してアンジェリンに向かって来ようとしたので小競り合いになった。ハクは真っ赤な顔になって、止めた3人の男子達ともみ合った。3人は必死で止めた。 ちなみに、この止めに入ったのが九州の男が2人でもう一人は東京の男だった。一番最初に止めに入ったのが、ハクの近くにいたからもあるだろうが、九州出身の20代の男だった。                  そうしてやっと何とか収まり、ハクは抵抗するのを止めた。だが、まだ外人のクセにどうのとしつこく言っていた。        周りは皆、驚いたり呆れたりしていた。それを喜んだり、ハクに同情したりするのはハクの手下の二人と一部の大阪の女達だった。 そうしていると居達さんが来て、話をし始めた。                  このハクも手下二人も、ヤクザかチンピラの様な風貌だった。そして大阪の女達もまだ若いのに厚化粧で、長い髪はジリジリにパーマをかけていたり金髪に染めていたりで、服装は普段着だがカラフルでド派手で、下品な場末のお店のホステスか何かの様だった。  ちなみに彼女達の大半が(大阪の人間は割といたが)、アンジェリンをやはり嫌がった。                  一つ、面白い話がある。彼女達はアンジェ リンに対しては嫌味を言ったり馬鹿にした言動をよくしていた。顔が外人で面白いだとかを言ってだ。そうした事を本人に平気であからさまに言った。そしてアンジェリンが適当に交わすといつも悔しそうだった。    関西人でも、京都や奈良の人間も何名かいたが彼等はそうした事をしなかった。    だからアンジェリンは生まれて初めて、悪い大阪人達の毒牙を山の様に経験するはめになる訳だが…!!             そうだ、その面白い事とは誰か違うクラスの女の子に聞いた話だ。その子は確か千葉か埼玉の出身だった。            自分が3人位で話をしていた。その中の一人が大阪の女の子だった。そして彼女はアン ジェリンを快く思っていなかったのでアン ジェリンがいない所でも噂したり悪口をよく言っていた。だからこの時もこう言ったそうだ。標準語として書こう。        「ねー、アンジェリンっていつも話す時に ジャンジャンって付けて話すよね?最近チョット横浜が流行ってるからって真似しちゃって、凄く馬鹿みたいだよね〜?!」    当時テレビでは、確か横浜の餃子、と言う冷凍食品の餃子のコマーシャルを流していた。可愛い若い女の子がその餃子を電子レンジから出して一口食べる。そしてこう言う。 「美味しいジャン!」、と。          そのせいで、横浜の人間の様に文の最後に ジャンを付ける話し方が巷で少し流行ったみたいなのは聞いていた。         今なら当たり前に皆そう話しているが、昔はそうでもなかったのだろうか?この話し方は、本当に大阪の、又は極一部の地方出身者の若い生徒達にアンジェリンは馬鹿にされていた。只の意地悪で、あら探しだったのかもしれないが…。             「ああ、そういやそうだね?」      もう一人も同意したらしい。       それで、後からアンジェリンにそれを話した子がこう言ったそうだ。         「あの子、横浜だよ。」         「エッ?!」              その大阪の女の子が驚いて口をあんぐり開けた。                  「だってあの子、横浜出身だよ?」    「嘘?!東京とかじゃないの?」     もう一人が聞いた。           「違うよ。あの子、横浜だよ。だからハーフなんだよ。あっちはアメリカ人とのハーフが割といるんだよ。米軍基地があるから。」 ガーン!!その大阪の娘はショックを受けた。せっかく悪口を言おうとしたのに!! 言って色々と盛り上がろうとしていたのに。彼女はそれに付いてもう一切何も言えなくなってしまった。そして、鳩が豆鉄砲を食らった様な顔をしていたそうだ。         横浜の人間の話し方を真似していると言って馬鹿にしようとしたのに、その相手がその 横浜の出身者だったのだから。生まれも育ちも横浜だったのだから、そうした話し方をしても当然おかしくないのだから仕方が無い。だからアンジェリンはそれを聞いた時に思わず笑ってしまった。教えてくれた子もおかしそうに笑った。             さて、ハクについて戻ろう。ハクは何故アンジェリンを毛嫌いして外人外人と叫んだのだろう?!それは紛れもなく、自分が外人だったからだ。彼は大阪生まれの、生粋の在日朝鮮人か在日韓国人だった。        そしてこの事が彼を非常に悩ませていた。 だから、警察に言えば犯罪者として捕まる事をアンジェリンにしたし、犯罪未遂の事を アンジェリンと居達さんにその後するのだ…。それらは複数で、ニ回目は例の手下二人も引き込んでだった。         ちなみに、アンジェリンはハクとその手下にレイプされていない。そうし卑猥な内容ではないが、未遂に終わった件が未遂でなければされていたかもしれない。        何故なら、彼女はハクとその仲間二人に、 カフェテリアに夕飯を食べに行ってから戻ると、ドーム近くで待ち伏せしていた彼等に 寄って車で連れ去られようとした事実があるのだから!!              その内にその話にも進んで行こう。だがその前に、次回はハクのアンジェリンに対しての心境についてもう少し詳しく話したい。

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