第26話

居達さんはハァハァ言っていて、そしてハクの両親も悔しそうに黙っていた。     食事を終えた野球帽の青年も唖然としながら立って見ていたアーレンも、様子を見て安心すると離れて行った。アンジェリンだけが側にいた。                「じゃあ、行こう。」           居達さんがやっと声を出した。      ハクは居達さんと父親とに引っ張られて行きながら、悔しそうに頭をアンジェリンの方へなんとか向けた。            「お前のせいや!!みんなお前のせいや〜!!」               アンジェリンが黙ってハクを蔑む様に見つめると、父親が息子を慰める様に言った。 「おい、合の子なんか相手にせんでええ!もうこんな所におらんで、さっさと家に帰るぞ?」                 するとハクは少し元気を取り戻して、嬉しそうに返事をした。            「そやな?あんな合の子!!」      アンジェリンは呆れ返った。元は全て自分が悪いのだろう?!            全く、この親有りてこの息子有りだ!!だからそう思いながら、大声でこう言ってやった。                  「朝鮮人、撃退!!」          父親もハクもピリッとした。母親もすかさず,嫌そうな顔をした。         そしてその言葉を聞いた瞬間、居達さんがわざと大声で笑って、アンジェリンの味方をした。                  「アハハハハハハハ!!」        父親が居達さんを驚きと悔しさで一瞬見た。居達さんは知らんぷりして、そのまま前を向いていた。               父親は仕方なさそうに黙っていた。だって自業自得だろう?先に言ったのは誰だ?!  そしてハクを居達さんと父親が両腕を抑えながら、母親が後ろを歩きながら、四人は食堂の出口へと歩いて行った。        アンジェリンは急いで居達さんの後ろ姿へ声をかけた。               「居達さん!行ってらっしゃい!!」   居達さんは黙って、ハクを連れて歩く。  アンジェリンがもう一度、心配そうに声をかけた。                 「気を付けてね?!」          「おう!!」              居達さんがしっかりと、低い声を出して返事をした。                ハク達は食堂から出て行った。      これから外の駐車場に停めてある居達さんの車に乗り、ロサンゼルス空港へと向かうのだ。両親と共に、大阪へ戻る為に。

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