第29話
ジュディスは元は、高校を中退した人間だった。ドロップアウトと呼ばれて、アメリカにはこうした者がとても多い。彼女もその中の一人だった。 だが彼女は後からは高校卒業の資格をなんとか取り、大学へ進んで卒業した。そして英語を教える資格も得ていた。 そして彼女には、大学生の時に付き合った男との間に子供が一人いた。小学生で、10歳位のラナと言う娘がいた。 この娘を、本人の希望か否かは分からないが、ジュディスは将来女優にしたいと思っていた。ラナは割と可愛らしい顔をしていたからだ。だが、アンジェリンよりは器量が落ちた。 年は違ったが、アンジェリンはラナを見た時に全てを把握した。ある週末に、大学のキャンパスヘジュディスがこの娘を連れて来たからだ。自分が働いている場所を見せてやる為に連れて来たのだ。 その日、ドリーが興奮しながらアンジェリンをしつこく誘った。今日、ジュディスが娘のラナと言う子をを連れて来てキャンパス内を見せると。自分はジュディスが好きでよく話しかけている。だからそれを聞いたから、是非行って話をしたいと。何時頃にはカフェテリア付近に来る筈だからと。 アンジェリンは乗り気ではなかった。前にも、朝岡の件がある。又同じ様な事をドリーにされたらかなわない!! それと、彼女はジュディスが苦手だった。何故ならカフェテリア付近でたまにすれ違ったり、ドリーと二人でいた時に、ドリーがジュディスに気付いて声をかけて挨拶をする。 そして嬉しそうに話しかける。なのでそのどちらの時にも自分が挨拶をすると、必ず無視されたからだ。 ドリーが話しかけるから自分も仕方ないから会話に入ろうとしても、自分の事は無視する。絶対にだ。そうした、嫌な態度をする。 目は冷たくて、睨みつける様な目付きで見る。だから、ジュディスと口を聞いた事は一度も無かった。 でも一体何故なのだろう?!アンジェリンは不思議に思っていた。何だか酷く嫌われている様だからだ。 だが、やっと理由が分かった!ラナを一目見て、直ぐに理解した。あぁ、この人は私に嫉妬しているのか、と。娘の事を自分と比べて。 ジュディス自体は白人にしてはそんなに大きな方ではなかった。だがスタイルは良かった。三十代前半だろうが、引き締まった若い身体をしていた。 アンジェリンのクラスを教える、やはり三十代のタニアは割と肥えていたが、そんな風ではなかった。 そして彼女はいつもぴちぴちのジーパンを履いていたし、赤毛の髪は長く伸ばしてきつくパーマをかけていてチリチリだった。 顔立ちは綺麗ではないが目が野生動物の様にギラギラしていた。肌は白いが紙の様な白さで、ガサガサした様な感じに見えた。 彼女はハッキリ言えば、アメリカ映画によく出て来る、道に立っている娼婦の様な感じだった。あばずれ、と言う言葉がしっくりいったかもしれない。 このジュディスが、娘のラナを女手一つで育てていた。それはアンジェリンの境遇にも似ていた。 ラナはジュディスには似ていなかった。黒褐色の真っ直ぐな髪に真っ黒い瞳で、肌もジュディスの様な、不健康そうで、丸で画用紙みたいな白さは思い浮かべなかった。 ラテン系の、メキシコ系の血でも混じっているかもしれないと、アンジェリンには思えた。 とにかくジュディスはその娘の器量で、芸能界に入れたいと強く考えていた。(これは後からドリーがジュディス本人から聞いた事だ。) ラナは大人しそうな顔立ちで、見た目が とっぽくて生意気そうなジュディスとは対象的だったから、本人もそうした事を将来したいと考えていかは疑問だったが。 結果アンジェリンはKBSにいた間中、一度もジュディスと口を聞いた事がない。彼女は アンジェリンを見る度に必ず最初は嫌そうな冷たい目で睨みつけて、次には完全に見ない様にしていたからだ。そしてこれは最後まで続いた。 ジュディスは居達さんに言われて一度クビにもなっている。だが直ぐに謝りに来て彼にしつこく謝罪をした。どこも雇ってくれないから、仕事が無いから頼むから又雇用してほしいと懇願した。 そこで居達さんは条件を出した。3ヶ月間様子を見る、つまりトライアル期間を与えると。それをちゃんとにクリアできたら又正社員にしてやるからと。 彼女は、約束を破ったから、怒った居達さんにクビにされたのだ。だから彼女はそう言われて、直ぐに飛び付いた。内心は試し期間など嫌だっただろうが、選べる余地はなかったのだ。 ジュディスがクビにされた理由はこうだ。 居達さんは朝岡の件をミーティングで教師達へ話した。具体的には、秘書のジャスティーンに英語で細かく話させた。 朝岡がアンジェリンに色々としつこくしていた事を話して、それは犯罪行為だと言った。だから邪魔ができない様に、各教師達全てに伝えた。これからは毎日必ず宿題を出す様にと。そうすれば、朝岡もそれをしなければならないから大人しく戻って、暇が無くなるだろうから。 朝岡のクラスだけに出す訳にいかないし、他のクラスの教師でも2つのクラスを交互に教えている者がいる。ジュディスも朝岡やドリーのクラスも教えていた。 教師達は朝岡に付いて聞かされると半信半疑だった。誰も信じられなかった。 只一人、中年の男教師、ハーバートだけは何とか信じた。同じ男だから理解はできた様だ。 だが居達さんと、居達さんにしっかりと説明されていたジャスティーンにより、女の教師達もついには信じた。彼女達は物静かで見た目も悪くない朝岡が、(今では普通に言う)ストーカーをしているのが最初は中々信じられなかったのだ。 結果教師達は皆、次の日に早速クラスに宿題を出した。そして毎日出し始めた。 だがジュディスだけはしなかった。彼女は宿題を出さなけば朝岡が又アンジェリンヘ何かをしに行くと思ったのだ。それを期待したから出さなかったのだろう。 だから朝岡はそのミーティングの翌日に、又寮のアンジェリンとドリーの部屋へ当たり前にやって来た。 アンジェリンは朝岡を見て大変に驚いた。 ドリーに宿題が無いのかを尋ねると、そんな物は無いと言われた。 彼女はその日、ジュディスがドリーのクラスを教えると聞いていた。そして居達さんにも、朝岡へは(あの日、Cクラスの皆の前で)きつく注意をしたし、ミーティングでこれからは毎日宿題を出すと決めたので、あいつももう部屋には来られないと言われていたから、大変に驚いた。 朝岡はその日も無理矢理にアンジェリンを連れ出そうとして色々と下らない戯言を言って脅かした。だがアンジェリンはセキュリティーに言いつけると言って強く跳ね除けて、何とか返した。 翌日カフェテリアにいると居達さんが話しかけて来た。 「なぁ、朝岡はもう邪魔しに来ないだろう?」 アンジェリンは呆れながら答えた。 「ちゃんとに来たよ!!宿題なんて出されてないってさ!本当に凄く驚いたよ!ドリーに聞いたら、そんな物出されてないって言って逆に驚いてたよ。嘘かと思って又聞いたら、笑い出したよ。アンジェリン、何言ってるの〜?!、なんて言って。」 居達さんは驚いてアンジェリンの顔を見つめた。 「お前、それ本当かよ?!」 「本当だよ!」 「昨日は誰だよ、あいつら教えてたのは?!」 「ジュディスだってさ。」 「ジュディス?あいつか〜?!」 居達さんは大声を出した。顔が赤くなり、 激怒していた。 「何で俺の言う事聞かねーんだ?!そんな事すりゃあ、又朝岡が行って変な事したらどうすんだよ?!」 そしてアンジェリンに強く約束をした。絶対に二度とそんな事をさせないと。 今度こそ必ずジュディスにも宿題を出させるし、朝岡を絶対に行かせないと。朝岡には、行かない様にきっちり命じると。ドリーにも、万が一行って、例えどんな事を言われても絶対に朝岡を中に入れない様にと。 そして次の日のミーティングで物凄くジュディスを叱った。ジュディスは言い返したので、居達さんは彼女を罵倒した。 「お前みたいな年の女には誰もそんな事をしないから分からないんだろう」、と言った。「若くもない、つまらない年増の売春婦に見えるババァには」、と言った。 ジュディスは怒り狂い、辞めてやると言うので、「お前みたいな役立たずはこっちがいらない。お前はクビだ!」、と彼は叫んだ。 ジュディスは怒りながら出て行き、居達さんは側にいたジャスティーンに辞めさせる手続きを取る様に言い渡した。 こうしてジュディスはクビになり、辞めたのだか…。ラナを育てながら生きていく為には直ぐに又職を探さなければならず、中々見つからなかったらしい。 だから恥をを忍んで居達さんに泣きつき、最初は断っていたが、余りに下手に出ながら頼む姿に渋々折れた。又違う教師を募集して入れるよりも、もう慣れた人間の方が楽だったからだろう。 こうしてジュディスは戻り、それからはドリーも部屋で宿題をする様になった。当然朝岡も同じだ。 取りあえずはアンジェリンに、朝岡からの毒牙は収まった。
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