第8話

居達さんは日本に電話をかけて相談をした。直ぐ上の上司の黒岩さんは前編に出てくる、人が良い中年男性だが、彼に聞いたのかその他に聞いたのかは分からない。      だが彼はとにかく上司に事の成り行きを話した。そしてそれならとりあえずは見過ごして、そのまま置いておこうと言われた。恐らくは改心しただろうからと。       居達さんは凄く嫌だったが仕方無く従った。だかこれは甘かった!!彼等は殆ど変わらなかった。人間は、やはりそんなに簡単に変われるものではないのだから。       只、授業には普通に出る様にはなった。そしてその中で、下らない言動もしなくなった。だが、食堂=カフェテリアでの注文の仕方も怒鳴らなくはなったが、やはり偉そうには 振る舞っていた。            アンジェリンへの態度は、ハクを抜かしての二人は彼女がいても見て見ないふりをする事も多くなった。だがそれでも、特にハクが いる時には相変わらずアンジェリンに近付いて来ては嫌がらせで下らない事を言った。 ハクは相変わらずアンジェリンを目の敵にして毛嫌いしていたからだ。内心はアンジェ リンへの激しいヤキモチや引け目、羨望でだ。                  自分とは何も関係が無いし、何も同じ国の血は流れていない。性別も違う。だがそんな事を分かる様な頭や気持は無かった。そんな 余裕など持ち合わせて無かった。この男は嫉妬でアンジェリンを憎みきっていたのだから。                  世の中にはそうした人間が存在いる。テレビのニュースでたまに見る、例えば子供を虐待して殺す男(女)がいる。そしてハクもそうだった…。               ある時、アンジェリンが食堂へ向かおうと すると、ハクと五味川に加須山がいた。彼等は彼女を見ると又近寄って来て嫌がらせを 言った。                こうした時にアンジェリンは何かを言い返したり、呆れて嫌だから無視したりしていた。だが、どちらも無益だった。何故なら奴等は彼女が女なのでナメていたからだ。    ハッキリ言えば男に、特に複数の男に女一人が普通は手も足も出ない。何かを言えば腕力を使うからだ。又、複数いれば誰かしらが何かを必ず言い返せる。          彼等は当然それを熟知していてそれを逆手に取っていた下衆な奴等だ。だからこの時も アンジェリンはハクに又、外人外人と馬鹿にされながら、自分などがこの英語学校のKBSにいてはおかしいから早く辞めて出ていけ、目障りだと何度も言われた。       アンジェリンは英語は一番上のクラスで、 その中でもずば抜けてできた。だからこうした学校に入ったのも、アメリカに住みたい一心で、アメリカの大学に入る為の英語の試験のTOEFLを受ける為だ。この学校でならその勉強もできるし教えてくれるからだ。   そして彼等は努力も何もせずに、皆に嫌われる事をしているクラスの落ちこぼれ達で、教師達に持て余されている。ましてや何もしていない女の自分を虐めて、それを楽しみにしているクズにそんな事を言われる覚えは何もない。                又、混血だから国籍は生まれながらに日本人の自分がこの学校にいても丸でおかしくは ない。もし駄目なら、ハクは唯の外人で外国籍なのに、その自分も入っているのだ。     だから外人が駄目だと言うなら自分こそがいち早く辞めて出て行け、それが筋だろう。 だが今のアンジェリンにはよ〜く分かる。当時まだ20歳になるかならないかの彼女にはまだ分からなかったし、どんな人間でも誠意を示せば何とかなるし分かり合えると思っていた。馬鹿で間抜けだが打算的な母親と、それに輪をかけた祖母にわざとそうした、無駄で愚かな教えを叩き込まれてしまっていたからだ。                 だが今はハッキリと理解している。世の中にはこうした連中の様な、どうしようもない クズがいる。そいつ等は相手に寄っては上手く接しているが、中身は最低のクズだ。  そんな奴等には何かまともで当たり前な事を言っても無駄だし、聞いて馬鹿にして笑うだけだ。言った理屈がもし理解できても、相手を嫌いならそのまとも意見や考えを否定して握りつぶす。そしてもし痛い思いをして思い知らされても、人間性は何にも変わらない。やはり下衆な蛆虫共だ。         だからこの時もアンジェリンが何かを言い返しながら離れてカフェテリアの中に歩いて 行くと、ハクが逆上して怒った。そして何かを言い返しながら、自分が言い終わるまでそこを動くんじゃないときつく命令した。  アンジェリンは呆れ返りながら、そのまま前を向いて歩き出した。          するとハクが「待て〜?!」、と顔を真っ赤にしながら怒鳴って追いかけて来た。そしていきなりアンジェリンの腕を掴んだ。そしてもう片方の手を拳にして彼女の右胸の少し上を物凄い力でどついた!!(後からは、大きな黒っぽいアザになっていた。)      アンジェリンはその痛さに呻いた。だがハクはまだ止めなかった。掴んでいる彼女の腕を後ろに強く捻った。そしてもし抵抗したり騒いだら、腕を折るからとアンジェリンの顔を睨みつけながら言った。物凄く興奮していた。                  アンジェリンはその血走った、憎しみのこもった細い目を見て恐怖を感じた。この男は本気だ?!これは気狂いだ!!       だが、何とか言った。          「そんな事したら、警察を呼ぶから!」  するとハクはこう答えた。        「ああ、呼べよ?!俺はな、お前を殺した 方が、警察に行くのなんかよりもよっぽど 良えんや!!」             アンジェリンが目を見開いて驚いた。普通なら、警察に行くのなんて誰だって嫌だし困るだろう?!              「本当に言うからね、何かしたら?!」  「言えよ!!俺はな、お前なんか殺した方がええんや!!お前を殺して警察に捕まる方が、よっぽど嬉しいわ!!」       「あたしがあんたに何かしたの?してない じゃん?!」              「うるさいわ!俺はお前なんか大嫌いなんや!分かったか?!」          そうしてハクはアンジェリンに、抵抗したり騒いたら本当に腕を折ると言った。脅かしでもあるが、本当にしただろう。あれは本気の目付きだった。             それでアンジェリンは黙った。そのままハクの顔を見つめていると、この気違いは思いっきり力を込めてアンジェリンを床に叩き落とした。                 「ウワァ!!」             アンジェリンは思いっきり背中を床に叩きつけられて激痛が走った。頭はそれでも、背中が先だったし、床はカーペットが敷いてあった。                  「ザマミロ、外人!!」         ハクは嬉しそうに言って満足するとアンジェリンから離れて行った。         流石にこの様子を黙って見ていた五味川と 加須山は呆気に取られてアンジェリンの様子を心配そうに見た。ハクに対してやり過ぎだと思ったのだろう。           アンジェリンは直ぐに起き上がれずにそのままそこに寝ていた。運悪く、時間が中途半端だった為に周りには人がいなかった。いたら幾ら超乱暴者のハクでもそこまでしなかっただろう。他人の顔色を上手く見るのも得意な奴だったからだ。            その時にやっと一人の日本人の女の子が入ってきた。アンジェリンが床に倒れているのを見た。                 「アンジェリン?!アンジェリン、どうしたの?!」                驚いてそう叫んだ。           これがまず第一に、ハクがアメリカでやった犯罪行為だ。何もしていないアンジェリンに、同じ日本から来て自分と同じ英語学校に入り、皆現地の人間と上手くやっているのが気に触った。半分白人と半分日本人で、見た目がアメリカ人の様な彼女に。自分は在日 コリアンだから丸切りアジア人の外見だ。 なのに自分よりも見た目が日本人でないのに、自分には無い日本国籍や日本での権利が普通にある。それがどうしても許せなかったらしい。                そしてアンジェリンがもし男なら、そうして腹が立ってもそこまで虐めや暴力はできなかっただろうが彼女はそうではない。女だ。 だからここぞとばかりに、その悔しさや辛さをアンジェリンにぶつけた。       だが、目には目をだ。          ハクはこれからもまだ悪さをして、アンジェリンを狙った。又もや懲りずに犯罪行為をしようとして、手下二人を連れて。     だが、結論を言えば自分も床に叩きのめされて、日本へ連れ戻されるのだ…。

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