第47話

典子の父親が叫ぶ。           「何をさっきから人の娘を馬鹿馬鹿言うてんだ!!」                「何だぁ、お前?!馬鹿だから馬鹿だって 言ってんだろう?」              「なんやと~?!」           「馬鹿だから馬鹿だって言って何が悪いんだよ?!お前、聞いてなかったのかよ?!お前の娘が、そのアンジェリンって言う混血の 生徒に手錠なんかかけて、その子を毛嫌い している奴の所へ連れて行こうとしたってのを。」                  父親が返事をしないで少し怯む。     「そいつはハクって言う男でお前らと同じ 大阪の奴で、まだ19なんだよ!アンジェ リンと同じ年なんだよ。そしてそいつは在日だから、韓国人で日本人じゃないから、あいつの事が悔しくて仕方ないんだよ!あいつがアメリカの血が入ってるのに日本の国籍が あって、全て日本人と同じ扱いを受けるからだよ。顔が日本人に見えないのに、自分の方が日本人に見えて分からないのにパスポートは日本じゃないし、自分の方が外人扱いされるんだからな。しかも顔もあいつの方が誰が見ても良いし、そいつは丸で良くないんだから。だから嫉妬して憎んでるんだよ。そいつの子分みたいな、18の大阪の奴等も二人 いて、そいつらもそいつに媚びを売って、 後は面白いからって一緒になって、年中外人だとかそうした下らない事を一緒に言ってるんだよ!分かったかよ?それをお前の娘も そいつに味方して苛めようとして、下らない事をしてたんだよ!!」                 典子の父親は困り顔で黙っている。    「だけどこいつも反省してないし、親のお前もそんな態度なら、俺はもう警察を呼んで やるよ!こいつがやったのは未遂だけど、 犯罪だからな。」               典子と両親が焦った顔になる。母親ももう 下を向いていないで、目を丸くして居達さんを見ている。               「ちゃんとに証人はいるからな。なあ、   亜紀、良枝。」               亜紀と良枝が驚いている。        「良いか、お前らが証人になれ。お前らが 言った事を警察に言うんだ。こいつが手錠を買ってアンジェリンに付けようとしていた事を。お前らにも協力させようとした事を。 だけどそんな事に巻き込まれるのが嫌だし 恐いから、俺に言ってきたんだものな。あいつの事も、何もしてないのにそんな酷い事を 出来ないって言っていたよな。」            二人は黙っている。           「良いか、今から警察に電話をして来てもらう。だからお前らは証言するんだ。嫌なら、お前らの親を呼んで来てもらう。こいつを 帰した後に、次はお前らが日本へ帰る番だ。」           「私達は何もしていません!!」      亜紀が急いで言った。             「しただろう?最初に三人でアンジェリンを苛めただろう。典子が言い掛かりを付けたら、一緒になって何か言ったよなぁ。あいつが離れて行こうとしたら、取り囲んで行かせなかったよなぁ。」             「そ、それは!!」             「何だよ?嫌なら何で協力したんだよ?何故止めなかったんだよ?」            二人が黙っていると、居達さんはもう一度 警察に証言する様に言い、自分も通訳するが警察にもちゃんとに日本語が出来る人間が いるから大丈夫だと言った。そうして承諾 させた。                  すると父親が急に弱々しい声で泣き付いて きた。                  「お願いです、待って下さい!!」     母親は泣きべそをかいている。       「何だよ?」               居達さんがぶっきらぼうに言う。     「お願いですから、警察だけは…。」    「ふざけんなよ。あんな態度をしといて。」  「すみませんでした。」          居達さんは返事をしない。        「すみませんでした。本当にすみませんで した。」                  父親は頭を下げながら、ペコペコと何度も 謝っている。                  居達さんが強気で言った。        「良いかぁ、お前の娘は犯罪を犯すところ だったんだよ!本当にそんな事をしてたら、 もう今頃は捕まってるんだよ。今だって警察を呼べば、連れて行かれるんだよ。それを、こっちは只帰すだけで許してやろうって言ってるんだよ。うちの学校は許すってな。なのに、なあ、お前それを分かってるのかよ?!」                「はい、分かっています。本当にすみませんでした。申し訳ありません。申し訳ありま せんでした。」                   父親が必死で謝る。           少しの間、沈黙があった。         「分かりました…。もう良いですよ。」    「ありがとうございます!!ありがとうございます。」                 三人の顔は安堵の表情に変わった。    居達さんは亜紀と良枝にもう下がって良いと言い、唖然としている二人を部屋から出した。                  それから彼は帰る日についての軽い打ち合わせをした。そして部屋を出て、両親をホテルへ連れ帰る事になり、台の上にある手錠を 見ながらどうするかを聞いた。             「捨てて下さい。」            父親はそれを嫌そうに一瞥すると、小さな声で答えた。                「そうですね、その方が良いです。こんな物が空港で見つかれば、面倒な事にになるかもしれませんからね。」           父親はそれには黙って無視した。     そして部屋をを出る前に、居達さんが付け 加えた。                 「あの、それから僕から一つお願いがあります。」                  両親が怪訝そうに居達さんを見た。     「これから先絶対に娘さんを独りで、で  な きゃ友達とも、海外に、欧米には行かせないで下さい。必ず行くならご一緒されて 下さい。でないと次には只では済まなくて、本当に警察の世話になる様なトラブルが起きるかもしれませんから。」              典子の父親は思い切り嫌な顔をして横を向いた。典子と母親も居達さんを見ないで横を 向いていた。                 「さあ、では行きましょうか。」        居達さんが快闊に促した。                       

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